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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
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7襲撃

アクトレス教官に睨まれて、小田切誠は小さくなった。


「…すいません。

4月から通う高校をレディさんに見せてもらっていて…」


アクトレスの剣幕を見かねて、永田が口を挟んだ。


「気持ちのリフレッシュも大切だからな。

ま、面白い盛りだよ、夜遊びなんかがさ」


アクトレスは長い髪を掻き上げて、まあ怒るほどの時間ではないが…、と呟き、


「しかし品川駅で爆発事件を起こした犯人は、まだ近辺にいる可能性がある。

お前たちは車で家に送らせる」


微かに唇を震わせながら、アクトレスは言った。


「相当な被害が出たんですか?」


ちょっと探りながら、誠は聞いた。


「幸い、怪我人は出ていない。

ただ線路がやられてしまっているんで、今夜中は山の手も京浜東北も動かないだろう、と言う話だ」


指令室の情報官が教える。

ここには、影繰り以外にも現在4人の情報官がモニターを睨んでいた。


誠は首を傾げた。


「目的は判らないんですか?」


アクトレスは手にしていたミネラルウォーターを一気に飲み込み、


「気が付いた時には破裂していたらしいね。

今のところは何の証拠も出ていない。

だがそのために、我々は影繰りの関与を疑っている、ってわけだ。

平日の夜8時の品川駅で、誰も何も見ていないんだからね。

今は下手な憶測をする段階じゃない。

今日は送ってやるから、もう夜遊びは止めて、ちゃんと帰れよ」


話しているうちにアクトレスは落ち着いたのか、とん、と誠の肩を叩いた。


「明日の朝は、携帯に注意しとけ。

何も無ければ10時から訓練だ」


はい、と誠は微笑して、


「あ、そう言えば、川上君が…」


「ん、そう言えば見ない顔だな?」


永田は煙草を出しながら、見慣れない雰囲気に小さくなっている少年を見つめた。

誠が、影繰りになったと説明した。

とりあえず今は大騒ぎなので、明日10時に、誠と一緒に来るよう指示をされた。

無論、身分カードもパスワードも無いので、誠が案内することになる。


「おー、俺も一度落ちて見たかったんだよな」


レディは羨ましがった。

カブトは、大人の前では大人しく振舞っているらしかった。


内調の黒いワンボックスカーを手配され、4人は賑やかに乗り込んだ。

仕事ではないので、気楽なものだ。

賑やかに騒いで、誠は高円寺の駅近くで降ろしてもう。


あれ、人と話しているのに、全然疲れていない…。


誠は首を傾げながら自転車置き場に向かった。


誠の自転車は、商店街にある駐輪場に停めてある。

誠は鉄階段で2階に上がり、いつもの場所に歩き、ふと…。


汗をかいているのに気が付いた。


まだ3月の初めだ。

ボタンをすべて失ったブレザー1枚で、さっきまでは少し寒かった。


駐輪場はほとんど壁などない、鉄骨造りの建物で管理人室以外は暖房など入っていない。

賑やかに過ごしていたが、夜もそろそろ10時に近づこうという時間である。


急に暖かくなったのか…?


思いながら、自転車の籠にスポーツバックとブレザーを入れた。


あれ…。


ハンドルを握って、思わず手を放した。


自転車が濡れている。


上に3階があり、一応は屋内である。

霧でも出ている、と言う風でもなかった。


夏でもこんな風にはならない…。


思うが、誠が駐輪場を使い始めたのは内調に入ってからの昨年の11月以降なので、はっきりとは判らない。


いつから暑くなったのだろう…。


車の中は、判らなかった。

ハッキリ言ってレディ、カブトの二人が賑やか過ぎたのだ。


外に出てから、初め、寒いと感じたのは思い出した。


異常だ。

異常ではあるが、原因を思いつかない。


もしかすると、爆発を起こしたという影繰りだろうか?

火を操る影繰りが、高円寺の駐輪場に潜んでいるのか?


さすがに、それはピンポイント過ぎるだろう…。


だが、この濡れ方は…?

単なる火炎使いではないのか?


誠は天井を確かめた。


おそらく、商店街の建築物なので火災感知器ぐらいは付いているのではないか?


