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夏(仮)  作者: ふゆか
現在
37/38

未定

日も落ち、学生で賑わい始めた店を出た。西の空はまだ僅かに明るさを残しているが、頭上には星が煌めき始めていた。太陽を失った外の空気は一段と冷たかった。


「どうする?」


きっと「ついてこい」みたいに言えれば格好いいのだろうが、女子と出歩いた事がないひろゆきはこういう時にどうすればいいのか見当がつかない。二人で暫く空を見上げながら考えているとあかりが何かを思い出したかの様に「そうだ」と言った。助けを求める様にあかりをみると、


「行きたい所ある。」


とにこにこしながら言う。


「どこ?」


「内緒。」


悪戯に言うと歩き出した。先を行こうとするあかりの横に慌てて戻ると並んで歩き出す。相変わらず微妙な距離感が保たれている。


「多分ね、これから行くとこはひろはあんまり好きじゃないと思う。」


ひろゆきを見上げながら言うあかり。そう言われると余計に気になるのだが「着いてからのお楽しみ」と言うあかりに制され黙ってついていく。


「ここ。」


と言って立ち止まった二人の前には電飾で彩られた木々が川沿いに立ち並んでいる。普段は皆気にも止めず通り過ぎるのだが、この季節は足を止め一定の感覚で点滅する光を眺める。


「行きたい所ってこれ?」


目的地が何処か、随分と頭を巡らせていた分余計に拍子抜けしてしまった。


「やっぱりあんまり興味ないでしょ。」


「そ、そんな事ないよ…。」


あんまりどころか全く興味はないがあかりが行きたいと言った場所という事もあり必死に取り繕う。


「無理しなくてもいいよ。小学校の頃誕生日会とかクリスマスとかの飾り付けの時いっつも『意味わからん』って言ってたじゃん。」


「そうだっけ?」


「そうだよ。覚えてないの?」


確かにわざとらしい演出は嫌いだった。だからこの時期に無理やりクリスマスを演出するイルミネーションもそれに群がる人達も嫌いだった。ただ、小学生の頃からそんな事を言っていたのはすっかり忘れていた。


「まあ、何かわざとらしいなとは思うけど。」


それを聞いたあかりがくすりと笑った。視線をひろゆきに向けると、


「何か安心した。」


「何が?」


「やっぱり変わってないなって。」


そう言うと再びイルミネーションに視線を戻す。


周りを見渡すと、何組ものカップルが足を止めていた。きっと他の人から見たら自分達もカップルなんだろうなと思うと少し嬉しかった。


あかりに目を向けると、目の前の電飾をうっとりとした顔で見ている。その電飾が点滅すると、あかりの横顔も明るくなったり、暗くなったりした。そんなあかりの横顔を見ながら、イルミネーションを見ている人達はこんな気持ちなのかな。と少し分かった気がした。


「これってさ。」


あかりに見とれていると不意に目があった。「どうしたの?」と微笑むあかりがいつもより綺麗に見えた。


「きっと飾り付けした人は電気がつくまでどんな感じか分からないと思うんだよね。それでもこうやって綺麗にできるのって凄くない?」


確かにそう言われるとその通りだなと思った。毎年気づけば出来上がっていてそこまで考えた事はなかった。そんなふうに考えられるあかりが随分と大人に感じた。


「それにさ。ひろが言うみたいに意味ってないとは思うんだよね。別に無くてもいいし、何か役に立つわけでもないし。でも街が華やかになって、ひろみたいな人は別として、みんなをウキウキさせてくれるじゃん。そういう無くても良いものが街とか、気持ちを明るくしてくれるじゃん。」


「なるほどね。」


「何だってちゃんと存在する価値はあるんだって思わせてくれるとこが好きなんだよね。」


その言葉はあかり自身に言い聞かせているようにも見えた。


その後二人は黙ったままイルミネーションを眺めていた。並んでいる二人の距離は気付かないうちに隙間がなくなっていた。


「よし。満足。」


「俺も。」


きっと満足の意味合いはお互い違うと思う。でも、ここに来られて良かったという気持ちは同じだと思った。


「お腹空いた。何食べる?」


「吉野家で良かったら奢るよ。」


「本当に?」

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