表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

神々の祝福の詩 後篇

 ジェスクの気配が光の神の物となり、その腕の中でリュースは、安堵の微笑を浮かべた。

離れなくても良い、ずっと傍に居られる…そんな思いと、暖かな光の気配の心地良さに、頬を濡らす涙も止まる。

そして、ゆっくりと顔を上げてジェスクから体を離し、彼を見つめる。先程とは違う輝く髪と、昼間の為、全く変らない青く優しい瞳…。その双眸を真剣に見つめながら、返すべき言葉を綴る。

 『我、大地を育み、実らせる者は、汝、光輝く者の妻となります。』

返された誓いの言霊にジェスクは微笑み、今度は彼がリュースを引き寄せ、抱き締めた。

初めてジェスクから、抱き締められたリュースは、素直にその胸に顔を埋めた。自分の夫になる神…光輝く者を離したくない一心で、その手を背中に回している。

背中に回された腕を、ジェスクが、引き離さなす事は無かった。腕の中にいるのは、自分の愛おしい者…大地を育み、実らせる者。

一度だけ聞いた声の主に、一目会うまで、これ程魅かれるとは思っていなかった。

離したくない存在、護りたい存在、自分の(かいな)(いだ)く者は、唯一の伴侶…何よりも大切な存在になっていた。

そんな二人に、無粋な声が掛った。

聞き覚えのある、男性の声と女性の声…。

「ジェス、何フラフラしてると思えば…こんな所に居たのか…。

全く、リューが攫われて大変だって時にいなくなって、見つかったと思えば、リューを助け出してるし…。まあ、結果が良かったから、説教は無しにしてやるが…

リュー、此奴(こいつ)で良いのか?」

「本当ですよ。ジェスは何時も、何も言わずに何処かへ行くし、見つかったと思えば、何かしら仕出かして…全く、落ち着きが無いたら…。

リュースでしたね。本当に、これが夫で良いのですか?」

「…ラール…リダ…もう…来たのか…。」


聞き覚えのある毒舌が聞こえ、その名を呼んだジェスクは、声の聞こえた方向へ視線を向けた。

そこに居るのは、一組の男女。

男性の方は、左右の髪の色と瞳の色が違っていた。

左の髪は闇を映した様な黒で、右の髪は光輝く金髪。その長さは短く、肩に届くか如何かだった。

瞳は左が夜の紺色、右が昼の青で、空を体現しているようだ。服は騎士服だったが、袖の短い白い無地の中着に、上着に袖はなく、黒地に星と太陽の装飾がある。

その額には小さな太陽の形の、両耳には星の形の装飾品を着け、左腰には太陽と星の装飾がある白と黒の剣を帯びている。

女性の方は、地面に着く位の、長く艶やかな闇色で、緩やかな波を描く髪を後ろに流し、優しい光を宿す双璧も、やや青みがかった銀色・夜空の月の色であった。

リュースと同じ型のドレスだったが、色は闇色、裾模様に月と星をあしらい、胸元と両耳にも、月と星が飾られている。そして、その細い右腰には、闇色の剣が存在している。

彼等の纏う気は、神気、空の物と闇の物だった。

「ラールと…アークリダ?」

ジェスクの腕の中で、リュースが彼等を呼んだ。その声で二人は微笑み、闇色の女性が彼女に近付いた。

「初めまして、大地を育み、実らせる者。

私は、これの対になる、闇の安らぎを与える者です。リダで良いわ。

対と言っても、姉弟(・・)みたいなもの、やんちゃな弟を宜しくね…と言いたいのだけど、もう一度言うわ。本当に、これで良いの?本当に、後悔しない?」

念を押して聞くアークリダに、はいと、微笑みながらリュースは答える。

「ジェスで良いのではなく、ジェスが良いのです。」

「助けてくれたから…なの?」

「いいえ、王宮に招かれた吟遊詩人として、初めて会った時から、ジェスが…その…好きです……。」

段々小さくなって行く声に、アークリダは納得した。恥ずかしそうに顔をジェスクの胸に埋め、俯く姿で、彼女はほっとし、微笑んだ。

そして、未だリュースを抱き締めているジェスクへ、視線を向ける。厳しい顔で何かを言おうとしたが、彼のリュースに向ける表情で、言う気を失くした。    

愛しい者を見つめる、(ほう)けた表情…。それに気が付き、代わりに別の言葉が口から出る。

「ジェス…貴方もそうなのね。リュースじゃあなければ、嫌なのでしょう。

そうでなければ、夕べの様な事は起こらないでしょうし、貴方の精霊騎士達も、今の状況に納得していないわ。現に今彼等は、貴方の行動を積極的に、支援しているみたいだし…ね。」

先程の、ルシナリスの行動を言っているらしく、ジェスクは苦笑気味になった。

嫌な顔をせず、積極的にルシナリスが、リュースをここへ案内した。

気配を消しての物だったが、恐らくリュースをジェスクの傍に座らせたのは、彼の説得と手筈だろう。

主への罰が、主の想い人を傍に侍らせる事とは…、自分に仕える精霊達は、悪戯好きにも程があった。

まあ、主に…創り手に似たと言っても、過言では無いが……。


 


