表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

第十一話・閑話「ネイラータの籠絡作戦」

─魔導歴1924年8月17日─

 あの日の、夕刻より少し早い時。

 ネイも会っておけ、必ずネイの味方になるからとお父様に言われて来たロズワント上の中庭。

(どういう方なのかしらね)

 正直なところ、聞いていた話から、彼、オルハ・ルナ・ゼスルータと会うのはためらっていた。

「彼は危険ですよ、悪者は全員極刑が当然ってな感じで」

 それがクラウン、道化師という意味のコードネームを持つ諜報員に事前に調べさせた経歴を、一言でまとめた結論であった。

 幼少期に妹であるオルハ・ルナ・ミアが誘拐、のち奴隷とされローズウェル王国にて餓死。

 しかも誘拐犯は裁判の際、一度はミアの恩情により減刑されたのだが、二度目を犯しゼスルータにより森の中で銃殺されている。

 以来人間族を恨んではいるが、奴隷犯罪と関係の無い者、特に子供や赤子は傷つけず、むしろ菓子やバルーンをあげたりと、意外と優しい一面もある。

 が、姉であるオルハ・ルナ・フェルリアや自身を奴隷にしようと襲って来た奴隷商の雇われやギャング、マフィアといった犯罪者には無慈悲だ。特にフェルリアが襲われれば、例えそいつが犯罪組織の末端であったとしても、その組織に属する全員を虐殺し、その映像を裏社会に流している。

(‥‥‥肝が冷えるわね)

 クラウンが警察から得た映像を、見ない方が‥‥‥と言われつつも確認した際、ネイラータは絶句した。

 何せ末端の者ですら機関銃による銃殺刑。幹部やボスに至っては手榴弾の安全ピンを抜き、それを転移魔法で胃に入れたり、あるいは自作した巨大プレス機で押し潰したり、挙句ベットに縛り付け、その頭上から戦車砲を叩き込みその肉体を無残にぶちまけさせたりと、とにかく想像するだけでもおぞましい虐殺の数々。

 ただ彼も好きでやっている訳ではなく、奴隷商からの襲撃という面倒事を避けようと自身の種族を精霊族と偽り変装してみたが、無意味だった。

 マフィアやギャングとの交渉は門前払い、警察に通報しても役に立たず、最前線以外では何度も何度も何度も姉弟とその母を誘拐しようと襲撃が繰り返される。

 それに堪忍袋の緒が切れたゼスルータが見せしめに始めた訳だが、映像を流しても襲撃が止むのは長くてひと月程。ゼスルータもゼスルータだが、犯罪者というのはとことん馬鹿な様だ。

「‥‥‥特徴が分からないわね」

 映像には彼の姿は映っておらず、声も変声されている。姿や声が露呈すれば、襲撃が余計に増えると警戒しているからだそうだ。

 でも、若いとはいえ、美しくてもきっと恐い悪人顔に違いないと思っていた。

 ‥‥‥ゼスルータに直接会うまでは。

「私はオルハ・ルナ・ゼスルータと申します。皇女殿下にお会いできて光栄であります」

 慣れ切っていない敬語と共に敬礼する彼を見て、ときめいた。

(エッ!? カワカッコいいわ!!)

 エルフ族だと聞いていたが、それにしても美形で、サファイアの如く透き通る瞳と、手入れが行き届いた長髪に中性的な顔立ち。男であると聞かされていなかったら少し背の高い幼女だと勘違いしていただろう。

 そう、ゼスルータは男性としては背が低く、ネイラータよりも少し低いのだが、それが彼女の心にどストライクだったのだ。

(‥‥‥絶対にものにしてみせるわ)

 凶暴な猛獣ほど手懐けがいがある。

 そう決意を固めた時に、タレックという愚か者がヴォーロルルを人質としながら襲撃して来たのだが、彼女を救出した上であっけなく瞬殺してみせる。

(冥焔といったかしら? いえ今のはそう見せかけた幻影魔法ね。冥焔とは異なるから、実質無詠唱で魔法を発動したことになるわね‥‥‥)

 魔法使いとしても少なく見積もっても賢者並みかそれ以上。更に宙軍の将としても優秀であるからして、堕としがいがあると上機嫌になっていたところに、ヴォーロルルが水を差す。

「私と付き合ってください!」

(突然何告白しているわけ!?)

