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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
4/220

2賞金

「そら、ユリ。

虫をこっちに動かしてみな」


両耳に11個のピアスをつけた、ソフトモヒカンのガリガリに痩せた男、良治が、柄にもなく微笑みながら金髪の少年、ユリに語って、横に一歩、あるいてみせる。


コンクリ打ちの床の上を、灰色の小さな虫がチョコチョコと歩いていった。


ユリ・カプトプルクは影繰りだった。

マットドクターと自称する老科学者によって開頭手術を施され、影繰りになったユリだったが、新しい力はユリを全く幸せにはしなかった。

回り全ての人間に恐れられ、しかも影のコントロールの出来ないユリは嘲笑され、それまでの人生がそうだったのと同じ、どぶ川を転げながら歩くような辛い時間を過ごしていた。


だが、日本人は全く違う!


ユリは、良治とバタフライに感動していた。


彼らは泥だらけでゴミの山に落ちていたユリを助けてくれ、そして1から影の使い方を教えてくえた。


「何も沢山だしゃあ良いってもんじゃないんだぜ、ユリ。

おめぇは最初に、1匹の虫を思うように動かるようにならなきゃいけねぇ。

俺のナイフだってそうなんだぜ。

まずは近くでも絶対外さないようにして、やがて距離を伸ばしていくんだ。

心配しないでも、俺たちがオメーを必ず一人前にしてやるよ」


どれほどユリが嬉しかったのか、言っても良治は信じないだろう。

ユリには、こんなに親身に世話を焼いていてくれる大人は、今まで一人もいなかったのだ。


ユリはウクライナの施設で育った。

親も親族も、ユリにはいない。

10の時、叔父だという人が来て、ユリを引き取ったが、彼はただの子供売りだった。

それから3週間、ユリは劣悪な環境で30人以上の子供たちとアパートの1室に押し込められて過ごしたが、子供たちは脱走を企てた。


結局20人以上が死んだが、ユリは極寒の路上で数年を過ごした。

だが最初の冬で10人の仲間は4人になり、二度目の冬でユリだけが生き残った。


それでも風邪をこじらせ、弱って死にかけていたとき、マッドドクターに拾われたのだ。


「よーし、うまくコントロール出来ているじゃねーか」


本当に柄にもなく良治が笑った。


バタフライと良治は、南大島のマンションにユリを連れて帰ると、新しい服と新しい靴を買ってくれた。

始めて、風呂の入り方も教わった。

不思議な大きな町の施設の浴場で、一緒にお湯に浸かったのだ。

読み書きも教わり、テレビも自由に見せてくれた。


そして、影の使い方まで教えてくれたのだ。


「でも良治。

僕の影は、1匹では敵を殺せないよ?」


かかか、と良治は笑い、


「だが動けなくは出来んだろ。

動けなけりゃあ、ほら…」


良治はポケットからナイフを出して見せた。


「グサッ、で終わりだ。

判るな。

ユリ、それで十分なんだよ。

だが、これから俺たちと一緒に仕事するために色々な作戦があるだろうから、これからは2匹の虫に別行動をさせる練習だぜ」


引き攣るように良治は笑い、


「ま、その前にコンビニでおやつでも買って、ゲームをするか」


「マリオをやってもいい?

良治!」


「またかよ。

お前、マリオが好きだなぁ!」


良治とユリは近所のセブンに行ってから、会社に戻って宿直用の畳部屋で何十年物のファミリーコンピューターでゲームをした。


「よう、帰ったぜ」


一仕事終えたバタフライが帰ってきた。


「なんだ、またゲームか?」


「兄貴、虫1匹のコントロールは完璧になったぜ。

一休みして、今度は2匹に挑戦するんだ」


そうか、と言ってバタフライは革ジャンを脱ぎ、


「じゃあユリ、すこし、空手を教えてやるぜ」


「え、本当!」


ユリはコントローラーを放り投げて立ち上がった。


「1匹の虫が使えりゃ、相手は片足が使えねぇ。

そこでユリが近接戦闘が出来れば、充分勝ち目はある訳だ」


「おお、そりゃあ凄ぇな!」


良治も喜ぶ。


畳部屋を出ると、良治と虫のコントロールを練習したコンクリ打ちの広い部屋だ。

その隅に、畳を敷いた道場が作ってあった。


「よし、じゃあ教えた型を覚えてるか?」


バタフライが、いかつい顔でユリを見下ろすと、ユリは黙って蹴りや突きの動きを始めた。


「おー、ユリ、ちゃんと腰が入ってるじゃねーか」


良治はらしく無く笑い、バタフライも満足げに頷くが。


コンクリ打ちの部屋から鉄階段で二階に上がったところが親父さんが詰めている事務所だった。

その扉がバンと開き、


「バタフライ、良治。

それにユリも。

今、ちょうど連絡があったところだ」


60過ぎの胡麻塩頭の老人が、作業着の上着を着て3人を見下ろした。


「小田切誠の首に、賞金がかかったぜ」




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