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その5 闇霧晴れて

 一瞬にして男との距離を詰め、喉元めがけて飛びかかり、鋭く大きな牙で首から上をかみ千切った。 しかし男の胴体と千切れた頭は、黒い霧へと変わり、漂い、集結して、またすぐに元の男の姿に戻ろうとする。


 泥牙はそれを想定し、黒い霧が男の姿を形作る瞬間を狙い、胴体に向かって突進しようと考える。湧き出る氷に足をとられぬよう、後足で地面を力強く蹴って飛びかかるも、泥牙の体は空中で凍り付き、男に届くことなく落下してしまう。


 氷に覆われてゆく泥裸と泥牙の姿に、ダモは焦り、慌て、すかさず大声で泥嘴(でいし)と叫んだ。すると草と土が上空へと舞い上がり、鳥の姿をした泥人形が大きな翼を広げ降下してきた。


 泥嘴が着地すると同時に、広げられている羽の上を駆け上がり、首にしがみ付いて、すぐさま指令を下す。大きな翼が風を巻き起こし、地面を蹴り上げ、体が浮き上がる。だが泥嘴が飛び立とうとすると、突然周囲が黒い霧に包まれ視界が奪われてしまう。


 ――ダモは何が起きているのか分からず、何度も周囲を見渡す。その間にも霧は濃さを増してゆき、闇夜のような暗闇を作り出した。何も見えず、聞こえず、体の感覚も鈍く、虚脱感に襲われる。しがみ付いているはずの泥嘴の感触すらなくなり、前に進んでいるのか、後ろに下がっているのか、天と地の区別もなく、どうすることもできず立ち往生していると、突然目の前から腕が現れ、肩を鷲掴みにされた。


「んわぁ?! はなせ! はなせぇ!」

 ダモは驚き、暴れ、腕を売り払おうとして泥嘴の背中から転がり落ちる。すると闇は消え去り、さっきまで見ていた樹海の景色が現れると同時に、目の前には、何かを叫んでいる黒い服の男の姿があった。


 ダモは茫然とし、男の姿を見つめていた。ふと体の後ろから、ひんやりとした冷気を感じ、我に返る。振り向くと、翼と脚を凍らされている泥嘴の姿があった。


 同じように、男の後方には泥裸と泥牙が腕と脚だけを凍らされ、動きを封じられていた。それを見て、この男は自分たちを殺す気ではないのだと察する。


 男は手を差し出し、尚も何かを叫び続けていた。何を言っているのかは理解できなかったが、深々と被っていた頭巾を脱ぎ、地面に両膝を付け心配そうに覗き込む顔は、優しそうな表情をしていた――。

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