 初対面では? と思っていたが、どうやら命を救ってくれた恩がヴォーロルルにはあると、直後に赴いた月面基地で知る。

「4年前私はルータさんとエヴァンさんに助けて貰った事があるんです。特にルータさんは本当に命を賭けて助けてくれたんです! 怪我の事はエヴァンさんから手紙で知りました。それでもルータさんのことが好きです。好きになりました!」

(道理でね。‥‥‥なら、あなたはこれからは敵よ!)

 敵愾心を心の中にしまいながら、ネイラータは策をめぐらせる。

 ゼスルータとの既成事実を作る。それを目標とした策を。


―南アフリ到着直後―

 その策も、南アフリ到着後に接触したクラオンに案を考えさせると、「アダルト本だとエッチな薬を飲ませるとか? 彼には勘づかれるでしょうが」と返ってきた。

 それに対しネイラータは「良いわね、それでいくわ」と即答。クラオンの驚き固まった表情といったら、思わず吹き出しそうになるものであった。

「あの、本気で実行するので‥‥‥?」

 ゼスルータと面会した翌日にクラオンを呼び出し、例のモノを差し出させる。

「当然よ。戦争でも恋愛でも、先手必勝は鉄則なのだから」

「その通りでしょうが、あー何と言いますか‥‥‥そんなに焦る必要あります? オドアは最近もキレまくってるのを見ても、上手くいっているのは察せられますし」

「だからこそ、チェックメイトを刺すのよ」

 彼に用意させた、それぞれ別の液状の薬が入った小さなガラス小瓶がふたつ。

 これを使って、必ずゼスルータを私のものにしてみせるわ!!


―魔導歴1924年11月25日―

 時は来た。ハムルーツとその一帯での大会戦が終結し、報告書などの事後処理を行っているゼスルータだが、今日の夜はゆっくりと睡眠を取ると言っている。

 それこそ二つ目の既成事実を作る好機! そう、この為に媚薬を取り寄せたのよ。

(まずは角砂糖に数滴垂らして‥‥‥)

 ゼスルータはとにかく警戒心が高い。飲食物を摂る際は必ずこっそりと、瞬時に鑑定魔法で毒物や睡眠薬の類がないかを確認している。

 彼曰く、「奴隷商相手に用心しない馬鹿は死んだ方がマシ」という。

(次はルータのコーヒーカップね)

 なので、別々に鑑定しても危険物判定されないが、胃の中で混ざると媚薬になるという、白と透明の、特殊なふたつの薬を集めさせたのだ。

 それを白いものは角砂糖に垂らし、透明なものはゼスルータは使っている黒いマグカップの底に塗る。

 ゼスルータはいつもコーヒーを、ベッドから起きて任務に就く直前と、おやつの時なら談笑と共にジルと一緒に飲んでいる。ちなみにフェルリアはコーヒーが苦手だという。

(あとはその時を待つだけね)

 食堂を後にし、真っ直ぐ機関室へと向かうネイラータ。

 そこでラテノの様子を見てから自室から機関室へ向かった事にし、アリバイを作る。そしてゼスルータが媚薬に染まった頃合いに彼の看病を名乗り出て、誰もいない場所でチェックメイトという訳だ。

(それも夜のお楽しみね‥‥‥)

