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すべての元凶


「は~い、こんアズ。インターネットの皆さま久しぶり、渡瀬アズサです。音量は大丈夫かな?」


 配信開始ボタンを押し、私は虚空に声を張る。

 最近のVR技術は私みたいな配信者にも優しく、こうして仮想現実に入り込んでいる状態からでも配信が可能だ。

 私は流れてくるコメントを目で追う。


『こんアズ~』

『こんアズ~』

『久しぶり~』

『音量、ヨシ!』

『インターネット老人が話題の神ゲーやろうとしてっるてマ?』


「本気と書いてマジだよ。ふふ、私だってVRMMOくらいできるのさ。舐めてもらっちゃぁ困りますよ」


『操作分からなくて個人情報晒してた奴がなんか言ってるぞ』

『インターネット中に自分の体重晒した女だ。面構えが違う』

『さて、今日は何をやらかすか……』


「フッ、そう思うでしょ? ですが今日の私はただの渡瀬アズサではありません。ド級の渡瀬アズサ……ドアズサだ。あらかじめ同期に設定弄ってもらってああいう事故が今後起こらないようにしてるよ」


『ドアズサ草』

『なお本人は何もしていない模様』

『要介護だから仕方ない』

 

 な、なんか今更だけど私の扱い酷くない……?

 釈然としないが一々噛み付いてもキリがないので、私はテンポ良く配信を進めることにした。


 ちなみにインターネット老人は一般的に使われている「インターネット懐古厨」という意味ではなく「インターネットの扱いが老人並み」という意味である。いくらミュートや畳配信を連発してきたとはいえこれは酷い。


「さて、散々インターネットからジジイだのババアだの罵られてる私だけど、今日は皆さんご存知の【Astro chase on-line】……略してアスチェをやっていきたいと思うよ。なんでもオープンワールドのイカしたRPGらしいね。初見の状態で楽しみたいからあんまりコメントは読まないけど、困ったときは泣いて(すが)るからね。よろしく~」


『清々しいほど図太い』

『もう慣れた』

『なるほど。俺たちは都合の良い時だけ酷使されて用が済んだら見向きもされない……なんだ、いつもの俺じゃん』


 君……涙拭けよ。


「あ、あはは……。さて、早速始めるよ」


 苦笑しつつ私はソフトを起動する。

 一瞬の浮遊感の後、それまでのホーム画面から一転。

 よく分からない無機質で広々とした空間に移動した私を出迎えたのは……おっぱいだった。


「えっ」


 思わずそんな間抜けな声が漏れるくらい、その人のは大きかった。

 目の前の見目麗しい女性はメイド服を着ているが、清楚な装いに反してあまりにも暴力的すぎるその谷間。

 しかもただ大きいわけではなく、木に成った果実のように思わずもぎ取りたくなるような美しい形状をしていた。

 

 だから私が無意識にその乳房を揉みしだいていたのも仕方がない。


「……あの、止めていただけませんでしょうか?」


 ゴミを見られるような目でメイドさんに窘められる。


「あっ、済みません、つい体が勝手に……」


『おい』

『こいつやりやがった』

『体は母性を求めていたのか』

『流石だァ。俺たちにできないことを平然とやってのける!』

『確かにデカいからな…………即垢バンしないその度量が』


 や、やっちまった……。

 開始早々やらした事実に配信を切りたくなるが、流石にそれは我慢する。

 

「こほん。この場では貴女の容姿やステータスを決定できます。一度決定した容姿やステータスは変更できませんのでご注意を。なお、それらの操作はこのタブレットを用いて行われます』


「へぇ、タブレットでやる感じか」


 割と斬新だね。いや意外と最近のゲームではこれが普通なのかな?

 メイドさんに手渡されたタブレットを受け取る。

 その際メイドさんのめちゃくちゃいい匂いが私の鼻を満たして何をとは言わないがもう一度揉みたくなるけど、なんとか自重する。

 鎮まれ、私の両腕……!


「まずは名前だね。ここはいつも通り『渡瀬アズサ』っと。後はキャラメイクか」


 結構パーツあるな……。

 髪型だけで百は越えてるんじゃない?

 正直こういうのには徹底的に拘りたいタイプだけど、配信のテンポを考えて素早く外見を決定していく。


「こんな感じかな」


 数分間パーツをいじって出来上がったアバターを私は満足気に眺める。

 白雪のように色素の抜け落ちた長髪に線の細い身体、真っ赤な瞳とかなり浮世離れした容姿だ。服装は当たり障りのない初期装備だが顔が良いせいかそこまで貧相な印象もない。


「こういう女を抱k……愛でたいなぁって思って作ったよ」


『ゾワッ』

『おい今本音漏れたぞ』

『なんか今日いつもに増してキモイな』


 コメントから罵倒されつつ私はキャラメイクを続行。

 

―――――――――――――――――――――

・渡瀬 アズサ   LV1   CP:100  

 所持金:1000ターン

 HP:10/10  MP:10/10

 SP:10/10 

  

 物理攻撃:0

 物理耐久:0

 魔法出力:0

 魔法耐久:0

 速力:0

 幸運:0

 器用値:0

 神秘:0


〈スキル〉  スキルポイント:10

 なし

 

〈装備〉

 模擬刀(発動スキル「見切りLV1」)

 浅皮の装束(発動スキルなし)

――――――――――――――――――――――


 メイドさんの話によるとこの「CP」というのを各ステータスに配分するらしい。


 また上から6つまでは大体字面通りであまり見たことがない器用値はスキルの効果を底上げし、神秘はNPCとの会話に補正が加わるとのこと。ちなみに基本ステータス(HP、MP、SP)はレベルアップに伴って勝手に上昇していく。


「うーん、悩むねぇ……」


 一通りの説明を聞いたはいいけど、いかんせんマジの初見なのでどの数値にどれくらい振ればいいのかなんてチンプンカンプンだ。


 こういう時はコメントの有識者によく聞くのがセオリーだけど、でもそれじゃあちょっとつまらないかなぁ。

 よし。

 ここはメイドさんに頼ろっかな。


「メイドさん。あなたにステータス配分を任せます」


「……私がしてもよろしいのでしょうか?」


 「え、私?」って顔をするメイドさん。


「うん、メイドさんに仕立ててもらったステータスと思うと非常に興奮ゲフンゲフン、安心しますからね」


「そうですか」


 またゴミを見るような視線が突き刺さる。

 だがこの渡瀬、実はメイドさんのそんな顔も満更ではない。

 その後ドン引きする視聴者を物ともせず他の細かい設定を済ませて、私はアスチェの世界に旅立った。


 ……メイドさんが仕立ててくれたステータス、ちょっといい匂いがするなぁ。

ちなみにこの時メイドさんはガチ勢でも知らないような裏技を使ってアズサのステータスを弄っていたりもしますがそれはまた別の話です。

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