第2話 電波干渉は計画的に(なお失敗)
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本作は全3話構成の短編SF×ラブコメです。
第2話は、ヒロインとの“通信的すれ違い”がピークを迎えます。
温泉、恋のチャット改変、そして空に現れる“何か”──
それからというもの、俺の目には、電波が見えるようになった。
(誰もそんなスーパーパワーほしがらねぇだろ…)
空間に浮かぶパケット。赤くちかちかしたやつはイラつき。
青くゆらゆらしたのは寂しさ。
暗号化された通信はノイズまみれだけど、感情だけは透けて見える。
そして──たまにある平文で送られた文章は、“まんま”読めてしまう。
──というわけで。
「ノブ男、ぼーっとしてると、配膳ロボに味噌汁ぶちまけられるよ!」
JCT本社・社員食堂。俺はスープの湯気の中で、天使の声に叩き起こされた。
「ユウちゃん……」
佐藤ユウ 俺の同期
頭がよくて、真面目で強がり、そしてなにより……かわいい。
法人契約でしか接続できない女。
……でもパケットには、猫が掃除機に吸われる動画みたいな電波がピコピコ流れてる。(だがそこがいい)
「ノブ男、2日もシールドルームに閉じ込められてたんだよ?
なのに翌日出社って、ほんとすごいよ……」
彼女はため息をついて、ちょっとだけ笑った。
「まあ、JCTの社訓だもんね。
“接続は信頼、遮断は裏切り。”──」
まるで呪文みたいに、それを口にして、ユウは背を向けて歩き出した。
俺は、ただスープを見つめていた。
……背中を見送ってる間に、海苔が完全に沈んだ。
ああ、もう、人生ってそういうもんだよな。
──そこへ現れたのが、Nordtelの男。
俺の恋敵にして、外資系の犬──
「ノブ男さん、復帰したんですね! いやー、噂になってましたよ、閉じ込められてルーター食べたって」
「……いや、あれは事故だし、事故だし、事故だからな?」
「で、ところで──ユウちゃん、いません? あの子、めっちゃ可愛いですよね~。
そうだ、今度ご飯に誘っちゃおっと♪」
チッ……こいつ、俺のユウちゃんに……
タクミのスマートグラスから、チャットメッセージのパケットが飛んでいくのが見える。
「なんかユウさんとご飯行ったら、絶対楽しいだろうなーって思ってた。
今度、前に言ってたスペイン料理の店、予定合わせよう☺️」
……いやいやいやいや、誰が行かすかァ!!!
「パケット、破壊。」
バチバチバチ……
俺は指先で空間をなぞり、電波をずらす。
干渉、分断、改ざん。バイナリごとぶっ壊す。
──通信改変、完了。
昼休みが終わった頃、俺はゆっくり立ち上がって、
ユウのいる実験室へと向かった。
廊下を歩く足取りが、なぜかちょっと軽い。 ……いや、勝者の足取りってやつかもしれない。
「……ノブ男、ここって電波悪いよね?全然つながらないよ~
外まで出るの面倒だな~」
俺はニヤリと笑い、拳に力をこめた。
周囲の空気がわずかに震える。
電波強度、増幅──いけッ……!
「あれ?急に電波の通りよくなった。
なんかノブ男が近くにいると、いつも電波よくなるんだよね~」
心の中でガッツポーズする俺。
やったぞ俺……これは、勝利のWi-Fiだ……!
そのとき、ユウの端末にチャットが届いた。タクミからだ。
「な……前……ス……定……☺️?」
──バグった。
おそらく、俺がパケットにノイズ突っ込んだせいで、文意が分解されたんだ。
結果として──
「なますて?」
と、音読したユウが吹き出した。
俺もつられて、くっくっ……と笑ってしまう。
だがそのとき、ユウの目がピクリと動いた。
「……今、私のメッセージ……見たの?」
その瞳は冷たかった。
「サイテー。」
ぐはっ……
通信社会の信頼を、個人的欲望で裏切ってしまった──!!
ユウはそれ以上なにも言わず、天井を見上げ、ふと呟いた。
(……ナマステってなんだろう……)
ピコン
タクミのグラスに返信が届く。
「“ナマステ”って、“あなたの心の平和”って意味だったんだね
……私、ヨガ始めた覚えないけど?」
ユウの心のWi-Fiのピクトが1本減った。
***
……うん、詰んだ。
いや、詰ませたのは俺なんだけど。通信社会における恋のパケットは繊細すぎる。
とほほ……こんな日はWi-Fi温泉にでも入って、癒されるか……。
注)Wi-Fi温泉とはWi-Fiがつながりやすく、人の少ない場所。
ノブ男が感情パケットに振り回されることなく、「いま、ここ」を体感できる、
いわばWi-Fi界のヨガスタジオである。
「……はぁ。いいWi-Fiだぁ……」
俺が心の平和にに立っている傍ら、
渋谷では交差点、誰もがスマホ片手にうずくまっていた。
SNSが、心を食い荒らしている
──なにかが、おかしい。
ザザ……ザザザザ……ッ!
──そのときだった。
俺の視界に、真っ赤な電波ノイズが突然流れ込んできた。
バチバチと電子の火花が弾けるようなノイズが、空間を引き裂く。
「え、ちょっ……なにこのバズ量……!」
視界が埋まる。タイムラインが加熱していく。
怒り、不安、絶望、怒号。
SNSに接続された全端末から、強すぎる感情パケットが世界を汚染していく。
「──“トーキョー上空に未確認飛行体”?」
「“謎の通信圧で脳に異常”って……」
「“地球がうるさすぎて攻撃されてる”ってどういうこと!?」
──バズの中心にあったのは、宇宙からの電波。
感情のノイズを追って来た、AI種族のエイリアンだった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
「ナマステ」は伏線でも暗号でもなく、ただの事故です。
いよいよ次回、物語はクライマックスへ。
YouTubeと宇宙人と、だいすきの話。