 今回使った媚薬は平均で3~4時間後に効き始める遅効性のものであり、それもネイラータの無実を創り出す。

「―今更だが‥‥‥悪かったな、戦場でああも振り回して」

 しばらくして、買い置きしていたクッキーを持ち、コーヒーを淹れにゼスルータとジルが食堂に入る。

「辛気臭いですよ、司令。司令もラインハルト殿下に振り回されたじゃないですか」

「そうだった。でもしばらくは落ち着けるのがいい。だから久々に菓子を楽しめる」

「姉とはご一緒しなくていいのですか?」

 そう聞かれたゼスルータは、今はいいと少し笑みを浮かべる。

「先に雑務を済ませてから、ルルとラテノとヒルデガルドとで女子会だそうだ」

 ゼスルータは女子会に水を差したくないと言いつつ、コーヒーミルで豆を粉にしていく。

「代用コーヒーではないですね‥‥‥」

「そうだが?」

「まだ残っていましたっけ?」

 タンポポの根やチコリ、玄米や大麦などの植物や穀物を焙煎して作られる代用コーヒー。

 カフェインレスであるという利点もあるが、戦時中でコーヒー豆が輸入出来ず、希少となったコーヒーの代用としても飲まれている。

「行きつけの店で、200グラム分のオリジナルブレンド豆をヴィ―ン要塞防衛戦前に買えたのだが‥‥‥これで最後だ。ちょうどジルと俺の分があって良かったよ」

 ジルとゼスルータは大のコーヒー好きであり、眠気対策の為にも行く先々で必死になって本物のコーヒーを買い集めていたのだが、これが最後の分である。

「フェルリアさんが作ってくれたクッキーと一緒に楽しみましょう」

「ああ。何でも、マンドラゴラを使ったクッキーだというが、味はいいらしい」

 ウルバルトん家にワープミサイルをブチ込んだら、お礼に送られてきたマンドラゴラ100株。

 ヴォーロルルが錬金術で様々な薬などを作成するのに利用しているが、それでも使い切れず、そこでフェルリアが料理にも転用し始めたのだ。

「マグカップと、えっとフィルターはこっちに‥‥‥」

 ジルはそれぞれのマグカップに、逆円錐状のドリッパーと、その中にペーパーフィルターをセットする。

 次にフィルターをお湯で温める。そしてコーヒーの粉を入れ、湯を入れ充分に蒸らしてから、数回に分けて淹れる。

 最後にゼスルータは角砂糖とミルクを入れ、良くかき混ぜる。

「よし、淹れ終わったぞ」

「こちらも準備万端です」

 テーブルに皿に載せたクッキーを置き、2人分の椅子を引いてから、自分の席に座るジル。

「ありがとう」

 そしてゼスルータも席に着き、早速マンドラゴラクッキーに手を付ける。

「‥‥‥美味い。意外とマイルドな味だな」

 対策をしなければドチャクソ叫びまくる植物だが、味の方はその絶叫の様に刺激的ではない。

「本当ですね! ポーションに追加したらかなり不味くなると聞いていましたが」

「それはその通りだよ」

 ヒルデガルドと会ったダンジョンで飲んだが、ヴォーロルル特性マンドラ・ポーションは効果は最高でも味はクソ不味かったと苦笑する。

「これコーヒーに合いますね!」

 クッキーをひとつ食べ、続いてコーヒーを飲んだジル。

 クッキーは不思議な味わいだが、酸味のあるコーヒーと相性抜群だというのが彼女の感想だ。

「確かに」

「‥‥‥ところで、A号計画の修正状況はどうなっているので?」

 小さなお茶会の時間だが、時は金なり。

 ジルは皆で生き残る為にも、今後の方針について話を切り出す。

「さあな。昨晩エヴァン大将に聞いてみたが、会話の歯切れが悪い。放棄は考えてない様だが‥‥‥」

 いっそ計画中止でもいいのでは? と進言してみたが、「大扶桑帝国との連携には、やはり航路奪還が必要だ」と返されたという。

「月面からの通信は?」

「扶桑から見て南にある、オストリア大陸にヴァミラル軍が陣取っている。そいつらが魔力波を飛ばしまくって妨害している。だからノイズばかりでよく聞き取れないと」

 その近くにインティフィルがあるのか判別はつかないが、そもそも最初に大気圏突入で直接向かう計画に失敗したのがハイゼルクだ。仮に二度目を行うにしても、月面まで舞い戻らなければならない。

「ワープは?」

「ガンダーラ帝国にもインティフィルはある上、極東の南西諸島のいずれかの地下にもあるらしい。ルルが傍受した暗号通信を一部解読して得た情報だが、詳細を知るには解読を進める必要がある」

