150突入
公共車両を見ていくが、明らかに怪しい、と言うような人物はどこにも乗っていなかった。
制服か、スーツ姿の人間ばかりだ。
球体は絶えることのない攻撃を続けていて、美鳥も颯太や真子も、よくユリコを守ってはいるが、しかしユリコにもドスン、ドスンと重い一撃が命中する。
「一旦下がりましょう!」
誠は言うが、
「大丈夫だ、ユリコさんに任せなさい!」
と言いながら、ユリコは球体を弾き続けている。
「近接戦闘用の影をまとっているのよ。
多少は平気でしょう」
美鳥も話す。
とはいえ、無数の球体が、天も地もない上空で一人の人間に襲い掛かってくるのだ。
無限に防ぎきれる、とは思えない。
誠は地上を探すが、全く影繰りを見つけられないでいた。
元々、動いている車など、どこにも無かったのだ。
影繰りは、地上にも屋内にも、全く見当たらなかった。
だとすると、唯一の対処法は一つ一つの球体を射程外に弾き出すことだが、この攻撃の嵐の中ではカマキリが戦車に立ち向かうように無意味だった。
今は、誠と美鳥の体は透過して攻撃を避けているが、それでも視界が取れなくなるほどの攻撃の嵐だ。
だが、確かにユリコは、時たま体に球体を受ける他は、鉄パイプで球体を弾き飛ばしている。
「誠、どっかに金蔵バット無いかな?」
不意にユリコは言い出した。
数十メートル下の地上に、学校らしき建物があった。
探すと、数本の金属バットが見つかったので、ユリコに渡した。
「お、これを持っててくれ!」
と鉄パイプを渡され、
「よーし、てめえらに見せてやるぜ!
ユリコさんのバトルって奴をな!」
叫ぶと、ユリコは被弾をもろともせずに、球体を打ち返し始めた。
いや、いくら撃っても分裂速度の方が早い…、と誠は思ったが。
「誠、どうも攻撃中は分裂は停止するらしいわ…」
確かに、敵の球体の総量は、徐々に減っているようにも見えた。
と、球体が、不意に鳥の群れのようにユリコから距離を取る。
「おい誠、逃がすな、追うぞ!」
仕方なく、誠も前進するが、球体は逃げていく。
「影繰りが操っているにしては、おかしな動きですね?」
誠は首を捻るが、ユリコが、
「本体がいるんだよ!
あの中に、一個だけ本体があるんだ。
俺はそれを探してたんだよ!」
と叫んだ。
誠は全く気がつかなかったが、確かにそれなら影繰りが見つからなかった説明もつく。
「え、見えたんですか?」
驚く誠に、ユリコが、
「影能力だけが戦いじゃないんだよ、少年!
ユリコさんの動体視力は元々天下一品なのさ!」
言いながらも球体を弾き返していく。
同時に数十発の直撃も受けていたが、ユリコは楽しそうに笑っていた。
「しかし、僕たちは球体を追いかけている訳では…?」
誠は疑問を口にするが。
「施設にとって、あれは厄介よ。
中の皆を守るためにも、あれは最初に潰しておいた方がいいわ。
潰せるなら、それを優先しましょう!」
美鳥も言い出した。
誠は納得し、前進した。
だが攻撃モードを停止した球体は、再び分裂を始めている。
一瞬で、千が万に、倍倍に増殖していく。
確かにこれは、危険な影だった。
「あの中心に本体がいる訳ですか?」
「ああ。
ちょろちょろ逃げてはいるが、おおよそ奴が中心なのは間違いねぇ!」
射程を考えても、影繰りが中心にいるのは理に適っていた。
ただし、外からはどこか中心か見るのは容易いが、中にいったん入ったら、もはや確認する術はない。
半径数百メートルは、同じ球体が入り乱れて襲い掛かってきているのだ。
敵も、戦いは避けられない、と見たのか、ゆっくりと誠とたちの方向に前進し始めている。
「前より激しい攻撃になりそうですね…」
影能力は、影繰りのイメージ次第で物理法則を凌駕する。
本来、無限に飛び続ける球などニュートン力学的には無いはずだが、あの影の中では全ての法則を無視して、球体は飛び続ける。
誠たちが接近した時点で、おのおのの球体は凄い勢いで飛び始めていた。
普通に飛び込むのは、ちょっと躊躇われる勢いだ。
「途中まで透過して進みましょう」
誠は言うが、ユリコは、
「いや、俺は打っていくぜ。
速球に合わせたいからな!」
すっかり野球をしている感覚になってしまっているらしい。
「もう、こうなったらユリコに任せましょう!」
美鳥も言う。
誠も、諦めて球体の中に入った。
颯太も真子も、だいぶタイミングは覚えていた。
誠は、中心の球体と言うのを探していた。
もし見つかれば…。
グンと勝ちに近づく。
本体の球体は、この嵐のように飛び交う球体の中心にいるのだという。
だが、一旦中に入ってしまうと、四方は唸りを上げて飛びかう球体に取り囲まれてしまい、とても中心など判らなくなる。
中心が動かないのであれば、それでもまだ探りようはあるのだが、事実、球体の群れは普通に動いているのだ。
中から中心を探るのは無理そうだった。
ユリコさんは、なにか勝算があるようだったが…。
誠には、皆目見当がつかなかった。




