JAF公道レース赤城大沼湖畔出撃用意
赤城山山頂カルデラ内の大沼湖畔を2週する、JAF公道レースの開催まであと1週間となり、拠点となる、おのこ駐車場やコース周辺では準備が進んでいる。
そして、三条神流もZD8型BRZの準備をしていた。
だが、タイヤは変えない。
当初、タイヤをネオバ09にしようとしたのだが、当日の天候が雨予報と知った際に急遽取りやめた。
タイヤパターンを見た時、ウェット性能への不安を覚えたからだ。
「まっその他、金もね。」
と、三条神流は苦笑いする。
霧降要も鼻を鳴らしながら、ZD8型BRZのブレーキパットとローターの交換と、オイル交換をする。オイルはカストロール。 硬さは5W-30。ブレーキはエンドレスで統一し、パットはエンドレスSSY。ローターはベーシックスリット。
出来れば、チューニングの後に軽く試運転したいところ。
なので、チューニングが終わった翌日、仕事帰りに、ぐりーんふらわー牧場大胡辺りから、北新地までのからっ風街道のワインディングロードと、国道353号の複合コーナーを攻めてみる。
純正ブレーキより効きは良くなり、思い切ってコーナーへ飛び込んで行けそうに感じた三条神流は、赤城道路のタイムアタックをやろうとしたが、燃料に不安を覚えて止む無く退散。
タイムアップを狙うのならば、パワーアップと言われるが、
「それを止められなければ危ない。」
と考えた三条神流は、まずブレーキから入った事で、ナガト達ビックセブンに気に入られたらしい。しかし、「何を目指して走っているのか」と尋ねられた時、なんと答えるべきか分からない。
(「アヤの背中」とか答えたら、絶対変な噂流される。)
と、三条神流は思う。
走り終えると、実家に帰り寝る。翌日は明け。
だが、午前7時に松田彩香からの連絡で叩き起こされる。
あまり睡眠時間を確保できない状態で、松田彩香に引っ張り出される。
「チューニングしたのでしょう?」
「ああ。だけど、タイムアタックしてどう変わったのかを試したかったけど昨日は出来ず、富士見辺り走って終わり。」
「無駄な事を。その時間寝ろ!今日はこのまま、本庄サーキット行く!やるなら、そこでやれバカ!」
松田彩香に怒られていると、加賀美のN-ONEと、望月のBMW Z4がやって来た。
(今日の護衛は加賀美のN-ONEと、望月のBMか。護衛として期待できるのはBMだ。)
と、三条神流は思う。
JAF公道レース赤城大沼湖畔に出場するのは、松田彩香と三条神流の他、望月のBMWと東郷三姉妹の恵令奈のロータス・エキシージ。
「恵令奈が今日は行けない代わりに、咲が遊びに付き合うって事。」
と、松田彩香。
4台の隊列を組み、本庄サーキットへ向け出発する。
神流川を渡って埼玉県に入り、コンビニで食料を買い込み、本庄サーキットに到着。
三条神流は財布事情を鑑みて、1本の走行枠を確保。
(これじゃな。)
と、三条神流は思ったが、松田彩香、望月、加賀美も1本だけだ。
曇り空の下、パドックで走行準備をする。
前日、埼玉県南部では雨が降ったらしいが、本庄サーキットに着いてみると、大きな水たまりが道路に出来ている他、濡れている場所があり、本庄サーキットコースの路面コンディションはウェットかセミウェットと言った具合だった。
そして、天気予報を見ると、明後日のレースの日の天気は雨予報で、降水確率90%だ。
(当日に近い路面での走行が出来る。)
と、三条神流が思った時だった。
「あっ!」
松田彩香が悲鳴を上げた。
「どうした!?」
望月と三条神流が駆け寄る。
「畜生!パンクしてる!」
松田彩香が叫ぶように言った。
「マジかよ。予備タイヤなんか積んでないし―。とりあえず修理剤入れるしかないか―。」
「いや待て。」
望月が言うのに、三条神流が止める。
そして、ハンマーを持って来てパンクしているGR86の左フロントタイヤを叩き、石鹸水をタイヤにかけ、再度叩く。
「-。こりゃだめだ。」
と、三条神流。
