火災報知器
仕事を辞めたのは火災報知器のせい、かな。
元職場は衣替えから年末まで更衣室の火災報知器の電池を抜くのが決まりでさ、防災的に大丈夫なのかって尋ねたんだ。
そしたらなぜか一晩、更衣室に泊まることになっちゃって。
パワハラだろこれって思いながら寝て、寝苦しくて目が覚めた。
深夜2時だった。
テントの外が妙に明るくて。あ、テントは私物な。
で、明るいのが揺らめいてんだよね――そこで眠気が飛んだ。
なんか燃えてんじゃないのかって。
慌ててテントから飛び出たら、子供が居た。
小学校入るか入らないかくらいのが四人。
そんで焚き火してんだよ。
こんな時間に子供がとか、いつ入り込んだとか、何燃やしてんだとか、火災報知器電池切ってるよとか、混乱で渋滞した俺はとにかく怒鳴ったんだ。
「何やってんだっ!」
そしたら消えたんだ。
焚き火も子供も全部。ほんと全部。何もなかったみたいに。
プロジェクションマッピングのイタズラかと思ったくらいだよ。
後で教えてもらった。
その職場、火事で全焼した孤児院の跡地に建ってるんだって。
当時の事件記事も図書館で見た。
お腹空かした子が深夜にひもじくて焚き火したんだと。小さな子だから、焚き火したら焼き芋が出てくるとか思ったんだろうな。
その夜以来、あの更衣室でしょっちゅう焼き芋の匂いがするようになっちゃってさ。
いやもうダメ。
怖くてじゃねぇよ。泣けてきちゃって、仕事になんなくて。
だから辞めたんだ。
<終>