 ヴァミラル軍の南アフリ方面軍は、戦闘中も何かに焦っていた極東方面軍から通信が入っていた様で、その中にはインティフィルの設置位置を再確認しているらしい内容まであったという。

 ハムルーツ攻防戦中は友軍との通信や、目の前の敵部隊の通信解読を優先させていたから記録するにとどめていたが、戦闘終盤あたりから解読し始めたヴォーロルルにとっても違和感を感じる内容だった。

「続きはルルにさせないので? 良い経験になると思うのですが」

「今回はアスナに任せる。重大過ぎる内容だろうし、それ以前に全容が分かる程の通信量じゃないな。だからもっと多くの通信を傍受できるよう、この後すぐアンテナの様子を見る」

 ゼスルータは体を動かすにはカロリーが、考え事には糖分が必要だからというのが、先におやつを楽しんでいる理由だという。

「承知いたしました。最も、命令あるまで待機ですし、今は束の間の休息を味わいましょう」

「そうだな。‥‥‥ところで、何か熱くないか? 冷房はちゃんと効いているのか?」

「冷房は付けてませんが、充分涼しいはずですよ。分厚い装甲が日光も遮っていますし」

 断熱性が抜群であり、外が暑かろうが寒かろうが、艦内は一定の室温で保たれている。

 ゼスルータはおかしいなと首をかしげるが、食堂にある温湿度計の針が示す温度は約23度。

「風邪でも引いたか、な‥‥‥?」

 急に頭に血が上ったせいで視界がぐらつき、ゼスルータはそのまま机に突っ伏してしまう。

「司令? ‥‥‥大丈夫ですか!!?」

 ジルは慌てて艦長室のベッドへ彼を運んで寝かせ、続いて内線の受話器から新たに仮設された医務室に待機させているレニムを呼び出す。

『はいはい、こちら医務室のレニ‥‥‥』

「司令が倒れたわ、すぐに艦長室に来て!」

 医務室はまだ本格稼働に向け準備中。

 何でこんな時に、というかハイゼルクに今まで医者がいなかった事の方がおかしいなと思いつつ、赤い医療鞄を持って向かうレニムであった。


―戦艦ハイゼルク 艦長室―

「‥‥‥えっと、何でそのマスクを?」

 駆け付けたレニムは、ジルが装着しているマスクを見て困惑している。

「何でって、感染症かも知れないし」

 そのマスクというものは、黒くて顔全体を覆う、毒ガス対策用のガスマスク。

 ガチビビりすぎん? というか医療用の不織布マスクの方が適切なんだけど、とは口にしないレニム。

「本当に感染症なら既に手遅れでは? さっきまで一緒にいたんでしょ」

「あっ‥‥‥!」

 もしかして私も死ぬ? とガスマスク越しでも分かるくらいビビり散らかしているジルをよそに、レニムは医療用鞄からあるマジアムを取り出す。

「あったあった、これ便利なのよね」

「それは一体?」

「レッドテイル社製〈スーパー診察君〉! これをかざすだけで対象者が何の病気を患っているかや、何の薬や異物を体内に取り込んでしまったかが一発で分かる超便利な医療用マジアム」

 それはスティック状の持ち手と、その先端に球状の翡翠色の魔石が取り付けられた形状をしている。

 そんなスーパー診察君をゼスルータの額にちょこんと当て、数秒後に結果がホログラム状に宙に表示される。



―戦艦ハイゼルク 司令塔内―

 艦橋直下に設けられた、戦闘を指揮する装備が整えられている部屋に、ハイゼルクに乗る全員が呼集させられた。

「えっと、何の要件なの?」

 突然のジルの呼集に困惑しているフェルリアが、部屋の奥中央に座っている彼女に問う。

 左腕を机の上に寝かせ、右手で頭を抱えているジルは、重々しく口を開く。

「えっとね‥‥‥我らが司令官がね‥‥‥」

「ルータに何かあったか?」

 何も知らないヴィルドが、ゼスルータが病気で倒れたのかと、心配する。

 が、その心配はとんでもない肩透かしを喰らう。

「‥‥‥媚薬を盛られまし、た」

(((‥‥‥何て?)))

