9話 ミミさらわれる
やっとヒロインの登場です。
9話 ミミさらわれる
ダンジョンの最深部に着いたがそこ予想通り崩れていて祠への縦穴は見事に埋まっていた。しかし埋まってしまったおかげで大量に溢れていた瘴気はかなり薄まっていた。
「もう一度あの祠を調べてみたかったがやっぱりこうなっていたか」
大岩などで埋まってしまっているので人の手では、少なくとも今の大輝にはどうする事も出来そうになかった。
現状ではどうしようもないので気持ちを切り替えてダンジョン内でタマとレベル上げをする事にする。
タマは鼻が利くのかモンスターを簡単に探し当てる。そしてMPは回復が見込めるので蝙蝠はタマが担当し大輝は角ウサギと戦う形で進めていく。そしてタマが回復中の時は1人で無理をせずに戦い、順調に2人共レベルを上げる事に成功していった。
ダンジョンを周り尽くしたが新たな発見もなく結構な時間が経ったので今日の活動をやめる事にする。今日一日でタマのレベルが6まで上がり角ウサギ相手なら当たり負けしないぐらいまで強くなっており、スキル狐火もレベル3まで上がっていた。
スキルは使えば使うだけレベルが上がっていくので途中でMPを回復出来るタマのレベルアップのペースはかなり早いのだ。
「このペースで行くと簡単にタマに追い抜かれそうだな…」
「キュー?」
タマの方を見ながらの呟きに「何?」と言いたげな顔をしている。正直強い仲間が出来るのは嬉しいし、頼もしいが主の方が弱いのは何となく微妙な気持ちになるので複雑な気分だ。
そう考えながらダンジョンの外に出てMPを消費しているタマをカードで休ませる。
村に入ると妙に慌ただしい。村人達がどうするか集まって相談しているようだ。
その中心にワンスさんがいたので大輝は輪の中心に向かった。
「ワンスさん、何かあったんですか?」
大輝に気がついたワンスはかなり動揺した顔をしていた。
「ミミが!ミミが!」
かなり慌てているようで言葉が出てこない。
「落ち着いてください。ミミがどうしたんですか?」
「ミミが山賊にさらわれてしまったのじゃ!」
「山賊!ミミがどうして、何があったんですか」
「夕方になった頃、突然山賊が現れたのじゃ。そしてミミを人質にし食糧を奪いミミも奴隷商に売ると言って連れて行ってしまったのじゃ!わしはどうすれば、どうすればいいのじゃ!」
「村長!町に行って冒険者に依頼するしかない!」
「いや、村の若い者を集めて奪い返しに行くぞ!」
「無理だ、こんな暗くなった状態で何処にいるか分からない山賊を探すなんて!」
「山賊は武器を持っているんだろ?俺達には無理だ!」
村人も山賊を相手にする恐怖とすでに夜になっているこの状況で捜索する恐怖で意見が纏まらないでいる。いつもはどっしり構えているワンスさんですら村長の立場とミミの親としての立場で決断出来ないでいる。
「山賊は何人いたんですか?」
「大輝くん?山賊は3人じゃ」
「3人か、不意を付ければ何とかなるか」
「何を言っとるのじゃ、一昨日初めて実践をした者が戦える相手ではない!それに奴等がどこにいるかも分からないのじゃぞ!」
「居場所はおそらく探し出せます。それに夕方に現れたのなら、まだそんなに遠くには行っていないはずです。戦わず山賊に隙が出来たらミミを救出して逃げてきます」
「お主が殺されるかもしれないのじゃぞ」
「僕だって怖いです。ですが正面から戦わなければ何とかなる作戦も考えています!」
「しかし…」
「とりあえず僕は探しに行きます。ワンスさん達は僕が帰らなかった時の方針を考えておいて下さい
」
それだけ言うと大輝はワンスの元を離れていき村を出た所でタマを呼んだ。
「タマ!頼む。ミミを匂いで探してくれ」
「キュー!」
状況を理解しているのかカードから出てきたタマは他に目もくれず北の森に走っていき、その後を大輝は追いかける。幸いにもこの北の森もブルースライムがメインのようで気にせず進むことが出来た。
2時間くらい森の中を進んで行くと人の声がしだした。大輝はタマを一度カードに戻し様子を見る事にする。
「親分、取引相手との待ち合わせは此処でいいんですか?」
いかにも下っ端のようで貧弱な体に汚れは毛皮のチョッキを着ていた。
「おう!此処で間違いねーよ。それに今回は上玉が2人の手に入れたんだ。しばらくは遊んで暮らせるぜ」
親分と呼ばれていた男はかなりのマッチョだが着ているのは下っ端と一緒だった。もう1人は普通の体格だが遊んで暮らせると聞いてニタニタ笑みをこぼしている。
山賊の武器は下っ端は刃渡り50センチくらいの出来の悪そうな剣で親分は手斧のようだ。3人とも質は悪そうだが鉄の武器を装備している。
山賊達の後ろには手を後ろでロープに縛られ口には布を当てられているミミともう1人赤毛の女の子がいた。しかし赤毛の子は痩せ細り目も虚ろになっており今にも死んでしまいそうな状態であった。ミミも心配そうに見ているがまったく反応していない。
