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9話 革命



第一部隊の宿舎。牢屋から逃げ出したわたしとハナコちゃんが、複数の騎士に囲まれたところで、壁を破壊するという方法で現れたロディ様とイヴ様。


「……ロディ様、イヴ様。」


一週間前に任務へ行った二人が、まさかここで、しかも壁を破壊するなんて思わなくて、思わず名前を呼ぶと、二人と目が合った。かと思えば、ものすごい顔をされる。

え?わたし何かした?


「彼女に何をした……?」


まるで地の底から吐き出されたようなロディの低い声に、睨まれた騎士たちはびくりと肩を揺らす。(ちなみに王様は少し青い顔をしていて、第一部隊の隊長さんは特に表情を変えていなかった)

状況がよく分からなくて、目をぱちくりしていたら、イヴ様にふわりと上着をかけられる。

え、汚れちゃうよ、せっかくかっこいい服なのに。


「あの、汚れてしまいま、」

「ごめんね。また、辛い目に合わせてしまったね。」


まるで泣き出しそうに歪んだ表情で、黒焦げになったわたしの腕や、あらぬ方向に曲がった指を見ているイヴ様に、ようやく二人が何に怒って、何を心配しているのか理解して、何も言えなくなる。

そんな表情しないでほしい。わたしは傷つくことも死ぬこともないのに。

と、そこで、廊下の奥から誰かの走る足音が聞こえた。


「何をしている?!」


音のした方向を見ると、廊下の向こう側、地下への扉があった方向から、どうやら気絶から目覚めたらしい第一部隊の副隊長が走ってくるのが見える。

結構思いっきり(死なない程度に)殴ったつもりだったんだけど、さすが副隊長さん、頑丈なんだね。

副隊長さんは破壊された壁を見て、その向かい側で瓦礫と共に倒れている部下を見て、顔を真っ赤にした。


「き、貴様ら、なにを……」


しかし副隊長さんが口を開いた瞬間。

副隊長さんは瓦礫に向かって勢いよく吹き飛んだ。否、殴り飛ばされた。

ぴくぴくと痙攣しながら再び気絶する副隊長さん。そして拳を握り冷ややかな目でそれを見下ろしているロディ様。

拳からぽたぽたと赤い血を垂らしながら、ロディ様が副隊長さんに尋ねる。


「お前の趣味は拷問だったな?」


今更聞いてもすでに副隊長さんは気絶しているし意味ないのでは?と思ったけれど、水を差してはいけない気がして黙っておいた。

そんなロディ様と、いつの間にかわたしを背中に庇うように立っているイヴ様に、騎士たちはじりじりと後退していく。

ちなみに隊長さんは未だに傍観の態度を崩していない。自分の部下が殺られたのに(死んではいないけど)何とも思わないのかな。

そんな中、王様が少し顔を青くしながら、それでも冷静さを保ちながら口を開く。


「……貴様ら、どういうつもりだ。」

「ふん、白々しい。」

「なんだと?」

「元々俺たちを嫌っていることには気づいたけど、まさかここまでするなんてね。どうせ今回のこともお前が仕組んだんだろ?」

「何を根拠に、」


どこか脅えた様子を見せながらも、イヴ様になお、冷静に話していた王様だったけど、イヴ様に言葉を返そうとしたその瞬間

ばき、という音と共に今度は王様が吹き飛んだ。否、今度は剣(鞘つき)で殴り飛ばされた。

副隊長さんと同じように瓦礫に衝突し、がくんと力を失う王様。

え、これは国に対する反逆とかそういうのになるのでは……?


「……ロディね、気持ちは分かるけど、ものすごくよく分かるけど、すぐ殴り飛ばすんじゃないよ。死んだら後味悪いでしょうが。」

「手加減はした。」

「ならよし。」

「……良くないですよ。」


すると、壁の穴から呆れた声を出しながらテュール様が現れた。

気絶した騎士たちや副隊長、王様を含む瓦礫の山を見て眉を潜め、イヴ様の上着をかけられたわたしを見て苦しそうな表情を浮かべる。

え、何だろう、上着が汚れるって思ったのかな。やっぱり脱いだ方が良いかな。

そう思ったけれど、テュール様は大きなため息をつくと、私ではなく、ロディ様とイヴ様をじとりと睨んだ。


「確かに突入してくださいとは言いましたけどね、わざわざ壁をぶち抜かなくても良いじゃないですか。」

「ここにアイがいるかと思うと腹が立った。」

「右に同じく。」

「はあ……。」


再び大きなため息をつくと、顔を上げ、気絶している王様の方を向き、じっと見るテュール様。

その目はどこか冷ややかで、王様がどうなろうが心底どうでもいい、と語っているように見えた。……テュール様は王様が嫌いなのかな。


「というかあいつ気絶してません?」

「手加減はしたぞ。」

「いや、獣人族と人間を同一で考えられても……。」

「テュールが回復魔法で起こしたらいいじゃん。」

「はあぁぁ。」


特大のため息をつくテュール様。何だかすごく嫌そうだ。

何で俺があんな奴のために、とぶつぶつ言いながらもテュール様は瓦礫の中で気絶している王様に近づく。回復魔法をかけるってことは王様に起きてほしいってことなのかな。

わざわざ(剣の鞘で)殴ったのに何でだろう?

