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じーちゃんとの再会

「はぁ……」


深い溜息。


 華金を迎えたサラリーマン、あまつさえ翌日に親友の結婚式を控えているとは思えないほど、暗いオーラを纏うこの男の名は『一宮蓮いちみやれん』。


一応、この物語の主人公である。


「結婚かぁ、最近式に呼ばれることが増えたと思ったら、いよいよ親友もか……」


 別にものすごく羨ましいというわけではない。


 ただ、生まれてから25年彼女もできずに過ごしてきた俺からすれば、直視できないほどに眩しく感じるのだ。


「別に顔だってフツメンだと思うし、性格だってこれまでも女友達にも嫌煙されるようなものじゃないのになぁ……」


 ブツブツと愚痴をこぼしながら家に着く。


「はぁあ、社会人になっても実家暮らしってところも、モテない原因なのかねぇ」


 残業も少なく、優しい上司と同僚に囲まれた職場、そして住み慣れた実家の安心感。


 普段の生活に大きな不満など持ちようはずもないが、ただ一点結婚どころか彼女もできないことが唯一の悩みと言える。


 「とりあえず、明日の準備しなきゃな」


 親友のため、寝坊などもってのほか。


 沈む気持ちをなだめつつ眠りについた。


 ――翌日


 一晩明けて気が晴れた……というわけではないが、精一杯の笑顔で親友の結婚式に参列する。


「改めて結婚おめでとう明、奥さん大事にしろよー」


「おう!蓮の式にも絶対参列するからよ、いい人できたら紹介しろよー」


 結婚式だというのに我が友『友田明ともだあきら』の様子はいつもとさほど変わらない。


 ただ、心底幸せそうなその顔を見ながら、どこか寂しいような悔しいような、言い表しようのない感情を覚えた。


 ――


 二次会も終わり、若干ほろ酔いのまま家路に着く。


「ただいまー」


「おかえり、ちょっとアンタいくら酔ってるからってネクタイくらいちゃんと締めてなさい!みっともないでしょ!」


 帰るなり母の小言、実家暮らしの数少ない欠点だ。


「飲んでるのにずっと堅苦しい格好なんて無理ですー」


「そんなんだから結婚どころか彼女もできないのよー、悔しかったら早く親にいい人でも紹介してみなさい」


 今一番言われたくないことをズバッと言う母。


 流石にイラッときて何も言い返さず自室に戻った。


「ったく、あんなデリカシーのない人でも結婚してるってのに、どうして俺には彼女の一人もできないんだ!」


 沈んでた気持ちが一気に怒りに変わる。


「いい人ねぇ、たしかに会社に気になる子はいるけど……あぁあ、誰か橋渡し役になってくれないかなぁ、社内で他部署も一緒の合コンとか開いてくれたりでもいいのに」


「なんじゃ、見ておれんなー」


「な、なに、誰だ!」


「おっ、成功したか!久しぶりじゃな」


「へっ?」


 思わず気の抜けた声が出る。無理もない、一年前に他界した祖父の姿がそこにあったのだ。


「なんじゃ、割と驚かんのぅ死んだじーちゃんじゃぞ」


 十分驚いている、それでも俺を幼少期から可愛がってくれたじーちゃんだ、どんな姿で現れようが怖がるはずはない。


「なんだよじーちゃん、どうして、なんで?」


「そらお前、せっかく霊体になったんじゃ、研究の成果をあれこれ試さんでどうする」


 そうだった、じーちゃんは生前催眠術だの幽体離脱だの怪しげな本を読み漁り、何度も俺で試そうと色々やってたんだった。


 「でも、生きてるときは何をやっても成功しなかったじゃないか!」


「生きてるときはな、でも霊体となれば不思議な力のひとつやふたつ使えるじゃろうと思ってな!色々やってたらこうして出てこれたんじゃ」


「そんなまさか」


 祖父の言葉に半信半疑だったが、現にじーちゃんは目の前にいる。


「それで、なんだよじーちゃん急に出てきて」


「そーじゃそーじゃ、見ておれんぞ蓮」


「なにがだよ」


「さっきから見てればああなってくれれば、こうなってくれればと」