「あ、いたいた…リュー…と…誰?」

「貴方は、誰ですか?何故、リューを抱き締めているのですか…光の…気配?」

騒がしく登場した二人の人物…一人は、燃える様な紅い髪と、炎を映した紅金の瞳。もう一人は揺らめく様な青い髪と、水面を映した蒼い瞳。

対照的な二人の登場に、クリフラールが呼びかけた。

「フレィ、ウェー、ここだ!」

呼ばれた二人は、クリフラールの傍へ走り寄った。そこには彼等にとって、初めて見る女神がいる。

闇色の髪と月色の瞳…纏う気も闇…であれば、自ずとその正体は知れる。

「闇の安らぎを与える者…アークリダ?という事は、こちらの、リューを捕えている…いえ、抱き締めているのが、光輝ける者のジェスクですか?」

縮れた様に細かく波打つ、青色で肩位の長髪を掻き揚げながら、言う人物は、男性にも女性にも見えた。

服装も、女性の物では無く男性の物で、薄い青の地に、川の流れの様な模様と、水滴の様な模様の、袖の無い中着と上着が目に入った。

額には川の流れと水滴を模した物を、両耳には水滴だけを模した物を着けて、腰には同じ装飾のある、青色の剣を左腰に帯びている。

フェーニスの様だと思うジェスクに、彼(彼女?)は近付いた。青い瞳を向け、リュースの様子とジェスクの様子を確かめていた。

彼の言葉にクリフラールと、アークリダは頷き、ジェスクもああと、短い返事を返す。

「貴方は、全てを潤す者・ウェーニスですね。

初めまして、闇の安らぎを与える者のアークリダです。呼び方はリダで良いわ。

御察しの通り、こっちが光輝ける者のジェスクですよ。この馬鹿はジェスって、呼び捨てで結構よ。……ジェス、良い加減、リュースを離しなさい。

全く…これから大事があるのに、まだ睦み合う気なの?」

アークリダの叱咤に、漸くジェスクは、リュースを(うで)の中から解放した。リュースはというと、少し寂しそうな顔をし、ジェスクを見ていた。

リュースの視線に気が付いたジェスクは、リュースの手を取り、自分の右腕を掴ませた。

すると、彼女はその腕に自分の腕を絡ませ、彼の腕に幸せそうに寄り掛かる。



二人の様子に、全てを潤す者ウェーニスは、大きな溜息を吐くと、

「残念ながら、リューの伴侶が決まったのですね。

あっと、初めまして、闇の安らぎを与える者と、…光輝ける者。私は全てを潤す者・ウェーニスです。ラールが呼ぶように、ウェーで結構です。

…リダ、ジェスって、馬鹿なのですか?」

溜息の後の質問で、ええと断言するアークリダ。

「ジェスは馬鹿ですよ。何時もフラ~っと、何処かに行って、何かを仕出かす…これが馬鹿でなくて、何だと思います。」

「…馬鹿とは思いますが、騒動の権現ではないのですか?」

「そうとも言うな。良くジェスは、何かしら仕出かす。今回の様に結果が良い場合と、別の時の様に悪い場合がある。」

「リューを助けたのは、良い結果ですね。では、悪い結果とは?」

「…ラールを実験台にした事…だな。」

ジェスクの言葉に、その通りとクリフラールから、返事がした。あの詩の効果を、彼で試した事を言っているのだと、判ったのだ。

だが、彼が仕出かした事は、良い結果が多い事も、クリフラールは付足した。挙げれば(きり)が無いので、また後で教えると、クリフラールは締めくくった。


