壁の向こう側
よろしければお読みください。思いつきなのでいつまで続くか分かりませんが。
「飲むか?」
戦闘を終えた竜崎が水を差しだした。その顔には疲労感が漂っており今にも眠ってしまいたいという様子だった。それでも自分以外の人に気を使える竜崎の性格に義人は救われたことが何度もあった。
「ああ、ありがと」
水の入った汚れた筒を受け取ると、義人は一口分だけ水を口の中に含んだ。
「しっ」
突然、竜崎が口元に指を立て音を消すように指示した。義人は竜崎が眺める方向を少し遅れてみることになったが、その目線の先にいる生物を見ると一粒の汗が額から流れ出た。その汗は熱が籠る森林の中にいるからではなく、明らかに別の何かが原因で吹き出したものだった。
「あいつはナンバー46の死体を漁る者じゃねーか」
ナンバー46と言われたその生物は鳥のような姿をしているが、その体には複数の目玉が付いており、およそ友好的な存在ではないことを肌で感じ取ることができた。
「くそ、さっきの戦いで死んだやつらの死体に引きつけられたのか」
ナンバー46は辺りを複数の目で確認した後、敵がいないと判断したのか足元に転がっている死体を突き肉を抉り始め、口から伸びる長い舌のようなもので体内を犯していった。
「うっ」
義人は目の前の光景に思わず吐き気を催した。
「吐いてもいいが、やつに見えないところで頼むぞ」
竜崎はそう告げながらも視線をこちらに向けることは無かった。というのもナンバー46は死体にしか興味が無いらしく、生きている人間にはあまり害がない存在だと伝えられていたからだ。ただ、目の前にいるナンバー46は体が赤く染まっており、体の目玉は落ち着きなく動き回っている。このような状態のときは気性が非常に荒く、自ら人を殺して死体にしようとしてくる。そのため義人たちは動けないでいた。
「いや、大丈夫。それよりもどうだ?」
「とりあえずあいつが去るまではここにいたほうがいいな。死体の数は3つだからそれほど長くここにはいないだろう」
「そうかい」
竜崎と義人は周りの生き残ったメンバーを見渡しながら、しばらく今いる場所に待機すると指示を出した。
幸いにもナンバー46は生活の全てを視力に頼っている分、聴覚や嗅覚などは極端に退化しており余程大きな音でもたてない限りは気づかれることはない。
「それにしても今回の探索は報酬もそれなりにいいものがあったが、その分犠牲者も多かったな」
義人はリュックに詰められた今回の戦利品を背中で感じながら竜崎やそのほかの仲間たちを見て言った。
「確かにな。でも光源の花を見つけられたのは大きな収穫だ。街に戻ったら改めて確認しよう。それに食料も確保することができた。犠牲が少し多い気もするがそれでも探索の成果としてはいいんじゃないか?」
「なんつーか皮肉というか何というか、俺たちが今生きてられるのもナンバーどものおかげなんだよな。あいつらがいなかったら人類なんてとっくに滅びてただろうし」
「ったく、そんなことを言うのお前ぐらいだぞ、義人」
竜崎は呆れたような顔をしていた。
「お偉いさん方は口ではナンバーは滅ぼすべきだ、とかなんだと言っているくせに、結局、治安維持の名目で俺たちみたいなガキを壁の外に出させて、そのナンバーから得られる利益は全て享受しようとしてる。そもそも滅ぼすことなんか無理なのは分かってるだろうに」
「そうは言うが、その利益を享受しているのは俺たちもなんだからあんまり言いすぎるなよ。それよりそろそろ食事が終わりそうだぞ」
竜崎の声を聞いて再び目をナンバー46に向けると最後の一人の死体を啜るように呑み込む瞬間だった。足元には他二人が着ていた服の布が散らかっていた。ナンバー46は臓物を食べた後死肉の血を啜り喉を潤し、残った皮をジャーキーのように口に含む習性があった。
「よし、いったな」
大きな羽音と共にナンバー46は飛び立った。そして急いで先ほど死体があった場所に戻るとズボンのポケットに縫い付けられている個人番号を引きちぎってその場を後にした。
街に着いたのはその後しばらくしてからだった。探索隊は行きは20人程度いたが帰って来たときには竜崎や義人を含んで8人程度になっていた。
「おい、開けてくれ」
壁の下で上に合図を出すと竜崎たちの目の前の小さな鉄扉が音を立てて開いた。なだれ込むように壁の中に入ると緊張が解けたのかしばらく立つことができなかった。
「よくぞもどった。探索隊のメンバーたちよ。諸君らの果敢なる戦いはこの街の中にいる者全てが感謝している。さてそれで今回の探索では何を得たのだ。見せてみろ」
偉そうな態度の老人を見下ろす形で見ていた竜崎と義人だが、それに歯向かう気はさらさらなかった。
「ほう、光源の花かそれにいくつかの食料。よくやった。それではそれをおいて下がれ」
二人は言われた通りにするしかなかった。そもそも探索隊にいるやつらは皆、スラム出身ばかりであり、人権なんてものは存在しない。スラム出身の者が辿る道は娼婦になるか探索隊となって壁の外に行くかそのどちらかしか選ぶことができない。竜崎と義人は物心ついたときには既にスラム街に住んでいた。二人は幼いころから気が合い行動を一緒にしていた。そのため探索隊の中でも二人のお互いに対しての信頼関係は強かった。また単純に戦闘力も高く二人が一緒ならばナンバーもそれなりの被害で狩ることができた。
「あいつ、いつかぶっ殺してやる」
義人がスラム街に戻っている最中にそう呟いた。竜崎はそれを黙って聞いていた。
「何が果敢なる戦いだよ。その戦いのせいで今回も何人死んだと思ってんだよ」
「しょうがない。あいつらにとって俺らは盤上の駒と一緒なんだから」
「だから、それがムカつくんだよ。いつか絶対に殺してやる」
「その時は手伝うよ」
「おう、頼むな。地獄を見せてやろうぜ」
「そうだな」
二人はそう言って自分たちの住む薄汚れた街まで歩いて行った。
ありがとうございます。またよろしければご覧ください。




