その15 光る石と風
――あの日、自分の体に異変が起きる直前にした行動は、光る石に触れたことだった。ただその後は何度石に触れても変化が起きなかったため、原因は別にあるのかと考えもしたが、結局答えは見つかずにいた……。
今、光る石を前にして、その答えに少しだけ近づけるかもしれない。樹海で起こる異常な現象を少しは解明できるかもしれないと考え、そっと石に手を伸ばす……。
――指先が触れると……岩が哭き、悲鳴のような音と共に、どす黒い血が岩の表面から溢れ出す。そしてあの日見た、悪夢と同じ光景が頭の中を駆け巡った――。
黒く、煙にも液体にも見える物体が体に流れ込む。何万本もの針が体中の神経をズタズタに引き裂き、千切れた神経が別の神経と結合されてゆく。頭の中に風が吹き荒れ、竜巻となり、筋肉、骨、脳をかき混ぜ、辺り一面を血の海へと変えた。血が蒸発し、漂う蒸気からおぞましい怨嗟の声が頭の中に響き渡ると、やがて声は小さくなり消えていった……。
意識を失っていたのは一瞬のような気がするが、目を覚ました時には、体の間隔が以前とは明らかに違っているのが分かった。
見た目には何の変化もなかったが、指が一本増えたような感覚を持っていた。まるで生まれた時から指が六本あり、何不自由なく動かせる、そんな感覚だった。
六本目の指を動かす感覚で、軽く腕を振ると、風が吹き、周辺の草を薙ぎ倒す。腕から風が吹くことは分かっていたが、実際に目の当たりにすると驚き、しばらくは感動に打ち震えていた。
そして、この樹海に来て初めて楽しさを感じ、これまでの不安など、どうでもいいと思えるほどに舞い上がっていた。
風が操れる不思議な力は、威力や範囲の調整が思ったよりも難しく、自由自在に操るには鍛錬が必要だと分かり、旅を続けながら一日も休むことなく技を磨き続けた。
腕を軽く振れば、弱い風が落ち葉を巻き上げ、強く振れば、強い風が小石を吹き飛ばした。風は体のどこからでも出すことが出来たが、腕の角度や体の向き、指や腕をどのくらい曲げた状態か、どちらの方向へ動きながら、どっちに向かって風を出すのか、動かす部分の少しの違いで風の質が変化し、同じ風を続けて出すだけでも、三年の月日を要した。
その後は突然現れる化物に何度も遭遇しては頭を食われ、四肢を切り刻まれたが、不死身の肉体と風を操る力のおかげで上手く逃げ切ることができた。
五年ほど走り続けたところで、また光る岩を見つける。岩は触れると必ず怨嗟の声が頭に響き、一瞬気を失ってしまうが、目を覚ますと体に不思議な力が宿っていた。
最初の頃は数年も走り続ければ光る岩に遭遇したが、百年も移動し続けた頃には岩を見ることは殆どなくなり、それから三十年くらいして最後の岩に触ったきり、もう見ることはなかった……。
光る岩から得た力は全部で八つあり、火、氷、風、岩、雷、霧を創り出して操る力、それに不死の体と、体全体が強化される力だった。
どれも扱いが難しくはあったが、風の力の使い方と感覚が似ていたため、他の力を使いこなすのにそう時間はかからず、ある程度操れるようになる頃には、化物から逃げることよりも倒すことの方が簡単になっていた。
そして樹海に来て百数十年が過ぎ、元居た世界の記憶も薄れ、ここから抜け出すことも、人に出会うことも半ば諦めていた俺を……
「――ダモが見つけ出してくれたんだ」




