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一人の男が立っていた。
その男を取り囲むように、十三人の男が、それぞれデザインの異なった優雅な椅子に腰を掛けて座っている。
「さて、ドールマスター。
困ったことになったな、君はマッドドクターを死んだ、と報告したが、我々の情報では、ドクターは死んではいない。
日本のチンケな諜報機関に身柄を拘束されている、とのことだ。
君の意見を聞きたいものだな」
円座の、一番出口に近い席に座った、金髪を短く借り上げた男が、クリップボードに、目を落としながら呟くように言った。
「サイドワインダー。
考えてみてくれ。
本当にマッドドクターが生存しているというのなら、彼から何の連絡も無いのは異常ではないか?
CIAや国家安全省という訳ではない、ほとんど実質的な権限を持たない弱小の諜報機関なのだぞ。
マッドドクターは、死んでいる。
そこに間違いはない。
私はその場にいたのだから」
ケケケ、と最も奥に座った、椅子から足をブラブラと垂らした、小柄な老人が笑った。
「その場にいただと!
お前は、ただ防犯カメラをコックピットで見ていただけだろうが」
ほとんど変声期前の少年のような声だが、顔は深いシワに覆われている、灰色の髪の老人だ。
ドールマスターは、むっ、と息を呑むが、
「それは正しい。
しかし私は常にそれで戦ってきた男だ。
今まで、生者を死者などと言ったことが私にあるか?
否だ。
私は見誤ってなどいない、ゾンビマスター」
「まぁ、良いのではないかね、ゾンビマスター。
日本に行けば判る事だし、我々はどの道オモチャを取り返さねばならないのだから。
しかし、中東での大仕事の前にこんな雑事に煩わされることになろうとはな」
ゾンビマスターと呼ばれた小柄な老人の隣の、巨大な老人が言った。
「スカイウォーク。
一つだけ付け加えさせてくれ」
小柄な老人ゾンビマスターの、スカイウォークとは反対側に座った岩石のように鍛え上げられたライフル銃を持った男が、言葉を挟む。
「何かね魔弾の射手?
君が口を開くとは珍しい」
スカイウォークが微かに驚いていた。
「小田切誠に、死を捧げて欲しい」
14人の男たちが、沈黙した。
「しかし、魔弾の射手。
マッドドクターの計画では彼を入手して、本格的な人体改造に着手するはずでは?
得難い人材、と我々も認識を共有している、と思ったのだが…」
サイドワインダーが問いかけた。
「神、が、倒されたのだ。
それがどういう事か、判っていないのか」
魔弾の射手の言葉に、サイドワインダーは言葉を失った。
「よろしい」
スカイウォークが、微かに笑った。
「我々は皆、神殺しの少年には興味がある。
小田切誠の首を手にしたものは、このAの幹部室に椅子を持つことになる。
それでどうかね?」
部屋の中は静まり返った。
だが、パチ、パチ、と拍手が起こり、13の椅子に座った者たちは、皆、いつか手を叩いていた。