第7話
「……うん。今日はいつもよりキマってんな、俺。」
フンッ!!と、鏡の前でポーズをきめ、ドヤ顔を向ける良男。そして☆キラリ☆と、ぐるぐる眼鏡が一瞬、ひかる。
今日は旅立ちの日。
魔王を倒すために召喚された勇者を国民全員で無事、魔王を倒し帰ってくることを願って快く見送り出す、壮大なイベントだ。
もちろん、その主役である良男がそのイベントを楽しみにしないわけがない。
その証拠に、身に付けている洋風の鎧からは金色の、よくわからないオーラがいつもの二割増しで発せられている。
おかげで目がチカチカするではないか。全く、はた迷惑な奴である。
「…よし。こんなもんだろ。」
最後にプラスチック製の櫛(良男の私有物)で一回り、とかすと満足したのか、そのままカッコ良くマントを無駄にはためかせて、身を翻し、部屋のドアノブを握り締める。
そして、扉を開け放った。
……………瞬間っ!
「「「「「いや〜んっ♪ヨシオ様ぁ〜♪」」」」」
「おふふふっ」
と、甘ったるい複数の女性の声音が聞こえたと思ったら、ドドド…と、良男を巻き込みながら部屋に押し寄せる女性達。
もちろん、その後の下心丸出しの声はもちろん良男の発したものである。
「いや〜ん♪本物のヨシオ様よ〜。」
「あぁん♪素敵〜。」
「私を抱いて〜、ヨシオ様〜♪」
などなど。良男を押し倒した女性達が次々と良男に黄色い声を浴びせていく。
「こらこら、落ち着きなさい子猫ちゃん達。大丈夫、この勇者、改めて良男様は逃げたりしないから。」
そう言った後、女性達にウインク(^_-)-☆を飛ばす。
「あぁん。もぅ、ダ・メ…。」
と、ウインクを受けた女性達は頬を赤らめて、次々と倒れていく。
「HAHAHA〜。全く、モテる男はつらいな〜もう。」
良男はそう言うと、女性一人一人を相手にしていったのであった。
(……ヤバいな。ここを開け放ったら大変な事になりそうだ。)
と、ドアノブを握り締めながら、よくわからない事を思う良男。
ヤバいのはお前である。お前のくだらない妄想で数行無駄にしてしまったではないか。
後でこの落とし前はつけてもらうからな。
と、作者は思うがお前がこれを書いているんだろ、的なツッコミはしないでほしいです、はい。
「……よし。」
良男は意を決し、期待に胸を膨らませ、扉を開け放った。
「おぉ、これはこれは、ヨシオ様ではないですか。おはようございます。」
扉を開けた先には、灰色に近い感じの青色をしたローブを、フードをかぶりながら羽織ったご老人が杖をついて、お辞儀をしてきた。
オルワ・カナタ。これが、ご老人の名だ。 そして、良男と光咲を勇者として召喚した張本人である。
「………。これはオルワじゃないか。おはよう。」
良男は涙をグッとこらえ、震える声音を抑えこみ、言葉を発した。
現実はそんなに甘くない。と言うことだ良男。
…………ざまぁwww
「…で、何故オルワがここに?」
ちょっと、不機嫌気味にオルワに問いかける。
「そろそろ時間になりますので、ヨシオ様とアリサ様をお呼びいたそうと思いましてね。」
「……まだ、光咲はいないようだが。」
「アリサ様はこれからお呼びに行こうかと。」
「そうか…。なら、それは俺に任せてくれ。ちょうど今から光咲の部屋に行こうかとしていたところなんだ。」
それを聞いたオルワは、「わかりました。お任せします。」と言い、身を翻して来た道を歩いて行った。
良男もそれに合わせて、光咲の部屋に向けて足を進めた。
(・д・)(・∀・)
「……まぁ、こんなもんでいいかな。」
部屋に備えてある等身鏡のまえで、紺色のスカートの裾をつまむ光咲。
そのスカートから覗く、黒色のスパッツがとても素晴らしい。
光咲は等身鏡から離れ、テーブルの上に置かれた、白色のスマホを手にとり、電源を入れる。
「相変わらずの圏外か…。」
こっちに来てから消えることのない二文字。
電源を消し、身に付けているブレザーのポケットにしまい込む。
「光咲、いるか?」
コンコンと、ノック音の後に良男の声が扉越しに響く。
「あ、良男君。うん、いるよ。」
「そうか…んじゃあ、邪魔するぜ。」
そう言い、ガチャリと、部屋に入ってくる良男。
「おはよう、よs…ちょ、眩しい。」
侵入して来た良男に挨拶をしようとしたが、良男から発せられてる金色のオーラが眩しかったので途中で中断し、目を片方瞑る。
「そうだろ?いつもよりもキマってるだろ?光咲。」
そんなこと誰も言ってない。光咲はただ、眩しいと言っただけである。
良男は調子を良くしてさらに、そのオーラを一層強くする。
「良男君、眩しい。」
手の甲で目を覆い隠し、良男のうざったいオーラを防ぐ光咲。
「フッ、わかってるさ光咲。俺があまりにもかっこ良すぎて直視が出来ないんだろ?しょうがねぇよ。かっこ良すぎる俺が悪いんだからな。気に病む必要はないさ、光咲。」
なんとまぁ、理解しがたい思考回路だこと。
別に、眩しいだけなんだけど…と、光咲は思うが口にはしない。
この子は人が出来てる。どこかのぐるぐる眼鏡野郎とは大違いだ。
「うぎゃぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁっ!!」
急に良男の悲鳴が部屋中に響き渡る。と、同時に良男が発していた金色のオーラが引いていく。
光咲はすぐに手をどかし、良男を見る。
「良男君っ!?」
光咲の目の前には、片膝と左手を床につけ、あいている右手で顔を覆う良男の姿が。
光咲は良男に駆け寄り、声をかける。
「どうしたの良男君っ!」
心配そうな光咲に、良男はこう口を開いた。
「…クッ、どうやら自分が発していた、聖なる輝き(ブライトネス)は俺自身でさえも傷つけてしまう程のモノだったらしい。
…まったく、自分でさえも耐えられない力を持っているなんて、俺は、俺自身が怖くなっちまったぜ。」
顔から少し手を離して、その震えている手のひらを見つめる良男。
「へ、へぇ〜、そうなんだ。」
と、相槌をうちながら光咲は横の方に顔を向ける。
その先には先程、光咲が使用していた等身鏡が。
それを見た光咲は理解し、あることを思い出した。
(そう言えば、良男君て鏡があるとすぐにガン見しちゃう癖があるんだよね。)
まぁ要するに、良男は横にあった等身鏡に目を向けて、その等身鏡に反射した自分のオーラを直視してしまったってことだ。
自業自得。この言葉が一番しっくりくる場面だ。
「良男君、大丈夫?立てる?それと、眼鏡割れてるけど…。」
「あぁ、大丈夫だ。立てる。すまないな、光咲、心配かけて。」
良男はゆっくりと立ち上がる。眼鏡に関してはスルー。
「…うん、大丈夫そうだね。じゃあ、行こうか。」
光咲はそう言うと、良男の手首(手じゃないぞ?手首だからなっ!)を握り、部屋を後にした。
良男が顔を赤らめていたのは言うまでもない。
ちょっと長くなりそうだったので、いったんここで区切り、次話に移します。
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