その4 泥人形の応戦
「止まれ! 俺の声が聞こえないのか!」
制止する声を無視し、尚も近づいてくる男に危機感を抱き、ダモは泥牙に飛び乗り、この場から離れようとした。すると男は立ち止まり、遠ざかってゆく背中に向かって腕を伸ばし、手のひらを向け、勢いよく振り上げた。その瞬間地面が激しく振動し、地響きを上げ、巨大な壁のような岩が何枚も迫り上がる。
そびえ立つ巨大な岩の壁に囲まれ前進することが出来ず、ダモは後ろを振り返り、ゆっくりと歩いてくる男の姿を見る。この岩を出現させたのは間違いなくあの男で、故に走ることすらせず、追い付ける確信を持っているのだろうと考え、動けずにいる。
変わらず禍々しいまでの呪念を瞳に宿す男を見て、ふいに焼け焦げた擬獣の死骸を思い出した。掴まれば自分も同じ運命を辿るのだろうと戦慄し、それを阻止するため、逃げることから反撃へと舵を切る。
「泥裸! 奴を止めろ!」
ダモの叫びに反応して、何本もの蔦が絡まり合い人間の骨格を創り出すと、それを土が覆い、巨大な人間の姿を形作った。
地に足跡を付け、地響きをさせながら、泥裸は男の前に立ちはだかり、拳を振り上げ、勢いよく振り下ろす。轟音とともに地面がえぐれ、土砂が飛び散り、土埃が立つ。それに混じって黒い霧が現れた。霧は意思を持つように動き出し、一ヶ所に集まると、瞬く間に黒い服の男に変化した。
何事もなかったかのように歩き続ける男を、泥裸は捕まえようとするが、体が動かなくなっていることに気づく。自分の体を見ると、振り下ろした姿のまま、腕と脚が地面から湧き出た氷の塊に覆われていた。
「地聖! 泥裸に加勢し、少しでも時間を稼ぎます。その間にお逃げください!」
そう言って泥牙は地面に伏せ、ダモを背中から降ろす。
「ん。泥牙! 任せたぞ!」
泥牙はダモの指令を聞くと、男に向かって勢いよく走り出した。