そうしていると1人の男がやってきた。服装はきっちりしているが顔はニタニタと下品な顔をしている。
「ダンナ、まってましたよ」
山賊親分が立ち上がり後から来た男の方へ歩いていく。
「それで今回の商品はどこかな」
「へへ、今回はこの2人ですぜ」
男が商品と言ったのはミミ達の事のようで大輝はこの男が奴隷商だと分かった。
「まずはこの娘、拾った時から死にそうですが磨けば良い商品になりますよ。そしてこっちは顔は普通だがまだまだ元気なのでそう簡単には壊れないでしょう」
「ふむ。死にそうなのは売り物になるか分からないから半額だな。そっちの子は約束の金額でどうだ」
「まーダンナならそう言うと思ってましたぜ。今後もよろしく頼みますよ」
「うむ。ならさっさと奴隷契約を済ませるか」
人を人と思わないやり方に怒りを覚えた。立てていた作戦では寝静まったタイミングでミミを救出する予定だったが奴隷契約を済まされると手遅れになってしまう。大輝はカードからタマを呼び出し山賊の後ろに移動していった。
「ダンナ契約の紙を貸してください」
奴隷商が懐からなにやら魔方陣の書かれた紙を取り出し痩せた下っ端山賊に渡した。痩せた下っ端山賊はその紙を受け取ると赤毛の手を掴み、持っていた剣で指先を少し切り一滴の血を紙に垂らした。
「さあ、後はダンナの血を付ければ契約は完了ですぜ」
そう言い奴隷商に紙を渡した後、突然もう1人の下っ端山賊が炎に包まれた。
「ぐぁああああ!!!」
下っ端山賊はそのまま動かなくなった。
「何が起こった!誰だ!どこに隠れていやがる!」
周囲を見回す山賊達は奴隷商の後ろに火の玉が浮いているのを見つけ目をやる。その瞬間、次は痩せた下っ端山賊が炎に包まれ息絶えた。
山賊の後ろに回った大輝達はタマが狐火を放ち当たった瞬間に大輝の風の魔法で空気を送り込み炎の火力を上げた、いわゆる合体魔法を使ったのだ。そして2人目は狐火を操り大輝達の反対側に浮かせて注目させる事で同じ事を繰り返して倒したのであった。
「お前達!くそ、そこにいる奴出てきやがれ!」
山賊親分は大輝の位置が分かったらしく目を離さない。隠れているのは意味がなくなったのでタマにはそのまま隠れているように指示をし姿を現す。
「貴様、何者だ!何の目的でこんな事をしやがる」
「別に、おいしそうな話が聞こえたんで食べてしまおうとしただけだよ」
もし此処で山賊親分に逃げられると村に報復しに来るといけないので通りすがりの悪党を演じる事にする。こうしておけば最悪狙われるのは大輝1人で済むと考えたのだ。
「貴様ぁあ!くたばりやがれぇー!!!」
走り出して来た山賊親分にタマが狐火を飛ばすが簡単に避けられ手斧を振り下ろしてきた。大輝はあえて前進することですれ違うように避けようとしたが避けきれず左腕を少し切られてしまった。
大輝はそのままの勢いを利用し先に奴隷商に近づき、そのまま殴りつけてノックアウトさせた。
「どこまでも舐めたやろうだな」
山賊親分は怒りで顔が真っ赤になっている。大輝も避ける自信があっただけに左腕から垂れる血に動揺を必死に隠していた。
山賊親分の持つ手斧に注意しないとと思った瞬間、何も持っていない方の腕を大輝の方に向け
「石の砲撃」
山賊親分の左手からこぶし大の石が大輝目指して飛んでくる。とっさにナイフでガードするが勢いに負けてしまいナイフを飛ばされてしまう。
「まさか、魔法が使えるとは考えてなかったな」
「終わったな。貴様の火の魔法では地の魔法を使う俺には勝てん」
武器を失った大輝が火の魔法を使っても自分の出す石は燃やされないので負けない、と確信しているようで堂々と近づいてくる。そんな山賊親分に最初の方で待機させていた狐火を胸の所に飛ばすようにタマに指示を出す。
「無駄だ」
山賊親分の出した石に簡単に弾かれる。しかし油断している状態で火を弾けさせた事で一瞬視界が遮られ大輝の接近に反応が遅れた。
「<かまいたち><強化>2倍!」
ほぼ真下から放つ風の刃をまともに受け、山賊親分の胸を大きく斜めに裂いた。
「ばかな!風の魔法だと…貴様の魔法は火のはずじゃあ?」
「俺の魔法は風だ。誰が火だと言った」
「他に仲間がいたのか?いや、声も出さずに他人が魔法を操るにはタイミングが合いすぎる。それにこの俺様を切り裂く風の刃…貴様、相当の高レベル者か?」
「俺が?俺のレベルはまだ11だよ。スキルレベルは5だ」
「馬鹿な!たかだかレベル5の魔法にレベル29の俺様が一撃でやられるはずがない!貴様、嘘を付くな!」
「もはや助からないであろう相手に嘘を言う必要もないだろう」
「き、さま、な、…にも……の………」
山賊親分はそのまま息を引き取った。
その後、大輝の頭の中にレベルアップのファンファーレがなった。
「な!人を倒してもレベルアップするのかよ」
後悔はない。倒さなければ自分が死にミミもどうなったか分からないのだから。しかし人を倒してレベルアップしたのは複雑な気分だった。