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生まれ変わったけど期限付き!?〜家族との再起をかけた奮戦記〜  作者: 石田あやね
第3章 恋を実らせろ!
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45話 とある休日①

 あれから平穏な日々が続き、季節はすっかり秋の色に変わっていた。

 俺の身体には特に変わったこともなく、颯太としての日常をこなしている。もう保育園の生活も恵美を母親として扱う事も、直子と孫として接する事にも違和感を抱かないぐらいに慣れていた。

 そんな今日この頃の俺は今、大自然の中にいる。原田の提案でバーベキューをする事になったのだ。

 森の中に流れる穏やかな川、その中で優雅に泳ぐ魚たち。都会の疲れを癒すには最適の場所だろう。


「ここ穴場なんですよ」


「凄く素敵な場所ですね。生き返る!」


 恵美は伸びをしながら、澄み切った空気を吸い込んだ。俺も真似をしながら深呼吸する。

 慣れてきたとはいえ、ずっと子供を演じ続けるのには神経を使う。そんな日常から少しだけでも解放されるような日になればいいと思った。


「恵美さんは座って寛いでくださいね! 今日の料理は俺が全部やりますから」


「ええ! そんな悪いですよ! 何か手伝います!!」


 恵美は大慌てでタープを組み立て始めた原田の元へと駆け寄る。手伝いをしようとする恵美を原田は手のひらで制止した。


「俺が誘ったんですから任せてください! 恵美さんはいつもひとりで颯太くんのお世話や家事、お仕事までこなしてるんですから……こういう時は思う存分だらけちゃっていいんです」


 それにと付け加え、原田は俺の肩をがっしり掴む。


「俺には力強い相棒がいます!!」


(おいおい、俺はアウトドアなんてやった事ないぞ?)


 どちらかと言えば足手纏いになること間違いなしなのだが、原田の言っている事には間違いない。恵美は毎日いつも忙しなく動き回っているのを見ているから、こんな休日はゆっくり休んでもらいたいのが正直な気持ちだ。


「任せて、ママ! ぼくも頑張るからママはゆっくりしてて!」


 俺がぽんっと握り拳で胸を叩くと、恵美はふっとおかしそうに笑みを浮かべた。


「なら、お言葉に甘えてゆっくりしようかな」


「恵美さんはそこで飲み物でも飲んで休んでてください!」


 原田が指差す方向には到着してすぐに用意されたアウトドアチェア。横にはミニテーブルが置かれている。


「俺の車にクーラーボックスがあったでしょ? そこに飲み物入ってるんで好きなのを飲んでください!」


 俺は心底感心していた。仕事面は平凡、恋愛面ではポンコツなやつだと思っていたが間違いだったようだ。今日の原田は誰よりも頼り甲斐ある男に見える。


「そ、颯太くんは俺とタープを張ってから魚釣りでもしようか! ここで釣れた魚を塩焼きにすると格別に美味いんだ!」


 ただ、俺を颯太として扱うのはまだ慣れていないせいでたどたどしさが目立つ。


(早く慣れてもらわないとな)


 俺は苦笑いを浮かべながら原田の手伝いをした。しかし、原田の手際があまりにもよく、俺の手を借りる事なくものの見事にタープは完成。俺と恵美は思わず拍手をした。


「原田さん、すごいですね! アウトドア好きなんですか?」


 恵美は車から持ってきたお茶を原田に差し出す。


「好きですけど、これは親の影響ですかね。父と母がアウトドア大好きで、小さい頃は連休の度にキャンプに連れて行かされたんです。そこで父親に仕込まれたんです」


「そうなんだ。いいね、アウトドアが好きな家族って……うちのお父さんはそういうのに疎いというか、興味なかったから」


 俺は気まずさから苦笑いを浮かべた。


「きっと部長は……」


 原田が小さく呟く。すっと目線が俺に向けられた。


「きっかけが掴めなかっただけで、本当は恵美さんや奥さんといろいろな事をしたかったんじゃないでしょうか? 部長はパッと見、無愛想に見えるけど……すごく愛情深い人だったと思います。その証拠に仕事が今ひとつな俺のこと最後までしっかり面倒見てくれたし、私生活の相談も熱心に聞いてくれて、第二の父親みたいに感じてたんです。部長はただ愛情表現が不器用なだけだったんですよ」


 原田がまさかそんな事を言ってくれるとは思わず、嬉しさに震えた。それと同時に恵美に何もしてあげられなかった過去を再び悔やみ、胸がぎゅっと締め付けられる。


「部長の代わりって言ったら変ですけど……俺が部長がしたくてもできなかった事をこれからたくさん計画していくんで、恵美さんが嫌でなかったら付き合ってください!! 颯太くんもね!」


 原田の言葉に俺は静かに頷いた。恵美も微笑んで原田を見つめていた。


「ケープは完成したから、次はお昼ご飯の調達だ! 颯太くん、たくさん釣るぞ!」


 原田は車から降ろしていた釣り道具を持ち、俺にウインクをする。


「お、おう!」


 ウインクだけは受け付けないと思いつつ、俺は歩き出した原田に着いて行った。後ろから恵美がいってらっしゃいと叫ぶ声がした。


「すいません、出過ぎたことを言いました」


 ボソッと小声で原田が告げる。


「いや、逆に有り難かった。ありがとう」


 そう返すと、原田はそっと俺にバケツを差し出した。


「バケツいっぱいになるぐらい釣りましょう!!」


「なら、俺も釣れるように指導頼むぞ!」


「了解です!!」


 元同僚であり、今は友のような存在の原田の笑顔がいつもより輝いて見える。


「できれば俺が定年後にこうして原田と付き合いたかったな」


「でも今、実現してるから良いじゃないですか! 前向きに考えていきましょうよ、部長!!」


 ーー俺がもしも死ぬことなく今も生きているとしたら、こんな風に原田と釣りなんて行っただろうか?


 この不思議な現象がなければ、恵美の抱える苦しみも知ることはなかったし、原田ともあのまま疎遠になっていたかもしれない。そう思えば、俺の死は少なからず無駄ではなかったと思える。


「そうだな……前向きに考えよう」


 ずっと心にあったモヤモヤが少しだけ晴れたような気がした。

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