「だからそれがなんだってんだよ」


「なぜお前は自分から動こうとせんのじゃ、いつまでも受け身でおるから良縁に恵まれんのじゃ」


 痛いところを突かれた。


「でも……相手のことをよく知りもしないうちから誘ったりは失礼なんじゃ……」


「そんなことを言っておっては永遠に話すらできんぞ」


 たしかにそうだ、それに女性が相手でも友人としてなら普通に話せる。ただ、気になるとか好意となると途端に奥手になってしまうのだ。


「知っておるぞ、お前がそうなってしまったのは過去の体験が関係しておるのじゃろ?」


「なんで知ってるんだよ!」


 そう、俺は学生時代に思いを寄せていた女の子が別の男子を思い切り振るところを偶然目撃した。


 それが原因で告白はおろか思いを寄せていることを勘付かれることさえ、怖いと感じるようになってしまったのだ。


「じーちゃんも俺のこと臆病だと思うのか?」


「いんや、誰しも想い人に拒絶されることは怖い、ただ奥手でいることで損することもある、このまま損したままの人生なんてもったいないじゃろ」


「でも……だとしたらどうすりゃいいんだよ!過去が原因なら解決策なんてないだろ?」


「ふっふっふっ、わしが身につけたのがお前の前に姿を現す能力だけだと思うか?」


「どういうことだよ」


「流石に過去を改変するのは無理じゃが、干渉することは可能になったのじゃよ」


「干渉って……どういうことだ?」


 じーちゃんが生きてるときは、こんな風なセリフは話半分どころかほぼ相手にせず、ただ話し相手になっているに過ぎなかった。


 でも、今は死んだはずのじーちゃんが目の前にいて俺と話してる。


 解決策があるなら試したい……俺がそんな考えになっても仕方ないだろう。


「言うだけなら簡単な話じゃ、過去の自分に意識を飛ばして日常を追体験しながら、そのトラウマにも似た体験の解消を目指すのじゃ」


「でも過去の改変はできないんだろ?」


「そう、人の感情に直接働きかけるような動き、すなわち好意を伝えるなどという行動は、その相手のその後にも大きな影響を与えてしまう」


「じゃあどうやってトラウマ解消するんだ?」


「お前は当時、その女の子がなぜ相手を振ったのか、相手がなぜ振られたのか、そしてどうしてそんなつよい口調で拒絶したのか知らんだろう」


「たしかに」


 当時は目の前の出来事のインパクトが強すぎて、そこに至った経緯や背景なんて考えもしなかった。


「だから、過去を再び体験し自分ならどうしたらその女の子に振られなかったのかを知るのじゃ」


「……わかったよ、でもどうやるんだ?」


「ここからは実際にやってみた方が早いじゃろ」


 すっかりじーちゃんのペースで話が進んでいるが、いい加減自分の奥手にも嫌気が差していたこともあり、俺は素直に乗ってみることにした。


「じゃが、その前に忠告じゃ」


「なんだよ?条件でもあるのか?」


「もちろんある、さっきも言ったが他人の感情を変えてしまうような言動は避けること、そして自分への好意を誘発するような言動もNGじゃ」


「わかったよ」


「そして、もっとも重要なことは、過去へ意識を飛ばしているうちはわしへ感謝やそれに類する感情を持たぬことじゃ」


「なんでだよ?すげー感謝するに決まってるだろ!」


「目的を達したらして構わん、ただ途中でそんな感情を向けられてしまうと、霊体としてのわしの意識が保たんのじゃ」


「成仏するみたいなことか?」


「まぁそんなとこじゃ」


 そんなに俺の奥手が心残りだったのだろうか、少しだけ申し訳ない気持ちになる。


「じゃあ早速行くぞ!そこに横になれ」


 促されるままベッドへ――


「そのままの姿勢で、当時のことをよく思い出すのじゃ、目を覚ますとお前は過去によく見ていた景色と再会するじゃろう」


「わかった、行ってくる」


「しっかりやるのじゃぞ、蓮」




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