その16 開かれる世界
ダモは立ち上がり、黒く真ん丸な瞳を輝かせながら千馬の肩をポンポンと叩く。
「……この樹海に来てから、かなりの苦労をしてきたんだな……」
「俺の話しを信じてくれるの?」
千馬は目に涙を浮かべる。
「ん。今の話を聞いて、やっと千馬の話と一致する気泡を見つけられた」
ダモは杖の先端にある大きな琥珀に顔を近づけ覗き込む。
「……呪いの男……迷い込み……呪いに触れて……人辞めて……狩られて喰われて……力得て……惑い迷いて……道なくす……と、琥珀の記憶から読めるな」
千馬は頷く。
「それとな、気泡を見つけられなかったのが何故だかも分かった……。千馬が樹海で旅をしてきた時間は、百年でも、二百年でもない……千年以上だ。その間ずっと一人で戦い、旅を続けていたようだな……」
「千年以上も?! まさか……そんなに……本当にその琥珀の記憶ってのは正しいの?」
「ん。間違いない。今から千年程前に岩哭があったと、琥珀にも刻まれている」
「……がんこく? それが何のことか俺には分からない……」
「ん。これから一つずつ説明していくな。岩哭というのは、神大樹の根の先端が地下深くから地上に出てくる時に、天変地異を起こすことをそう呼ぶ」
ダモは杖の先端を地面から少し浮かせ、絵を描きながら説明する。
「……えっと、しんたいじゅってのは木の名前か何か?」
「ん。そうだな。そして地上に出た根は封呪石と言う光る石となり、擬獣をおびき寄せると吸い込み、消滅させる。」
「あぁ……あの青白く光る岩は封呪石って言うのか……。ぎじゅうってのは何?」
「ん。擬獣は擬態する化物のことだ。岩や植物、動物や自然の一部に擬態して獲物を狩る」
「……その化け物の事はよく知ってる。あいつら擬獣って言うのか……。それで封呪石は何のために擬獣を消滅させているの?」
「ん。神大樹にとって擬獣はな、養分を吸い、呪念をまき散らし、木を枯れさせる天敵なんだ。だから擬獣が増えると神大樹は封呪石を地上に出現させ、数を減らす」
「……あぁ、そういうことだったのか……」
千馬は擬獣が封呪石の前で消え、二度と現れなかったことを思い出す。
「ん。だが擬獣の肉体は消滅してもな、呪念だけは封呪石に留まり続け、消滅することはないんだ」
「俺が石に触った時に、体に流れ込んできたどす黒い塊みたいなのが、その呪念ってやつだったのかな……?」
「ん。そうだろうな。そして封呪石に蓄積された呪念の量が多いほど、取り込んだ体にも大きな異変が起こる」
「それが俺の体に起きた異変なのか……」
千馬は人差し指の先から小さな火を出して見せる。