それらしき機械はあった。

火は燃えてはいないらしい。


湿度が上がっているのを感じる。

Yシャツが肌に貼り付く。


前ボタンをはずして、シャツの裾をはだけた。


ズボンも少し湿っているが、これは仕方がない。


問題は、外に出た方が良いのか、ここで戦うべきなのか、だ。

夜10時の高円寺は、まだ商店街は賑やかだ。

下手には動けない可能性もある。


が、外気の方が、湿度を操るような影繰りになら有効な可能性は高い、とも思う。

風も吹くだろうし、屋外で誠の周囲だけ高湿度を保つ、というのは中々に難しそうだ。


ただ人通りがあると、敵の発見が遅れそうだ。

通行人に紛れられたり、逆に違う人間を疑い、間違って襲ったりすると、さすが影繰りでもただの少年犯罪になってしまう。


まずは…。


冷静を心がけて、誠は考えた。


ここに敵がいるのかどうかを探ろう…。


影を感知できる、美鳥や井口と違い、誠は影を感知できない。

目視で判るようなレディの分銅のような影ならば判るのだが、影繰りの中には殆ど物質的には目に見えない、例えばマッドドクターのような影もある。

それを感知する力は、誠には無いのだ。


その代わり、視覚は発達している。

透視で1階も3階も見ることは出来るし、影の目があるので背中も死角では無い。


影繰りの中には、アクトレス教官のように嗅覚が異常に発達した人や、振り子で広範囲な感知が出来るレディさんのような影繰りもいる。


誠は透視で1階を見た。

駐輪場の管理の老人が一人いるだけだ。


2階はいない。

自転車の影であっても、誠は透視できるから、誰もいないと言いきれた。


3階を見上げ、誠は息をつめた。


3階の隅に、不審な動かない人影が見えた。


「名前が、一人歩きをしているんだよ…」


3階に向かおうかと思ったが、アクトレス教官の言葉が蘇った。


だが、この場で何ができるだろう。

逃げれば逃げ切れるのか?

品川駅を爆破するような敵なら、一人ではないだろう。

だが今、この駐輪場には一人しかいないようだ…。


誠は、メールを打った。


「湿度を操る敵に、高円寺の駐輪場で襲われている」


素早く打ち込み、誠は階段を降りた。


逃げるつもりは無かった。

階段を降りながら影を纏い、防犯カメラに映りづらくして、透過も駆使して3階に上がっていく。


影を纏うと、人には見えずらくなる。

単純に闇に同化するのだ。

全く見えなくなる、と言うのとは違ったが、専門の機械にでもかけなければ普通の防犯映像では殆ど判らない。


3階の駐輪場の外壁に横たわって、男が酒瓶を転がして動きを止めていた。


が、誠が現れた途端、男はライフル銃を構えた。


影を感知したのだ。


銃を撃つつもりか…?


撃てば、周りに音が響くだろう。


近くには交番もあるし、人通りも多い。


誠は、影の手を伸ばして、急接近した。


男は、銃を構えると迷わず引き金を引いた。


同時に、裏の道路で数人の若者が酔った声で花火をし始めた。


前部グルか!


誠は、一直線に男に向かった。


が、突然、息が出来なくなった。


湿度使い!


誠は咄嗟、2階に落ちた。


湿度をいくら操れても、それだけでは戦闘は出来ない。

攻撃には、水を使うか、或いは氷にするか、どちらかに調節するはずだった。

僕の考えが浅かったんだ。


わざと自転車の中に落ちる。


ここなら敵は襲えないし、銃弾も交わせる可能性があった。


誠の顔に、水が貼り付いていた。


たぶん、量はそれほどでもないのだろう。

ペットボトルぐらい、そんなものではないか。

だが水は、誠の口と鼻を薄く覆っていて、呼吸が出来ない。


窒息しながら、誠は水使いを2階に落とした。

銃は3階に留めた。


水使いは、自転車の上に落下し、弾けてコンクリートの床に落ち、呻いた。


誠はスマホをかけた。


「誠です。

今、水を操る影繰りを落としました。

怪我はしているかもしれませんが、死んではいません。

至急…」


誠の顔が、水没した。


話している途中だったので、水が気管に入り、苦しい。

誠は激しく咳き込んだ。


「お前は騙されるんじゃないかと思っていたぜ。


だいたい、そうなんだよ。

細かいところが良く見えるタイプは、広い範囲を感知するのが苦手だ。

無論何十年も影繰りやってりゃあ別だが、聞きゃあ半年だっていうじゃないか。

だから、よ。

賞金が付いた以上は、悪くは思うな、って事さ」


階段を上がってきた男がいた。

晴天だというのにカッパを着ている。

まるで水中メガネのような独特の眼鏡が、フードの影から覗いていた。


誠は1階に落ちた。


顔についていた水は、何とか2階に置いていくことが出来た。

細かいコントロールが出来たことは、成功だったが、誠は激しく咳き込んだ。

予想以上のダメージだったらしく、誠は咳をしたまま蹲る。


駄目だ、殺される!


思ったが、人の良さそうな管理人が、誠に気づいてくれた。


「坊や、どうした?」


水使いは、どこかに消えた。


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