試運転・トラブル発生
どこへ試運転に向かうかと、三条神流は考えながら高崎駒形線を高崎方面に向かう。途中、吉野家で昼食を食べる。もう昼時だった。
行く当てもなく、高崎駒形線を高崎方面に向かっていると、気が付いたら国道18号に出てしまった。ふと、三条神流は自分が普段携行している小さなリュックの中に、前の彼女から貰った婚約指輪があるのを思い出した。
(よし。このまま、長野県まで行って、これ川にでも湖にでも沈めてしまえ!)
と、三条神流は思い立ち、そのまま国道18号を西へ向かって行った。
烏川を渡って、西へ行く。
進行方向左側には、碓氷川が流れている。
(ははっ。この車、楽しそう。この車で、アヤと一緒に走りたいな。アヤの隣にいるなら、アヤと一緒に峠道を走る事になる。そうなったら、きっと楽しいだろうな。)
と、三条神流は思う。どうやら、三条神流はこのS660が気に入ったようだ。
縁起達磨でお馴染み、少林山達磨寺を通過し、碓氷川を渡って信越本線の線路を渡り、安中の町に入る。
安中の東邦亜鉛の精錬所を横目に走り、安中の街中を通って磯部まで来た。
異変が起きたのはこの辺りだった。
不意に、息が苦しくなったのだ。
一瞬、車内の空気が悪くなったのかと思い、窓を開ける。しかし、良くならない。むしろ、更に苦しくなった上、圧迫感にも襲われる。更に、長野に近付けば近付くほどに、長野で受けた嫌な事が込み上げて来て、それが吐き気になる。
(しまったこの道は!)
今、走っている道は、長野で傷だらけにされた三条神流が、群馬へ逃げ帰る際に通った国道18号。それが、更に長野で受けた事を込み上げさせている。そして、松井田付近。妙義山の姿が目に入った時、三条神流は突発的な発作を起こしてしまった。だが、その時、目の前に松井田駅への入口があった。
必死になって、どうにか松井田駅に退避したのだが、そこで行動不能に陥ってしまった。
何とか気持ちを落ち着かせようにも、圧迫されてしまう。
そして、悪いことにS660の狭い車内もまた、圧迫感を生んでしまい、余計に発作を誘発してしまう。
どうにか、スマホを引っ張り出すと霧降要に連絡する。
「どうした!?」
「航行不能。助けてくれ。」
「事故ったか!?」
「違う。ただ、動けない。松井田駅。」
「分かった。とりあえず、ローダー持って行く!」
霧降要はそう言った。
そして、その時、三条神流のスマホのアプリに見慣れない物があった。
「SOS」と書かれたアプリ。それをタップした。すると、どういうわけか、松田彩香が血相を変えて連絡してきたのだ。
「どうしたの!?」
と、松田彩香が叫ぶ。そして、その声の向こうから、GR86のエンジンをかける音が聞こえた。
「アヤ?碓氷峠を越えて―。そうしたら、妙義山が―。助けて―。」
「落ち着いて!深呼吸して!松井田駅に居る事は分かっている!」
その声の向こうで、GR86のアクセルを踏んだらしい。ロードノイズが聞こえて来た。
「松井田駅から、動かないで。助けに行くから!」