けれど、テュール様が王様に近づこうとしたところで、第一部隊の騎士たちがざっと動いた。


「お、王に手をあげるとは……!!」

「は、反逆者だ……!」


王様(を含む瓦礫)を庇うように、第一部隊の騎士たちが立ちふさがる。中には剣を鞘から抜いている騎士もいて、さすがに危ないのでは、とロディ様とイヴ様を見ると特に表情を変える様子ない。

むしろ、騎士たちに対してイヴ様が、へえ、と少し楽しそうに声を上げた。その声にびくりと、何人かの騎士が怯えたように肩を震わせる。


「たったそれっぽっちで、俺とロディに立ち向かうなんて勇気があるね。」

「……これ以上、負傷者を増やさないでくださいよ。彼らの治療費だって国費から出るんですから。」

「喧嘩を売ったのは彼らだ。つまり自己責任、自費だろう。」

「そうそう。」

「そういうの、屁理屈って言うんですよ。」


はあ、とため息をつきながらも、テュール様はロディ様とイヴ様が剣(鞘つき)を構えるのを止めなかった。

今までの見ていたところ二人の強さは、人間より上のようだし、残った騎士たち相手に怪我をすることはない、と思う。

でもこんなことになって、これから二人は、テュール様はどうするんだろう。わたしみたいに城を出るつもりなのかな。

そんなことを考えていると、廊下に大きな声が廊下に響いた。


「貴様ら……!」


声のした方を見ると瓦礫の中から王様がよろよろと立ち上がっていた。

綺麗な服は瓦礫によって灰色に汚れ、足はふらふらと覚束ない。それでも震えながら、ついでにいうと血が出ている鼻を抑えながら、今までの冷静さが嘘のように顔を真っ赤にて、王様が怒り叫ぶ。


「反逆者だ……!お前たち、捕らえろ!!」

「し、しかし、相手は獣人族で……。」

「たった二人だろう!さっさと拘束しろ!!」

「お前はもう王様じゃねぇよ。」

「……は?!」


心の底から軽蔑したように、冷ややかな目で王様を睨むテュール様。その手には、何やら紙のような何かが握られていた。

何だろう。手紙、かな。

次々と起こる事態に、どうしていいか分からず、ただ呆然とするしかない。ちらりとハナコちゃんを見れば、彼女もまた床にへたりこんで、呆然と成り行きを見ているようだった。


「な、なんだお前は……?!」

「十二貴族会議の結果、お前は弾劾された。これはその報告書と弾劾書の入った手紙だ。」

「……は?」

「かわりの王は、先代王の孫である俺がなる。」

「はあ?!」

「王様ごっこはここまでだ。残念だったな、おっさん。」

「て、適当なことを言うな!!だ、大体何故お前が……!」

「そりゃ、あんたが暗殺した双子の姉の息子が俺だからだよ。」

「……っ?!」

「ついでに先代を殺したのもあんただろ?あんたの側近が教えてくれたぞ。」

「っっ?!」

「そして極めつけは国費の個人的な利用。」

「っっっ?!」

「お前だって知ってるだろう?十二貴族全員の同意があれば、王を罪に問うことができる。……ああ、お前が手をまわしていた貴族はすでに他の罪で拘束済みだ。」

「っっっっ?!?!」

「ぜーんぶバレてんだよ。大人しく牢屋で裁きを待つんだな。」


え、どういうこと?つまりテュール様は王族だったってこと?情報が多すぎてついていけない王様のまわりを守るように囲んでいた騎士たちもまた、呆然としていて、誰もがテュール様を見ていた。

第三部隊にいるからてっきりテュール様も獣人族だと思ってたけど、違うのかな。そもそも、ロディ様やイヴ様はこのこと知ってたのかな。

ちらりと、ふたりの表情をうかがうと、今にも泣きそうな表情で、二人はわたしの目の前にしゃがみ込んでいた。


「すまない、俺たちが離れたばっかりに……。」

「辛い思いをさせてごめんね……。」


その目線が真っ直ぐわたしの燃やされてしまった腕や傷跡に向けられていて、ああ、やっぱり優しい人たちだなと思う。

同時に、そんな人たちを騙している自分に嫌気がさす。こんな傷何ともないの。化け物だと知られないように治していないだけで、治そうと思えば一瞬で治せるのに。


「……大丈夫です。」


二人を何とか安心させたくて、思わず手を握る。こんな化け物に手を握られるなんて嫌かもしれないけど、今は許してほしい。

もうこれ以上二人を悲しませることはしたくなかった。


「アイ……?」


わたしがなにかを言おうとしていることに気づいたのか、ロディ様が眉間に皺を寄せる。イヴ様はどこか寂しそうに、悲しそうな顔をする。

そんな二人に、わたしはにこりと笑って見せた。


「わたしは大丈夫です。こんなの、傷のうちに入りません。」

「しか、し」

「大丈夫です。だって、わたしは、」


化け物だから。

そう伝えようとしたわたしの声は、けれど、違う声にかき消されてしまった。


「ふざけるな!!」


それは、さっきより更に顔を真っ赤にして、顔を歪めた王様の叫び声だった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 恋愛系小説って主人公がいじめられたり酷い目にあうパターンよくあるよね。悲劇のヒロイン的な?
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