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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
9章・セドラル、再び

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第811話 最後は静かに

 青空が後退しながら鉤爪を振るい、斬撃を飛ばす。

斬撃がクリフの肩口を裂く。だが、それでも奴は怯まない。


クリフはそのまま腕を振り抜き、橋の床も巻き込んで薙ぎ払った。

石片と衝撃波が周囲へ飛び散る。しかし、それを食らった者はいなかった。

すでにみんな、散開していたからだ。



 龍神が雷を放ち、稲妻がクリフの胴体へ直撃し、黒煙が上がる。

その隙を突き、エルが踏み込んだ。

水を纏った槍が連続で突き込まれ、喉、肩、脇腹といった箇所を正確に狙う。


だが、それでもまだ止まらない。

クリフは槍を受けながら前進し、そのまま拳を振り上げた。


「姉ちゃん!」


モールが風術でエルを引き寄せた直後、拳が橋へ叩き込まれ、石床が爆散した。

もし直撃していれば、肉体など跡形もなく潰されていただろう。


「うう・・・くそっ!」


 モールが歯を食いしばる。

その目には、怒りや悲しみだけではない感情があった。

焦り、恐怖、そして――決意。


クリフは再び動く。

紫の目がエルを捉えた。次の獲物を認識したのだろう。


「団長・・・!」


モールが叫ぶが、当然の如く返事はない。

クリフは地面を踏み抜き、一直線にエルへ向かっていく。

遅い──だが、止められない。


 エルは槍を構える。

しかし、今のクリフに正面から押し合って勝てるとは思えなかった。

まずい――そう感じた瞬間。


「姉ちゃん、下がれ!」


モールが前へ出た。

風が吹く。いや、吹いたというより――集まった。

モールの槍へ、周囲の空気が吸い込まれていく。鋭く、細く、殺意を帯びるように。


「・・・モール?」


 エルが目を見開く。

モールは槍を低く構えたまま、クリフを睨みつける。

その顔には、怒りとも悲しみともつかない感情が浮かんでいた。


「団長・・・あんたは、僕たちを拾ってくれた」


低い声だった。


「こっちの国でも、僕の顔の痣を見て気持ち悪がる奴ばかりだったけど・・・あんたは言ってくれたよな。“戦えるなら、誰であっても関係ない”って」


風が、さらに強く渦巻く。


「だから、僕はあんたについていった。あんたを、この方尊敬してきたんだ」


 クリフは止まらない。

何も答えない。ただ拳を振り上げる。

それを見たモールは、唇を噛み――叫んだ。


「[痛み分けだ]!」



 その瞬間、モールの姿が掻き消えた。

否、速すぎて見えなくなった。


風を纏った槍が、一撃、二撃、三撃とクリフの巨体へ連続で突き込まれる。

ただ速いだけじゃない。刺すたびに風が傷口へ入り込み、内部を抉る。

四方八方から暴風じみた刺突が叩き込まれ、クリフの体が細かく裂けていく。


「ぐ、ォォ・・・!」


 初めてクリフが、わずかに後退した。


「すごい・・・効いてます・・・!」


メニィが叫ぶ。

モールは止まらない。風そのものになったかのような速度で駆け回り、傷を増やしていく。


肩。脇腹。脚。喉。そして最後に――。


「うああああぁぁっ!!」


真正面から突き込んだ。


 槍がクリフの胸を貫く。

その瞬間、それまで刻まれた傷へ一斉に風が逆流した。


内部から爆ぜるように、クリフの体中から血と黒煙が噴き出す。

青色の体が大きく揺らいだ。


「よし、今だ!」


 龍神が雷を纏って跳ぶ。

エルもまた、水を纏った槍を構えた。

俺も斧を握り直し、前へ踏み込む。

ようやく見えた──この怪物を止められるかもしれない、一瞬の隙が。


「[水面に、消えるように!]」


エルが水分を集め、3体の分身を生成した。

そして、その分身と本体それぞれが次の技を使う。


「[何がために、生きる]!」


槍を振るって攻撃し、数秒間遅れて大きな水の斬撃が走る。

さっきの技といい、おそらくは奥義だろう・・・技名の宣言がないだけで。


 エルの攻撃は、クリフにはかなり効いていた。

奴は大きく後退し、動きを止めていた。

やはり、火属性に水属性をぶつけたからか。


それを喜ぶまでもなく、みんなで一気に畳み掛ける。

モールはもちろん、青空や亮も奥義を撃ち込む。



 盛大な演出と音の後、クリフは大きく体を仰け反らせ、体勢を立て直した。

そしてエルを見た・・・のだが、その目はさっきまでとは何かが違っていた。


「お・・・ぉ・・・」


クリフは、さっきよりはっきりと、人の声に近い声で言葉を発した。


「俺は・・・何を・・・」


 そこで、エルとモールが呼びかける。


「団長!」


「団長!正気に戻ったか!?」


2人の声に、クリフは明確に反応した。


「エル・・・モール。そうか、そうだったな。俺は・・・死んだんだ・・・」


そこまで言って、クリフの体は無数の細かい粒となり、音もなく虚空に消えていった。

まるで、何かに縛られていたものが解放されたように。


「執念が、消えた・・・」


 メニィが呟く。


「彼は、とても悲しく・・・哀れな人です。自分が死に、かつて狩っていた存在と同じになっていると気づけないまま、使命感に駆られるがままに戦い続けていた。でもきっと、これで救われたでしょう」


逞しき殺人者の魂よ、どうか安らかに・・・。

キョウラはそう呟き、目を閉じて手を合わせた。



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