松井田妙義
松田彩香は三条神流のスマホに密かに仕組んでおいたGPSと、アプリからの情報を受け、GR86で実家を飛び出すと、一路、松井田駅へ向かう。
(散々連れ回した時、逃げられた時に備えてGPS仕組んで、更に緊急時の為にアプリまで仕組んだけど、それが功を奏した。)
と、思う。
前橋インターから高速に乗る。
北関東自動車道と合流した時、マルシェのローダー車が北関東自動車道から合流してきた。運転しているのは霧降要だった。それを追い越すと、上信越自動車道を一気に飛ばした。
三条神流は、狭いS660の車内で蹲っていた。
脳の中で、何か分からぬ者達が会話しているらしい。それが頭痛になる。狭いS660の車内が、三条神流の発作を更に誘発する。
「車外へ―。」
と、雑音まみれの無線交信のような声。
「車外へ。外へ出るのです。早く!」
今度ははっきり聞こえた。
周囲の安全確認をする余裕が無い。戦闘機の射出座席で脱出するかのように、車外へ飛び出る。
「貴様!」
「妙義様。ご無礼!」
「赤城姫。この者は―」
「既にアヤと言う者が制裁を下しております故。どうか―」
脳裏で聞こえる会話。
それが静まった時、三条神流は目を開く。
「大丈夫?」
松田彩香が言う。
「アヤ。碓氷を越えて―」
「後でゆっくり話して。深呼吸よ。落ち着いて。」
松田彩香が居るだけでも安心したらしい。呼吸が安定する。安定した時、霧降要の運転するローダー車も松井田駅にやって来た。
三条神流は、何がどうあったのかを話す。
松田彩香はそれを聞くと、霧降要に「エスロクをローダーに積んで。私がカンナを。」と言う。
「ああ。自走しようにも、ドライバーがこれでは―。」
と、霧降要。
「残念だ。お前には似合うと思ったのだが。」
霧降要は肩を落としながら、三条神流の乗っていたS660をローダー車に積む。
三条神流もS660を気に入り始めた。だが、その矢先に発作を起こした。そして、少しでも兆しがあれば、S660の狭い車内の圧迫感でも誘発されると言う現実を突き付けられてしまった。
S660が虚しく、ローダー車に載せられる。車ではなくドライバーに問題が発生して、ローダー車に載せられるという意味の分からない事態。問題の発生したドライバーである三条神流は、もう一台の救援である松田彩香のGR86の助手席に乗る。
松田彩香は少し考えた後、「私となら」と、松井田駅から下仁田方面へ向かう。
三条神流一人で妙義山に近付いたら発作を起こした。なら、自分と一緒に妙義山に近付けば大丈夫ではないかという考えから、敢えて妙義山にへばり付く妙義の峠道を経由して下仁田に行こうとする。しかし、妙義神社の大鳥居付近で妙義山の姿を目の前に見た三条神流は、猛烈な吐き気に襲われる。松田彩香は道の駅に緊急停車して対処する。そして、「今日、妙義に行くのは危険ね。」と判断し、止む無く妙義山に背を向ける。
「どうして―。」
と、三条神流。一番悔しい思いをしているのは、三条神流だろう。
「カンナのせいではない。偶々、妙義山で発作が起きただけ。或いは、まだ長野には行くなって妙義山が止めたのよ。」
「これを―」
三条神流は、元カノの南條美穂から貰った婚約指輪を見せ、なぜ長野へ行こうとしたのかを話す。
「アホだね。婚約指輪とか笑わせる。こんなの1500円の安物よ。要するにそういうこと。こんなチンケな物の為に、長野に行くなってこと。」
と、松田彩香は微笑む。
「俺の価値は、ガソリン10L以下の価値か。」
「私から見たカンナの価値は、ガソリン10Lじゃ全然足りないよ。まったく。私のカンナを弄ぶなんて。死ね、クソ長野人。私から見たカンナの価値は、どんな物の比にならない。」
と、微笑む松田彩香。
三条神流は溜め息を吐いた。