 ヴォーロルルにヴィルド、ニコラスとラテノは自分の耳を疑った。

「〈双頭竜の媚毒〉とも言われる、二種類の薬が胃の中で混じって完成する強力な媚薬で、本来なら遅効性のハズなんだけど‥‥‥」

 レニムにとって、その点だけが引っかかり、そのせいであまりはっきり説明し切れない。

「毒ではなく?」

 ヒルデガルドは何故そんな物が盛られたのかと、頭上に「?」が浮かぶ。

「えっと、ビヤク‥‥‥って何なの?」

「何なのだ?」

 フェルリアも性知識は小学生以下であり、その発言に皆から(マジか‥‥‥)という視線を向けられても首を傾げたまま。

「フェルリア航海長、別室でローゼンちゃんの子守を頼みます」

 ローゼンは幼いから当然の反応だが、こういう話は早過ぎると、ここから離れさせる。

「俺の方が慣れているが?」

 ニコラスは何故自分を指名しないのかと、というかお嬢様の護衛が俺の任務だと異を唱える。

「一応あなたも容疑者だから」

「何だと?」

「フェルリアとローゼンちゃんは媚薬自体知らないし、ヒルデガルドは司令の使い魔だから、薬を盛る訳がない。そもそも使い魔契約したら主に害を為せないしね。ラゼルは使節団と共に謝罪外交中だから、それ以外の誰かが犯人と考えるのが妥当でしょう」

「となるとジル、あなたも容疑者ではなくて?」

 ネイラータの指摘に、「だから厄介なんですけど」とボソッと呟く。

「確かにそうなりますけど、直前まで2人でお茶会を‥‥‥アレ、私が一番の容疑者?」

 アリバイ的にはガッツリアウトである事実に気付き、どう無実を証明すればいいのかと、潔白なのに焦る羽目になる。

「まさかジルさんもルータを狙ってッ!?」

「違うから! 正直私自身婚期逃してるって自覚あるから!!」

 無実を訴えようと、いらない事まで自白してしまうジル。

「ああ、アラフォーなんですね。‥‥‥吸血鬼に年齢って関係ありしたっけ?」

「本気で疑問に思っているから許すけど、それ他の吸血鬼に言ったら怒られるよ、冗談抜きで」

 不死身なのに婚期とか年齢とか気にします? とマジで聞いてきたヴォーロルルに、マジでやめろよ、という口調で忠告するジル。

「なあ、ビヤク、とかアラフォー? って何なのだ?」

「‥‥‥早く連れて行ってよ、冗談抜きで」

「ご、ごめんなさい!」

 司令塔から出るタイミングを逃していたフェルリアとローゼンとヒルデガルドに対し、ジルは弱々しく懇願する。

「行ったかな。‥‥‥んで! 誰が媚薬を盛ったのよ!!?」

 自身の年齢問題を暴露してしまったジルは、恥ずかしさを吹き飛ばそうと強引に話を元に戻す。

「まずその、双頭竜の媚薬? が即効性を持った原因から確認した方が良くないか?」

 遅効性なのにすぐ効果が発揮されたのなら、犯人の計画が狂ったのではないかと、ヴィルドが原因を探る事を提案する。

(‥‥‥勘の良い探偵気取りは嫌いよ)

