姉妹と兄妹の会話
sideローラとレナード同日の夜のお話です。会話文のみ。
「リリー? ちょっと良いかしら?」
「なあに? お姉様。ソファにどうぞ」
「ありがとう」
「お姉様がお部屋に来るなんて珍しい! どうなさったの?」
「あのね……殿下…レナード様の事………なんだけど」
「? 殿下の事?」
「リリーは…レナード様の事をどう思っているのかと…」
「どうって……? お姉様の婚約者の王太子殿下って事以外に?」
「その……お慕いしているとか……」
「ええ? 嫌よ、あんなヘタレ殿下!」
「は…? ヘ…ヘタレ…?」
「お姉様の前では格好つけてるけど、自分から動けないヘタレじゃない」
「そう……なの?」
「そうよ! 私からお姉様の情報を聞き出そうとしてくるんだから」
「まぁ……」
「確かに、少しお姉様のお話はしたけれど……デレデレしてて、少し引いたわ」
「デレデレ…」
「それに、私の理想はアンディーお兄様だもの!」
「え?」
「お父様お姉様と似たクールな雰囲気と美貌、そこはかとなく漂う腹黒さ。殿下にもキッパリ物申す格好良さ! 殿下と比べ物にならないわ!」
「確かにお兄様は格好良いけれど…」
「お兄様に注意されて凹んでる殿下を見た時は、上下関係を疑ったわね」
「お兄様…なんて事を…」
「でも、何で私が殿下を慕っていると?」
「………わたくしの勘違いだったのだけれど、……レナード様とリリーが凄く仲良さそうに見えて……婚約者を変えた方が良いのかと…」
「嫌よ! 絶対嫌! お姉様しか見えていない殿下を慕うなんてあり得ない!」
「そこまで……」
「あれ? 勘違い…って事は……」
「ええ、今日レナード様とお話しして、色々伺ったの。でも、リリーの気持ちは聞いて無かったから…」
「ヘタレ返上したのね! 良かった! 大丈夫よ、お姉様! 私は殿下にまるで興味が無いから! お姉様を泣かせたら許さないと思ってる位よ!」
「そう…良かった…」
「ふふ、お姉様嬉しそう」
「……そう?」
「最近、少し雰囲気がピリピリしてたもの。今はだいぶ柔らかいわ」
「そうね…レナード様のお話を聞いて、わたくしを大事に思って下さってる事が分かって……嬉しかった。それに、リリーにも話を聞けて良かったわ」
「お姉様は考え過ぎなのよ」
「だって、リリーが可愛らしいし、わたくしは暗いから……愛されるならリリーでしょう?」
「……お姉様? 私はお姉様が羨ましいわ」
「え?」
「お姉様の透き通る美しさが羨ましい。大人っぽい色気が羨ましい。勉強が出来るところもマナーが美しいのも羨ましい。スタイルが良くて、長い手足が羨ましい」
「リリー…」
「お姉様は私が愛されると言うけれど、私は愛玩的な愛され方が多いわ」
「そんな…」
「お姉様は自己評価が低すぎるのよ。……それに、私達二人とも無い物ねだり」
「………そうね…」
「お姉様が私になれないように、私もお姉様になれない。……そもそも、あのヘタレ殿下はそれを望んでないでしょうし」
「だからヘタレって……」
「殿下はお姉様を丸ごと愛してくれると思うわ。だから、信じてさらけ出していいと思う」
「うん……そうよね」
「そうよ! それにもし、殿下の事が嫌いになったら、家族全員で色々阻止するわよ!」
「ふふ、心強いわ」
「うん、やっぱりお姉様は笑っているのが良いわ!」
「ありがとう、リリー」
「お兄様!!」
「なんだいリリー。ちゃんとノックの返事を待ってから…」
「そんな事、今はどうでも良いですわ! それよりも! 今日お姉様と殿下に進展があったと聞いたのですが?!」
「ああ、それか。今日殿下が家に来てね、色々ローラと話していたよ」
「お兄様は知っていたの?」
「何かあるとは思っていたから、出かけたふりして四阿の二人を見ていたよ?」
「お兄様ばっかりずるいわ! 私にも教えてくれれば良かったのに!」
「今回はリリーが居ない方が都合が良かったからね」
「ああ、婚約者を変えるとか、私が殿下に懸想してるとか?」
「何だ、知ってたのか」
「今お姉様とお話ししたの。ヘタレには全く興味が無いと言い切ったから、もう誤解はしないと思うけれど」
「ローラに殿下の事をヘタレと言ったのかい?」
「勿論よ! あんなのヘタレで十分よ」
「まあでも、今回は流石に頑張ったみたいだよ? 読むかい?」
「なあに? ………お兄様……これって……」
「四阿に誰も仕込まない筈がないだろう? 一部始終の報告書だよ」
「鬼畜ですわね、お兄様。ありがとうございます」
「中々楽しいよ」
「…………………殿下にしては頑張りましたわね。ここまで曝け出すとは……」
「ローラを失うかもしれない恐怖の方が勝ったんだろうね。哀しい顔をさせた時点で引き離そうかとも思ったんだけど」
「お姉様が哀しい顔をなさったんですか…?」
「殿下を慕っているのに、別れを切り出そうとしていたんだ。哀しい顔にもなるだろう?」
「……そうですわね…。……私の行動も考えが浅かった部分がありましたし…」
「仕方ないさ。ローラは自分を理解していないからね。まあ、殿下の態度もアレだったけど…」
「私の方が可愛いから愛される、と言ったのですよ? 自分は暗いからと」
「自分が可愛い物を愛するから、その価値観が強いんだろうね」
「だから、自己評価が低すぎると言いました。お互い無い物ねだりですね、と。…どこまで通じているかは分かりませんが…」
「大丈夫だよ、リリー。きっとこれから殿下が一生懸命愛を囁いてくれるさ」
「あのヘタレにどこまで出来ますかね」
「次は無いと分かってるだろうから、頑張るしかないよ」
「そうですね、頑張って頂きましょう」
「さ、そろそろ部屋に帰っておやすみ」
「はい、お兄様。ありがとうございました。おやすみなさい」




