死ぬしかないじゃないっっ!!
【――嗚呼、星よ、星よ】
なんか始まったんですけど。
【我らは盲目。ゆえに灯が必要なのです。暗澹を眩く照らす、肌を焼くほどの灯が】
プロローグかな。
手元のタブレットに『スキップ』っていう項目が浮かんでるけど、折角だから見てみようかな。
【手前勝手だとは万も承知です。無論、我々も無償であなた方の救いを求めるような愚弄は致しません。我々はあなた方に贄を捧げます。幾度死の淵に追いやられようとも立ち上がり、星の無聊を慰めんとする者――「第七世代」を】
おー?
内容的にこの「第七世代」は私たちプレイヤーのことかな?
【ですので、どうか。どうか。我々をお導き下さい。――この伽藍堂の世界から抜け出す、唯一の旅路をお導き下さい】
そこで「声」は途絶え、場面は一転する。
目の前に広がるのはビルだらけの都会とは程遠い大自然。
私がここ最近レトロゲーばっかりやってたせいか、開発側の技術側の賜物なのかは分からないが生い茂る木々、そこに止まる小鳥や澄んだ青空、とにかく存在するありとあらゆるものが現実と遜色なく描写されていた。
それは私自身も例外ではなく、土や木の匂いをリアルに感じられる。
「うわ、凄いね……これ何億かかってるのかな? いや億で足りる? ここまで出来のいいVR初めてかも」
たぶんプログラム見たらエグいことになってるんだろうな……。
あまりの技術力にドン引きしてしまう。
「ていうかスタート地点が森なんだね」
となるとこの森でチュートリアルをする感じかな。
「初見で遊びたいからあんまり事前情報には触れてないけど、確かアスチェは結構アクション要素強めらしいね。大丈夫かな……、私そこまでプレイスキル高くないんだけど。前やったFPSで仲間全員トラックで轢き殺して無事に戦犯になったし」
『あれはプレイスキル以前の問題なんじゃ……』
『高速道路なんて何年ぶりかなぁ、乗り方も忘れちゃったなぁ』
『もはや芸術』
『たぶんしばらくは大丈夫だと思うよ』
『老人も安心して楽しめる神ゲーそれがアクチェ』
『少なくともこの初期ステージで死んだなんて聞いたことがない』
「そっか。なら安心だね」
ほっと息をついて私は周りを見渡す。
特に道らしい道はないかな……。
コンパスも地図もないし、適当に進むしかないか。
特に何も考えずに前に進もうとした……その時。
がさがさと草を掻き分ける音と共に、何かが私の前に飛び込んできた。
「おっ、これは……スライム?」
私の前に姿を現したのはぷるぷると小刻みに震えるゼリー状の物体、俗に言うスライムだった。
その姿は現実の猫より一回り大きいくらいか。
「なるほど、このちっこいので戦闘のチュートリアルってことかな」
今のところスライムは特に攻撃せずぷるぷる(たぶん威嚇?)しているだけだ。
チュートリアルだから私が攻撃するまで待ってくれてるようだ。
私はタブレットを操作。
虚空から初期装備の模擬等を取り出す。
アスチェでは持ち物を謎空間に出し入れするらしく、その操作はタブレットを通して行われるっておっぱ……メイドさんが言っていた。
「さて、やりますか~」
私は強く踏み込み、レイピアの要領で模擬等の先端をスライムに突き刺す。
所詮相手はチュートリアル用のクソ雑魚。
さっさと倒して森から出ようとしよう。
そう意気込みスライムのゼリー状の体に模擬等が触れて、
思いっきり弾かれた。
「えっ?」
嘘……なんで?
この硬い感触、まるで硬いコンクリートの壁を蹴ってるような……。
予想だにしない事態に思考が停止する。
そしてスライムは攻撃が弾かれて生じた致命的な隙を逃さなかった。
それはただの体当たりだ。
ごく普通の、自分の質量を相手にぶつけるだけ。
スライムゆえに対して勢いもない一撃。
それをモロに食らった私は――HPが0になった。
『死亡しました』
『ペナルティーとして一定時間全ステータスが大幅に減少します』
『100ターンが死亡場所に紛失しました』
『直近のセーブポイントに戻ります』
そしてただいま初期地点。
「……………………」
あまりの事態に理解が追い付かず、私は放心してしまった。
『少なくともこの初期ステージで死んだなんて聞いたことがない』
脳裏をよぎる親切心にあふれたコメント。
え、……マジでどういうこと?
『え?』
『なに? なにが起きたの?』
『訳がわからん』
コメント欄が困惑しているのをみると、本当にイレギュラーな事態が生じたようだ。
「……説明求む」
『分からん』
『謎』
『バグか?』
『念のためステータス見てみたら?』
「ステータス……」
コメントに従って私は自分のステータスを確認した。
―――――――――――――――――――――
・渡瀬 アズサ LV1 CP:0
所持金:1000ターン
HP:1/1 MP:1/1
SP:1/1
物理攻撃:1
物理耐久:1
魔法出力:1
魔法耐久:1
速力:1
幸運:1
器用値:90
神秘:1
〈スキル〉 スキルポイント:0
「獣気活性LV3」
〈装備〉
模擬刀(発動スキル「見切りLV1」)
浅皮の装束(発動スキルなし)
――――――――――――――――――――――
「……………………」
あまりの極端さに開いた口が塞がらない。
器用値90?
しかもその他のステータス全部1?
マジ? マジで言ってる?
「ちなみにこの器用値って……」
『スキルの効果を高める数値だけど……』
『正直、増えても正直意味ない』
『クソステ』
『他のステータス上げた方が千倍マシな凡数値』
『あのメイドさんやりやがった』
私はおおむろに空を見上げた。
一面に広がる澄んだ青空。雲一つない快晴に目を細める。
ぱたぱたと宙を泳ぐ蝶々を眺めながら、私はぽつりとこぼした。
「これって私のせい?」
『完全な自業自得だろ』
『メイドさんにセクハラしたの誰か言ってみろよ』
『お前が始めた物語だろ』
「そっかぁ……そうだよね」
血も涙もないコメント欄を見て、私は開始早々アルチェ実況が詰んだことを悟った。