 その予想はどストライクであり、犯人であるネイラータにとって都合が悪い。

「確かに。ジルさん、ルータと一緒に何か食べてましたか?」

「マンドラゴラ入りクッキーとコーヒーよ。あっ、でも司令はコーヒーに角砂糖とミルクを入れていたわ」

「あー‥‥‥マンドラゴラか~」

 レニムは甘いコーヒーは甘党なゼスルータらしいと納得しつつも、マグカップと角砂糖に媚薬が仕込まれていたのだろうと推測する。

 そして、それが即効性を持ってしまった原因だという事にも気付く。

「マンドラゴラが原因なの~?」

「マンドラゴラは回復薬にも使われるけど、たま~に飲み合わせ次第で一方の薬の効果を異常に高める場合があってね」

「それで双頭竜の媚薬の効果が強化されたと?」

「そゆ事」

 ラテノとヴィルドに問われ、レニムはそれらに淡々と答える。

「ならフェルリア様は容疑者から確実に外れるか。クッキー作ったの彼女だったし」

「何故それを知っているので?」

「フェルリア様から後であげると言われてたからだ」

「ちなみに俺もそう言われてたぞ」

 ジルに疑いの目を向けられるニコラスだったが、ヴィルド含め、フェルリアからクッキーを貰える予定だったと言う。

「それに知ってたらマンドラゴラ入りの食べ物は渡さないでしょう。だって効果が強くなり過ぎて無防備になっちゃいますし」

「‥‥‥そういやヴォーロルルは錬金術師よね」

「はい、そうですが?」

「まさかその媚薬を調合したのではなくて?」

 いや、していないと首を横に振るヴォーロルルだったが、否定し切れる証拠が無い。

「えっ? それ言ったら薬剤師の私も疑われたり?」

「そうなると、ヴォーロルルが第一容疑者、レニムさんが第二容疑者になると」

「何を馬鹿な! 私なら媚薬より先に女体化薬を盛るに決まってるでしょ!!」

(((何を言ってんだコイツ‥‥‥?)))

 ジルに容疑者リストの上位に並べられた2人だが、レニムは真面目な顔でおかしな発言をぶちかます。

「あの、まず材料が無いので作れるはずがないのですが‥‥‥」

 その媚薬は万金を持っていても集められない貴重な原材料から作られる代物だと、ヴォーロルルはそれらをどこで入手したのか不思議がる。

「その材料は?」

「両方とも合わせると、不死鳥と人魚族の涙にドラゴンの睾丸と、ヘルビーの蜂蜜から作った蜂蜜酒と、ユニコーンの角を粉末にしたものですね‥‥‥」

 ヘルビーとは全長1メートル程もある蜂であり、軽々と音速を超えて飛び回るものだから、隣を通り過ぎられただけで、その者はミンチになるという凶悪な魔物だ。更に針にある毒はドラゴンや不死身である吸血鬼ですら1マイクロミリリットルで10分以内に確実に死に至らしめるという凶悪っぷり。

 そんな訳で、地獄蜂、すなわちヘルビーの蜂蜜など貴重どころか採る事自体ほぼ不可能であり、それ以前にヘルビーの蜂蜜は正直不味いので流通なぞするはずがない。

「あのヘルビーの蜂蜜か~。ってユニコーンの角も使ってるの? 金持ちでも持っている方がおかしいでしょ!」

(ホントどうやって入手したのかしら‥‥‥?)

 ジルが驚愕している傍らで、ネイラータはどうやってクラオンが貴重品から作られた超貴重品を私に献上出来たのかと、啞然としている。

「正直鑑定するまで伝説上の媚薬だと思ってたね。‥‥‥いや待って、これ誰が作った?」

 レニムはこの媚薬は一級錬金術師でも製作は無理だと、急に真顔で凝り固まる。

「誰かから買ったんじゃね?」

 ヴォーロルルでも作れないなら、外部の誰かから入手したのではと推測するヴィルド。

 それが正確に的を射た推測だった故に、ネイラータは冷や汗をかきそうになる。

「だとしてもお高くね? 俺は媚薬を買うくらいなら高級車を買うね」

「‥‥‥あのねニコラス、これ1グラムでも豪邸は買えちゃうよん」

「レニムさんの言う通りです! 私なら間近で見たら卒倒します!!」

「‥‥‥え゛っ?」

(ウッソでしょ!?)