パンクしているのはタイヤのサイドウォールだった。
「ネオバ高かったのに畜生-。」
松田彩香は肩を落としながら、霧降に連絡を取るが霧降のカーショップのローダーは出動していて救援に向かえない。
日菜子に連絡を取ると、東郷三姉妹の働くチューニングショップ兼レーシングカフェのローダーが行けると言うので、そこへ運ぶ手筈になった。
とにかく、三条神流と望月光男、加賀美咲の3人は変わらず走行する。
三条神流は前回走ってボロボロな結果に終わった本庄サーキットのコースをアタックする。だが、アタック中、望月のBMWに対し、オイル旗が振られ望月が緊急停車。最終コーナー付近で望月のBMWのラジエーターがパンクしてクーラントが漏れたのだ。こちらも、ローダーで搬送されることになるだろう。
結局、まともに走れたのは三条神流と加賀美。
三条神流はどうにか、前回走って酷い結果に終わったのを払拭し、タイムも大幅に更新したのだが、仲間が2人も走行不能に陥ってしまった。
松田彩香はタイヤ交換をしようにも、タイヤが入手出来なければレース出場は叶わず、望月は絶対不可能な状態になり、三条神流は動揺する。
「動揺したって仕方ない。三条君が無事に走り、いい結果残せばいいだけ。」
と、加賀美は言う。その言い方が冷たい。
「冷たいなお前。」
「これで、三条君が自信なくして変な結果で終わったら、奴等の思うつぼよ。」
「-。」
加賀美の目付き、鋭い。その鋭い目付きは、三条神流を動揺させないようにする加賀美の思いやりだったのだが、三条神流はそれを「自分達の変な噂を流している連中の陰謀でパンクしたのだ」と解釈した。
走行不能になったGR86とBMWがローダーに載せられる。
三条神流はBRZの助手席に松田彩香を乗せて、GR86の後を付ける。
「カンナ。レース頼んだ。」
と、松田彩香。
「どうせあいつらの陰謀だろ?」
「違う。」
「違わないよ。なら、なんで加賀美はあんなおっかねえ目付きになる。レースでいい成績残して奴等黙らせなきゃ、腹の虫が収まらない。」
三条神流は自分達の悪いうわさを流している見えない連中への怒りを募らせた。
東郷三姉妹の働く、というより彼女等がオーナーらしきチューニングショップ兼レーシングカフェ「AK50」に到着する。
日菜子が必死になってタイヤを探していたのだが、どんなに急いでも、レースには間に合わず、松田彩香はレース参加を取りやめる結果になってしまった。
「カンナ。」
と、日菜子が呼び止める。
「最大の敵はカンナ自身。動揺しない。歩き続ける。それが出来なければ、あいつらと同じ。私、HONDA嫌い。あいつらは、過去に、アイルトン・セナや本田宗一郎が築き上げた栄光の時代に縋り、今は何もせず、過去に縋ってイキり散らしているだけにしか見えないから。おまけに、テメェら同士で同士討ちして、内部抗争ばかりやって、おまけにカンナやアヤのように何もしていない奴を勝手に悪者にしなければテメェの事立てられない。だからスーパーGTで連覇できない。そして、私達最大のライバルは、そんなHONDAに所属しているホワイトレーシングプロジェクト。ホワイトレーシングプロジェクトは、そんなHONDAの中に居ながら、HONDAに反旗を翻すように駆け抜け、HONDAからは煙たがられているけど、ホワイトレーシングプロジェクトが居なければ、HONDAはモータースポーツでロクな成績残せていない。」
「-。」
「カンナ。カンナもアヤに頼りすぎるな。そして、アヤと二人でデートしたいという下心を持つな!そして、アヤから聞いたけど、変な噂流している奴等を潰そうとか考えるな!そうなったら、HONDAと同じ事になる。走り続けろ。」
AK50を後にする三条神流。
松田彩香は代車のEKワゴンで肩を落としながら先に出て行ってしまった。三条神流に抱いて欲しいという思いを抑えながら。それを見た三条神流は胸を締め付けられた。
(BRZ。アヤの悔しさ、晴らそう。)
と、三条神流は初めて、BRZに向かって思った。