「…リューは、その人が…いいの?」

不意に聞こえた声に、リュースは頷いた。少女らしい声は、柔らかな綿毛の様な癖毛で、紅色(あかいろ)の腰までの長い髪の女性から聞こえた。

ウェーニスの後ろから、ちょこっと顔を出した女性…いや、まだ少女の様に見える神は、炎を移したような、紅みがかった金の瞳を彼等に向けていた。

踊る様な炎の模様がある、紅のドレスに身を包み、炎の装飾を胸と額、両耳に付け、紅い剣を持つ少女は、好奇心があっても、不安が(まさ)っているらしく、ウェーニスの傍を離れない。

「フレィ、彼等は大丈夫ですよ。だから、私の後ろから、出て来なさいね。」

ウェーニスに言われ、出てくるが、彼の服を掴んだままの少女に、アークリダが声を掛ける。

「初めまして、全てを暖める者・フレィリー。

私は、闇の安らぎを与える者のアークリダです。リュースの傍に居るこれは、光輝ける者のジェスク。呼び方は、ウェーに言った通りで良いわ。」

「初めまして、全てを暖める者・フレィリーです。…あの、わたしの事は、フレィでいいです。…あの、えっと、」

緊張しているらしいフレィリーに、ウェーニスは、良くやったとばかりに頭を撫でていた。

妹をあやす兄の様に見える、ウェーニスの行動に、アークリダも微笑む。

「ウェーが羨ましいわ。こんな可愛い妹がいるなんて。

うちの弟と来たら、無鉄砲で騒動の中心で、落ち着きが無いったら…。まあ、今回の事で、落ち着いてくれれば良いのだけど…無理かもね。」

そう言って、溜息を吐くアークリダに、ウェーニスが苦笑した。如何考えても、ジェスクの事を言っている彼女の言葉に、共感が持てた。

「…確かにフレィは、可愛い妹ですよ。それはリダにとっても、同じでしょう。

でも…私にジェスは、弟として扱えません。寧ろ、落ち着きがない兄…が妥当でしょう。」

「そうですね、ウェーニスやフレィリーにとって、ジェスは兄、アークリダとクリフラール、そして、私にとっては、やんちゃな弟ですね。」

女性らしくもあり、男性らしくもある声が聞こえ、真っ白な羽が辺りに舞った。

その元である大きな翼を広げ、現れたのはウェーニスと同じ、男性にも女性にも見える人物。フレィリーと同じ癖毛の、胸のあたりまである薄紫の髪と、光を反射するような金色の瞳。

服の型はウェーニスと同じで、髪と同じ薄紫の地に時を刻む砂と、始まりと終わりの無い輪の模様の物を着ていて、その肩には白く長い布が、風に揺れていた。

その布…肩掛けと胸、額と両耳には服の模様と同じ装飾が施してあった。

只、その人物の背には、他の神には無い、真っ白で大きな羽が存在していた。

「フェーも来たという事は、これで全員揃ったな。

フェー、皆との挨拶は、後にしてくれるか?今は、愚かな者達の方が先だ。」

クリフラールに言われ、頷くフェーこと、フェーニス。

時を刻む者と言う肩書を持つ彼は、他の神々と合流し、向かうべき先を見つめる。


 彼の登場で、初めの七神がここに集まった。そして、罪深き者の制裁の時は、刻一刻と迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