 あまりの法外な価値っぷりにニコラスは面食らって口を大きく開け、ラテノはヴォーロルルに「‥‥‥ホントに?」と聞き返した。

 ネイラータに至っては、思わず目を見開きそうになるのを必死でこらえた。

「それよりも誰が盛ったの? っていうのが問題でしょ。で、事件当時、皆はどこで何をしていたの?」

 脱線した話を戻そうと、ジルが全員にアリバイの有無を問い始める。

「私は機関室でー、リアクターの調子を見てたよ~」

「その後に私とラテノさんとヒルデガルドさんとで女子会を始める予定でした。なので、それまではヒルデガルドさんと一緒に私の部屋で色々と準備をしていました」

 ヴォーロルルの供述はゼスルータから聞いていた通りだと、ジルも納得する。

「俺はお嬢様と艦内の散歩、いや探検をしていた」

「立ち入り禁止エリアには入っていないよね?」

「もちろん、そう説明された所には入っていない」

 ローゼンが立ち入り禁止エリアに迷い込まない為にも、しっかりと探検隊隊員の務めは果たしたとジョーク混じりに胸を張るニコラス。

「なら大丈夫よ。で、次はヴィルドさん」

「俺か。俺は通信室で本国に報告をしてからシャワーをして、そんで‥‥‥寝てたな。犯行時刻中に」

「アリバイ無し、と」

「いや待て待て待て!」

「何か?」

 ジルからの疑いの目を向けられたことにより、ヴィルドは急に風向きが悪くなったのを感じ取り、焦って弁明しようとする。

「俺がルータに媚薬を盛る理由なんて無いだろう!」

「‥‥‥いや、あるかも」

 レニムはある事にハッと気付き、その表情を見たヴォーロルルもそれに察した。

「へ?」

「もしかして‥‥‥」

 レニムはあごに手を当て、まるで探偵の様に何かに気付いた素振りを見せる。

「まさか‥‥‥」

 ヴォーロルルは両手で口を押え、驚きと興奮の表情を浮かべる。

「「ボーイズ・ラブ!」」

「んな訳あるかああああああああーーーーーーーー!!」

 息ぴったりな、確信を持った彼女らの推理に、ヴィルドは絶叫を以て否定する。

「‥‥‥いや、割とアリかも」

「うおおおおい!? 何言ってるんだよ! そこでボケをかまさないでくれ!!」

 ジルまでもが腐女子的発言をかまし、ヴィルドはツッコミが間に合わないと悲鳴を上げる。

「冗談ですよ。‥‥‥半分は」

「半分は本気じゃねーか!」

「ゼス×ヴィルとヴィル×ゼス、どっちが良い~?」

 ラテノもこれに参戦し、話の脱線どころか、最早収集がつかなくなる。

「だーかーらー! 俺は同性愛者じゃないっての!! それに事件の犯人でもない!!!」

「まあ、趣味嗜好については自由に議論させておけばいいとして、ネイラータ様のアリバイを聞いておくべきでは?」

 ニコラスの助け舟に、ヴィルドはホッと安堵の息をつく。

「私はラテノの様子を見に行って、そのまま彼女の仕事を見ていたわ」

「その通りよ~」

 ネイラータが機関室に入った際、「本当に改造したのね」と、エーヴィヒ・リアクターがオルゼ式へと魔改造されている事を話の切り出しにし、そのままラテノと雑談を続けたという。

「ルータの義足には小型エーヴィヒ・リアクターが入っているとかね」

「そうそう。私も見てみたいな~」

「あの、リアクターの調子はどうだったの?」

 雑談に気を取られ、仕事をおろそかにしていないよね? と、その点をジルは心配になってラテノに確かめる。

「停泊中で出力抑えてるし、安定しているから大丈夫だよ~」

 雑談を始めた時には、点検など仕事を一通り終えていたと、自信をもって答えるラテノ。

「疑ってごめんなさい。それとありがとう、機関長はあなた以外に務まらないわ」

「いいよー」

 自身の仕事に礼を言われ、照れくさそうにラテノはにかむ。

「‥‥‥じゃあ結局誰が媚薬を盛った犯人なんだ?」

 少なくとも俺以外アリバイあるくね? でも俺じゃないしなと、ヴィルドは首をかしげる。

「食堂に監視カメラとかないのですか?」

 ヴォーロルルは、証拠さえあれば一発で分かるのではと指摘する。

「‥‥‥あるけど、停止させてまし、た」

「何で?」

 ジルはゼスルータとのお茶会では、軍機に関わる内容も会話する予定だった。なのであらかじめ食堂に入る前に第一艦橋で監視カメラなどを停止させ、その上で第三者に操作されないようロックをかけていたと証言する。

