第8話
「…人、多いね。」
「そりゃあまぁ、四大王国って呼ばれる大国の一つで、普人族領土の中心国でもあるからな。人が多いのは仕方がない。
それに、今日は初めて国民全員の前に、自分達の敵である魔王率いる魔人族を倒してくれる勇者が公開されるんだ。その勇者様を一目見ようと集まってるんだろ。」
うじゃうじゃと人が集まってくる光景を、この城の廊下にある窓から覗く、サクラとサフィア。
「…ほら、行くぞ。」
サクラがそう声をかけると、「うん。」と爪先立ちをしていたサフィアは頷き、サクラの隣に駆け寄る。
「おぉ、これはこれはサクラ殿とサフィア殿ではないですか。」
歩き出そうとした矢先に声をかけられる。
「どうもご無沙汰でございます、オルワ殿。」
声をかけてきたオルワに返答するサクラ。。
サフィアはサクラのローブをギュッと掴み、隠れるようにしてサクラに身を寄せる。
「これからどちらへ?」
オルワが尋ねてきた。
「マリルの部屋に行こうかと。あいつ、まだ起きてきてないみたいで…あいつの父親に起こしてきてくれって頼まれましてね。」
はぁ、と溜め息混じりに応える。
「ふぉっふぉっふぉ、王様がですか。やはり一番大変そうでありますな、マリル様の聖衛騎士は。」
そう言うオルワは愉快そうに笑う。
「本当ですよ。てか、俺が騎士ってのも可笑しな話ですけどね。」
「それもそうじゃのぅ。サクラ殿は“騎士”と言うよりは“死神”と、呼んだ方がしっくりときますからな。」
と、サクラのローブ姿を見て言うオルワ。
その言葉にサクラは苦笑いを浮かべながらも頷く。
「…と、そろそろマリルのところに行くので、これで失礼します。」
「おぉ、そう言えばそうじゃった。いや、引き止めて悪かったのぅ。」
それを最後まで聞いたサクラは軽く一礼し、その場から離れていった。
(*・ω・)ノ
「お〜い、起きろ〜。」
ゆさゆさと、ベットにくるまって寝ている金髪の少女を揺さぶるサクラ。
金髪少女の名前はマリリルート・セカン・アンスヴェーク。サクラやサフィアなどはマリルと呼んでいる。
この国の国王である、アルフォート・ロア・アンスヴェークの2人目の娘だ。
1人目は姉の第一王女、フィリアミラ・ファース・アンスヴェークである。
「…起こそうか?」
マリルの顔の上に水の塊を作りながらきいてくるサフィア。
「おいこら、やめなさい。」
サクラはそう言うと水を凍らせ、砕け散らす。
「ん…ん〜。」
ごろんと寝返りを打つマリル。
どうしたもんかなぁ〜。と、唸りをあげていると、サフィアがサクラのローブを軽くつまみ引っ張る。
「ん?どうした?」
「おしっこ!」
元気よく発するべきではない単語がサフィアの口から飛び出してくる。
サクラは【Rest room】と書かれた扉を指差す。
サフィアは「おぉ〜。」と感激を表し、そのままその扉の向こうに旅立った。
「…よし。」
サクラはそう言うと、マリルを仰向けに寝かし、両肩を掴む。
(……堪忍やで、マリル。)
そぅ、心で呟き、マリルを前後に揺さぶろうとした…瞬間。
「その手を離せ、【氷雪黯狐】。」
キーンと、サクラの首もとに両刃の大剣をそえる、【聖なる勇者】良男。
「…勇者様が背後から忍び寄って脅してくるなんてな。まさか、そんな卑怯な行為を────」
ヒュンッ
「…黙れ。」
大剣を振るい、サクラの首を跳ね飛ばす…が、跳ね飛ばした首も含めた、サクラの身体が氷に凍て変わり、四散する。
「───するわけ無いはずなんだけどな〜。」
「……。」
自分の背後に現れたサクラを睨み付ける良男。
「無防備な少女の寝込みを襲おうとした貴様なんかに言われたくはない。」
ジャキッと、大剣を構える。どうやらお怒りのようである。
サクラは「はぁ〜。」と、大きく溜め息をつく。
「なんだよ、その態度はよ!!馬鹿にしてんじゃねぇぞっ!」
どうやらサクラの態度が癇に障ったらしい。
良男は普通では目にもとまらない速さで間合いをつめ、ゴゥッ!!と大剣を唸らせながらサクラ目掛けて振り落とす。
………が、サクラにとっては避けるのも憂鬱に感じる速度だ。
サクラはローブの裏側から、その大剣を防ぐために刀を抜き出そうとした……瞬間!
ガキンッ!!
部屋中に刃と刃が交わる音が響き渡る。
「なっ!?」
良男が声をあげる。
サクラも目を見開いて、驚きを隠せていない模様。
それもそのはず。サクラは防ぐどころか、刀を抜いてもいないのだから。
では何故、交わった音が響いたのか、それは…。
「あ、あり…さ?」
そう、その斬撃を防いだのは、学校の制服と思われるブレザーとスカートを着込んだ、白髪のもう一人の勇者、心道 光咲だ。
「な、何故邪魔をするのだ!光咲っ!!」
良男は目の前にいる、少女に言葉を発する。その声音には困惑と疑問の色が混じり込んでいた。
「…良男君こそ、いったいn─「何をしているのですか?」…。」
光咲が口を開いたと思った矢先、さっきまでベッドで気持ちよさそうに寝ていた少女、マリリルート・セカン・アンスヴェークがそれを遮った。
光咲は複雑な心境になったようだ。
………ジャー。
最後に部屋に響き渡ったのは水が流れる音だった。
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