報復! 復讐! 愉悦!
おそらくはチュートリアル用のごくごく簡単な……こんな所で死ぬなんて全く想定されていないであろう森で私は言葉も無く立ち尽くしていた。
「放送事故」と言っても差し支えない事態にコメントが「大丈夫?」「リセマラする?」と心配する中――、
「うふふふふ」
静かだった森に笑い声が響く。
感情を押し殺したような笑い声をこぼした私は――思いっきり口の端を吊り上げた。
「あっはは。あはははははははっ」
『!?』
『どうしたどうした』
『アズサ、とうとう心が……』
動揺するコメントに目もくれず、ひとしきり笑い終わった後私は狂犬のような笑みを浮かべる。
「なんかね――ここまでクソな状況だと逆に『やってやろう』って気になった」
『あー』
『いつものか』
『でたな妖怪負けず嫌い』
私はどちらかといえば断然、理不尽な強さのボスを前にしたらクリアするまで挑み続けるタイプだ。アイテム0どれだけステータスに格差があろうと関係がない。
勝つと決めたら勝つまで戦う。
私はこの半年そのスタイルを貫いてきた。
リスナーも私のそういう性質を理解しているらしく妙に納得している。
「それに、折角メイドさんが私を困らそうって仕立ててくれたステータスだよ? ちょっといい匂いもする。具体的には仕事中のOLさんみたいな控えめで少し汗ばんだ匂いがっ」
『きも』
『通報しました』
『これが俺の推しなのか……』
ドン引きするコメントもなんのその。
「だから、リセマラなんてするわけないじゃんね!」
そう私は力強く断言する。
「私はこの爪楊枝並みの攻撃力と紙装甲のまま突き進む。……でもあまりに配信がグダったら裏でやるからそこら辺は勘弁してね」
『保険はかけますと』
『了解』
『好きにやりな』
「うん、良い返事だね。じゃあまずはあのクソスライムを溶解炉にぶち込んで水蒸気にしてあげよっか」
『発想が怖ぇよ……』
『圧倒的ヘイト草』
さて、やることは決まったんだ。後は突き進むだけ。
まずは――あのスライムを殺そう。
私は改めて自分のステータスを確認する。
確か、私の記憶が正しければ元々私のHPは10あったはずだ。なのに今は1になってる。デスペナルティ―とやらの影響を加味してもこれは少なすぎだ。
十中八九、あのメイドさんが何かしたんだろう。
おそらく裏技的な何かを。
たぶん防御力が1だったとしてもスライム程度の攻撃で即死するとは考えにくい。これはまず間違いなく私のHPがたった1しかないことに起因している。
そして元々10あった私のHP、MP、SPはおそらく――。
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「獣気活性LV3」
・一時的に状態異常「血鬼病」を術者に付与。
「血気病」状態の者はあらゆるステータスがスキルレベルに応じて跳ね上がるが、その間術者は継続してダメージを負う。
それは知恵なき獣を裡に宿す秘術にして禁忌。
それゆえ「星」の求道者には特に忌み嫌われ、第七世代以外にこれを扱う者は滅多に居ない。
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この、やたらとレベルの高いスキル「獣気活性」とやらに吸われたんだろう。
これがもっと役立つスキルなら使いようもあったけど、説明を見る限りこれを発動した瞬間私は「血鬼病」の副作用で即死する。
つまりは実質無いも等しいクソスキルだ。
高い器用値もこれでは宝の持ち腐れである。
「はは、楽しくなってきたね」
なるほど……現状は理解した。
「うーん、このステータスだと真正面から戦うよりも、高い所から重たい石を落としてを繰り返したりする方が簡単そうだけど……私はあえて真正面からスライムを捻じり殺します」
『言うと思った』
『さすが配信者だ、俺達にできねぇことを平然とやってのける!』
『発想が一々物騒だなオイ』
そうと決まれば前進あるのみ。
私は慎重な足取りで立っていた場所から進む。
すると数分もせずに憎ったらしいスライムと遭遇した。
「さっきはよくもまぁ私を殺してくれたね。でも私を殺したんだから、私に殺される覚悟はできてるよね?」
このスライムはあくまでチュートリアル用の敵だ。
威嚇こそすれど私が刃を向けるまでは特に攻撃することはなく、格好の的である。
もちろんそのチャンスを逃す私ではない。
「ほっ」
私は手元の模擬等を躊躇なくスライムへ投擲する。
スライムは回避行動を取るも間に合わず直撃。
とはいえ私のステータスで初期武器を投げても大したダメージを与えられない。
でも、その衝撃でスライムは僅かによろめく。
「隙あり! 死ね!」
そのスライムに私は鋭い蹴りを叩き込む。
硬い感触。
体勢を整えたスライムはぶるぶると身体を震わせ――私へタックル。
しかし大きな予備動作、起動も単調だ。
避けるのは簡単。避けるついでに私はカウンターの一撃を加える。
私が武器を捨てた理由は攻撃後の反動が大きいからだ。あれでは次のスライムの攻撃を回避する余裕がなくなってしまう。
だから攻撃手段は拳か脚に限定する。
私はこれまでそこそこのゲームをしてきたけど、基本的にどれだけ攻撃力が低くてもダメージが1を下回ることはなかった。
アスチェは今までにないくらい現実を再現してるとはいえ、れっきとした「ゲーム」だ。
スライムのHPがそこまで高いとは思えない。
だから私がダメージを積み重ねていけば――絶対に勝てる。
『経験値が一定値に達しました』
『渡瀬アズサのレベルが2になりました』
『基本ステータスが加算されました』
『CP及びスキルポイントが加算されました』
『条件を達成しました』
『スキル「体術LV1」を獲得しました』
「はーっはっははっはははは! ざまぁ見ろゲル状の矮小生命体がっ! あの世で自分の業を悔い改めるんだね!」
HPが0になりポリゴン状になって消えるスライムを、私は思いっ切り嘲笑した。