「つまり犯行時の様子はたまたま撮影されていなかったと?」

「そうなります‥‥‥」

 ニコラスから犯行時の映像は無いのかと確認され、ジルはうなだれつつも無かったのだと認める。

「指紋とかの証拠も無いと?」

「それも無かったし、あったとしても鑑識なんて出来ないわよ」

 ジルからヴィルドへの返答に、ネイラータは表に出さないながらも安堵する。

「‥‥‥証拠不十分でどうしようもなくね? 探偵とかいないし」

「まあ、ですよね」

「それよりも、ルータさんは大丈夫なのでしょうか?」

 詰みの状況に観念したヴィルドにレニムが同調しているところで、ヴォーロルルは彼の身を案じる。

「水分をしっかり補給して、一晩寝れば大丈夫よ」

 レニムという薬剤師のお墨付きを受け、ヴォーロルルはホッと息をつく。

「えー、では解散です。真犯人は司令に逆襲されないようお気を付けて」

「ブッ!? ‥‥‥ハハハッ、面白いロズワントジョークだな」

「「‥‥‥」」

(‥‥‥冗談ではないのかしら?)

 ジルの最後の忠告に妙にツボったヴィルドは、それを冗談だと真に受けていない様子。

 だがネイラータは見てしまった。親友であるレニムと、同じくゼスルータをよく知るニコラスは、その発言がなされた直後、ジルからサッと目をそらした瞬間を。

 しかし結局のところ、「ゼスルータ媚薬盛られ事件」は、証拠が見つけられなかったということもあり、闇に葬られることになるのであった。

                                      ―第十一話・終―

 こんばんにちは! リキュ・プラムです。

 今回はネイ×ゼス‥‥‥じゃないな、ネイラータから見たゼスルータっていう話になっちゃってるなコレ。

 閑話という扱いで投稿しましたが、本編のストーリーとかなり関係しています。この第十一話が無かったら第十二話が書けないくらいに。

 つか最初のゼスルータによるグロすぎる見せしめもそうですが、よくよく考えたらそれ知ってる上で堕とそうとするネイラータも結構ぶっ飛んでるな(何がとは言いませんが)。

 その目的の下失敗に終わった「ゼスルータ媚薬盛られ事件」、被害者ゼスルータがこれにクラオンも関わっていると知ったら‥‥‥?

 ゼスルータが媚薬=毒薬と勘違いしたままなら機関銃ブッパで即死、媚薬とは何かと知った後なら便利な諜報員として過労死するまでこき使われるでしょうな(=DEAD OR DEAD)。ネイラータに対しては前者なら絶縁、後者なら恥ずかしさから悶絶して、当面の間顔を合わせることすらしてくれなくなるって感じですね。

 ルータって正々堂々と戦う性格ですからね。陽動作戦とかなら良しとしても、卑怯な手はマジで嫌うタイプです。媚薬は‥‥‥本気で動揺します、女の子みたいに。

 つーか姉のフェルリアも無垢過ぎる。まあ弟と同じく高校どころか中学も途中からすっ飛ばして軍大学に入ったってのもあるけど‥‥‥姉弟そろって保健体育だけ苦手というのが最大の理由。

 結局ネイラータが犯人だと気付かれなかった訳ですが、もしレニムがいなかったら、媚薬ではなく何かの感染症かと勘違いされていたので、ちゃんと薬剤師として仕事ができるキャラではある(あの性癖さえ無ければゼスルータからも高く評価されるんですけどね‥‥‥)。なので、これからハイゼルクの医者として活躍してくれることでしょう。

 外傷はどうするかって? フェルリアかヴォーロルルが回復魔法を使うしか、というよりそれでだいたいどうにかなりますね。

 さて、翌日にはどうにか回復したゼスルータ中将。その直後に濡れ衣で逮捕されてロズワント本国に連れて行かれた訳ですが、まあろくな事になりませんね。

 誰がろくでもない目に逢って、誰が目的を果たせるのか。次回がゼスルータにとっても、ロズワント帝国にとってもターニングポイントとなります。

 それでは、次回またお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