未定
施設に戻ると、たかしとまさやがニコニコー。いや、ニヤニヤしながらひろゆきの元にやってきた。
「気にするな。人生は長い。」
ひろゆきの肩に腕を回してたかしが言った。
「サッカーどころじゃないね。」
まさやが満面の笑みで言う。
(コイツら。)
直ぐに察しがついた。
「名前書き忘れるとか…」
たかしが笑う。
「僕はそんなひろが大好きだ。」
まさやが半分笑いながらそう言った。
「お前ら。」
そう言うと、ひろゆきはまさやに襲いかかった。
何故か昔から得意な四の字固めで締め上げる。
「あー。ギブ、ギブ。」
もがきながらひろゆきの足を‘タップ’するが緩めない。
「たかしだって。」
こんな二人の姿を見ながら大笑いするたかし。
「ひろ、そのへんにしとけって。」
諭す様に言うたかしを睨みながら
「次はお前だ。」
と、今度はたかしに襲いかかった。
「やめろって。」
あかりとの楽しい一時から、現実に引き戻されていたが、少し気持ちが楽になった。
こんな友達を持つ自分が幸せだと改めて思った。
食事を済ませ部屋でゴロゴロしているとたかしがやって来た。
「今日、遅かったな。」
「ああ…」
「あかりと会った」と言いかけてやめた。
「落ち込み過ぎて失踪したかと思ったわ。」
「だれが補習くらいで。」
強がってはいるが本当は失踪してしまいたい位落ち込んでいる。
「でも、1ヶ月はでかいな。」
「1ヶ月?」
「補習期間。」
知らないの?という顔でひろゆきを見るたかし。
「それマジ?」
「マジ、マジ。」
これは嘘ではない。たかしの雰囲気から察した。
「マジかよ…」
この高校で、1ヶ月部活を抜けるのはあまりに大きすぎる。特に夏休みは皆サッカー漬けの毎日を送ると言うのに。
ただでさえ実力的には下の方のひろゆきには絶望的な事実だった。
「とりあえず、補習しっかりな。何かあれば手伝うからさ。」
親指を立ててそう言うたかしを見て、
(こいつは本当に男前だな)
と思った。
夏休みに入り、補習漬けの毎日が始まった。
結局期末テストの結果は赤点3つ。無記名がどうとか言う問題ではなかった。
補習は学年の‘劣等生’が一同に集まる。と、言ってもひろゆきを含めて8人だけ。自分が情けなくなった。
補習は1日4コマある。毎回小テストがあり、8月のお盆前に最後のテストが行われる。都市伝説かどうかは分からないが、そのテストをクリア出来なければ留年確定という噂を聞いた。それが本当だとしたら、正に崖っぷちだ。
授業中、窓の外では部活で汗を流す生徒達が見える。もちろんサッカー部も。
こうしている間にもどんどん離されていく。
そんな焦りと恐怖が心の中を渦巻く。
「竹田。」
「はい。」
不意に呼ばれ声が裏返る。静まり返る教室。経験したことはないが、お通夜みたいだなと思った。