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生まれ変わったけど期限付き!?〜家族との再起をかけた奮戦記〜  作者: 石田あやね
第3章 恋を実らせろ!
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43話 再会の涙

 何を話すでもなく歩き、ある程度進んだ所で俺は原田を見上げる。前ならば同じ目線で話をしていた相手をこんな風に見上げる日が来るとは思いもしなかった。

 正体を明かして初めてふたりで会うのだから、少なからず体に緊張感が走る。メッセージのやり取りでは簡単に受け入れたかのように感じたが、顔を見ていないのだから本当は心底驚いていたかもしれない。もしかしたら、今も戸惑ってなかなか言葉が見つからないでいる可能性もあった。

 見た目は子供だが、中身は原田に頼りにされていた課長のままだ。これは上司として頼り甲斐のある態度をしなくてはならない。


「原田」


「俺、生まれ変わった人を初めて見ました!!」


「は?」


 急に顔を向けた原田の瞳がやけにキラキラと輝いて見えた。どう見ても戸惑っているというより、楽しそうに映る。


「初めは3歳にしては大人びてるなって思ってただけだったんですけど、あの言葉を聞いた瞬間ピンっときたんですよ!」


 原田は地面に膝をつくと、俺の両手をギュッと握り締めた。


「勉強になるな〜って、部長の口癖だったじゃないですか! それを孫の颯太くんが言うのは有り得ないから、まさかって思い始めたら居ても立っても居られなくて!」


「分かった。原田、少し落ち着こうか」


「真相を確かめるまでは半信半疑でしたが、あの手紙を理解して返事をくれた時は俺もう本当に嬉しくて部屋で叫んだんですよ!! 部長にまた会えたって!!」


「そこまで喜んでくれるなんて嬉しいよ」


 勢いに負けた俺は原田に笑顔を向けてひたすら頷いて見せる。


「俺もまた原田と話せて喜ばしいと思っているよ」


「俺、ずっと願ってたんです。また部長と話したいって……だから、本当に夢みたいです」


 笑顔で話しているはずの原田の目から音もなく涙が溢れ始めた。今度は泣き出した原田にギョッと目を見開く。


「おい、原田」


「部長、俺あの夜……一緒に帰ってれば良かったのに、あのままひとりで帰してしまってすいませんでした。俺がもっと引き止めていたら部長が交通事故に遭わずに済んでたかもしれないのにっ」


 鼻水と涙で顔中がひどい状態になっていく原田を見兼ね、そっと頭を撫でた。


「すまなかった。お前に余計な気苦労をさせてしまったんだな……そして、俺のことに気がついてくれてありがとう。感謝してる」


「感謝なんてしないでくださいよ。俺なんも部長のお役にたてませんでした」


「そんなことない。こんな状況になった俺を受け入れてくれてるじゃないか」


 原田は笑顔を零すも、更に涙でみっともない顔になっていく。やれやれとハンカチでもと探すが、公園にリュックを置いてきてしまった。何かで拭いてやりたいのだが、そうも言ってられない状況に俺は気がついてしまった。俺と原田の横を通り過ぎていく通行人がどこか不審なものを見るように覗き込み、ヒソヒソと話しながら去っていく。

 いい大人が号泣し、それを宥める子供。他人から見たら何事かと思われるだろう。

 これはいつ怪しまれて通報されるか分からない。


「原田、感動の再会を果たせたことは嬉しいんだが……もうそろそろコンビニへ急ごう。恵美が心配してしまう」


「そうですね……すいません、つい嬉しくて気持ちが昂ってしまって」


 原田は半袖の短い袖を引っ張り、濡れた顔面をゴシゴシと拭いた。


「原田、お前な。社会人なんだからハンカチの一枚でも持ち歩いたらどうだ」


「いやー、会社ではちゃんと持ち歩くようにはしてるんですけど」


 ヘラっと腑抜けた笑みを漏らす原田に俺は呆れ笑いを浮かべる。俺が死んで4年も経っているのに、こうも変わらない奴はなかなかお目にかかれない。やれやれと肩を落としながら、俺は力強く原田の手を握った。


「泣いている暇はないぞ……俺とお前には話さなければならないことが山ほどあるんだ。だが今は、飲み物を買って恵美のところへ戻るのが最優先事項だ」


「はい、部長!」


「今は()()だ」


「分かってますよ!!」


 いつものニコニコ顔に戻った原田に俺は妙な安心感を覚える。俺の正体を唯一知る人物が原田で良かったと心底思った。

 人数分の飲み物と原田の朝食であろうおにぎりと菓子パンを購入し、公園へと戻る。


「恵美さんや奥さんには颯太くんの中身が部長だって教えてあげないんですか? きっと喜ぶと思いますよ」


「原田のように直ぐ信じてくれればいいが、そう簡単にはいかないだろう。自分の息子が父親なんて誰が信じると思う? というか、恵美はきっと嫌がるだろう。死んだ父親が息子の体を乗っ取っているなんて気味が悪いとしか思われない」


「そんなこと無いと思いますけどね」


 娘と関わってこなかった人生だ。どんな反応をするかは分かっている。


「それに安易に正体をバラすのはダメなような気がしてな。お前に打ち明けるのも一か八かの賭けだったんだ。颯太の身体を借りているに過ぎないんだ……俺もいつ消えたっておかしくない」


「それって部長はいずれ居なくなるってことですか?」


 原田の歩みが止まり、俺はそっと振り返る。


「それはそうだろ。俺はすでに死んだ身……いずれ成仏する日が来るだろう。というか、そうならなければ颯太に申し訳ない。この身体は颯太のもので、俺のものでは無いんだ」


 言い切ってしまうとなんだか切ないものだ。こうして颯太の身体を借りて過ごしていると、まだ死んでいないと錯覚してしまいそうになる。だからか、現実を口にする度に心が痛む。


「だから、この身体を借りているうちに俺はやり残したことを全てやり遂げたいんだ。今度こそ悔いの残らない最期を迎えたい……もう、何も残せいないまま居なくなるのはごめんだ」


「なら、俺が協力します!! 部長がやりたいこと俺も一緒に叶えていきます!!」


 任せてくださいと気合十分な原田の様子に俺は微笑んだ。


「ありがとう」


 お前がこんなに頼り甲斐のある奴だと思ったのは初めてだというのは言葉にしなかった。

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