竜崎と義人の思い
よろしければご覧ください。
竜崎と義人が家に帰ると、ベッドの上に横たわっていた遥が体を起こして二人を迎えた。
「お帰り、二人とも。今日はどうだったの?」
遥の顔色は青白い。だが目鼻立ちは整っており元気な姿であれば道ですれ違う者は1分程度覚えていられるそんな顔だった。
「ただいま遥」
「ただいま」
竜崎と義人が遥の方に向かいながら歩いて行った。
「無理して起きなくていいよ」
「そうだぜ。遥」
遥の体調を思い声をかけた竜崎に義人も続く。
「いいの、私何もできないからさ。せめて二人が帰って来た時ぐらいは起きて出迎えたいの」
遥はそう言って二人を交互に眺めた。
「今日も無事に帰ってきてくれて本当によかった。二人がいつも家の扉を開けるまで心配なんだよ」
遥は二人に自分の心境を打ち明けていった。
「俺たちは大丈夫だぜ。今日も色々取ってきたから金ももらうことができたし。ほらこれで後どれくらいだ?」
そう言って義人は薄汚れたズボンのポケットからいくつかの硬貨を掌にのせて遥に見せた。それを見て遥は暗い顔になった。
「ありがと。でも二人ともいつも命を懸けてナンバーと戦ってその戦利品を持って帰ってるのにそれだけしか貰えないなんて、ふざけてる」
「そんなのいつものことさ。それにさ、ここに帰ってくるまでに義人と話していたんだけど、あの強欲野郎は何時かぶっ殺してやるって俺たち決めてるからさ。遥は気にしないで少しでも病気を治してくれよ」
竜崎は遥に義人とした帰路での話を告げた。
「ふふ、それじゃあその役割は二人に任せたよ」
遥は今日も自分のために命を懸けて戦ってきた二人を労うかのようにほほ笑みかけた。
「それじゃあ、遥は寝ててくれ。俺たちで晩飯作るからよ。できたら起こすから」
そう言って二人は部屋から出て行った。
「なあ、遥の容態どうだ?」
義人は竜崎にいつものように質問していた。
「多分、悪化はしてないと思う」
「そうか」
二人は、近くに落ちている材木を取って来て火をつけた。錆びついた鍋に水を入れお湯が沸騰するまでの間二人は一言も話さない。遥の前では強がっていたが二人の身心の疲労はピークに達していた。そんな日がこれから何年も続くことは容易に想像できた。
「遥、絶対助けような」
「ああ」
二人は火を見ながらつぶやいた。
遥は竜崎と義人よりも年齢は5歳ほど上だ。3人が初めて出会ったのは竜崎と義人が8歳の頃であり、その当時遥は幼いながらも既に娼婦として働いていた。だが竜崎と義人の二人はまだ探索隊のメンバーではなく日々腹を空かせ、物乞いをして生活をしていた。そんな状況の中で、ある日遥は二人の元にやって来て突然パンを分け与えた。竜崎と義人は無我夢中でパンに噛り付いていたが、そんな二人を見て遥は嬉しそうに笑っていた。その後も遥は何度も二人に食料や水を分けてくれた。自分の生活が厳しいなかで。
ある日、二人は何故遥が毎回食料をくれるのか気になって聞いてみると、遥は少し悲しい表情をしたが直ぐに教えてくれた。遥にはかつて弟たちがいたが食べるものが無く衰弱して亡くなってしまった。そのため自分よりも幼かった竜崎と義人が腹を空かせて毎日生活しているのに堪えられず、食料を恵んでいたと。そんな話を聞いて二人は遥にとても感謝した。スラムで生活していた二人にとって感謝という気持ちが溢れたのはその時が初めてであった。嫉妬、妬み、嫉み、恨みといった負の感情は生まれたときからシャワーのように浴びせられてきたが、それとは違う心が温まるという感覚を二人はその時噛みしめるように大切にしたいと思った。
だが、遥は病気に罹ってしまった。街の方で治療すれば治るような病であったが、スラムで生活する遥や竜崎達にはその治療費を払うことができず、見る見るうちに病は遥の身体を蝕んでいった。当然、遥は働くことができなくなった。そのことを知った二人はすぐに探索隊として壁の外に出ることを決意し街の方に出向いた。それから二人は汗水たらして命を懸けて働いて、遥の治療費を稼いでいる。それでも治療費はほとんどたまっていなかった。なぜなら普段の生活をしながら治療費を溜めることは、報酬を中抜きされている二人にとってはほぼ不可能なためだ。そこで竜崎と義人は考えを変えていった。その考えは、ナンバー702、どんな病も治す植物「生の根源」を手に入れることだった。二人は探索の中でその植物を探している。だが、未だ一回もそのナンバーに出会えたことはない。そもそも存在するかどうかすら怪しいものだった。それでも二人はその微かな希望をつかみ取る以外の選択肢は存在しておらず、日々弱っていく遥の様子を見ていれば、遥の病は既に人の力では治すことが不可能な域に来ていることを肌で感じていた。
「遥できたぞ」
「ありがと、二人とも」
遥は二人が用意したスープとも言い難い汁をおいしそうに少しずつ啜っていく。
「おいし、ありがとね」
「よかった。それじゃあ俺たちも食べようか」
二人は遥の寝ているベッドの近くに腰を下ろして食事を始めた。だが口に入れたスープは全くおいしくなかった。それでもおいしいと言ってくれる遥に申し訳なさを感じつつ、遥の病が進行していることに焦りを感じていた。
遥の病は性病であり、初めは皮膚に瘤のようなものができた後しばらくしてそのしこりは消えていく。だが、しばらくすると今度は皮膚の内側に赤いあざができ、全身を鞭で打たれたような痛みが走りぬける。そしてその症状が出た後から次第に味覚や聴覚に異常をきたし始め、最後には脳にまでその影響が及び、高熱の中針で刺すような痛みが全身を襲い死に至るという病だった。
遥が病を発症してから既に半年が過ぎている。この病気は長くて3年短くて1年以内に死に至ると言われている。そのため二人は毎日の食事の味をわざと不味くして遥の様子を伺っていた。だが、1週間ほど前から遥が二人が作る食事がおいしくなったと言い始めており、竜崎と義人は焦っていた。
「遥、そろそろ寝ろよ。俺たちは戸締りしてくるから」
義人は遥に寝るように告げて布団を上にかけた。
「ありがと、それじゃあ寝よっかな。二人も早く寝てね」
そう言い終わってすぐに寝息がボロボロの木造小屋を満たしていった。
「おい、明日の探索。少し奥の方まで潜ってみないか?」
「ああ、そうだな」
遥が寝たのを確認して竜崎は義人に話しかけた。深く潜る、それは死に近づくということだった。それでも義人は竜崎の提案に迷いなく賛成した。遥の様子を見ていると今まで通りでは決して間に合わないことは明白であり、遥を助けるためには自らの命をさらに軽く扱わないといけないことは二人とも分かっていた。それでも竜崎と義人は、かつて遥がくれた恩に報いるために自分たちを犠牲にすることに何のためらいもなかった。
ありがとうございます。また気まぐれで書いていきますのでよろしければお読みください




