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生まれ変わったけど期限付き!?〜家族との再起をかけた奮戦記〜  作者: 石田あやね
第2章 友達をつくれ!
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38話 油断と正体

 ショーが終わるとステージに集まった観客は一斉に散らばり、賑わった屋外に静かさが戻る。人が少なくなったところで俺は地面へと下ろされた。


「ありがとう! お兄ちゃんのおかげでよく見えた!」


「どういたしまして!!」


 原田は人懐っこい笑顔で俺に言う。俺は照れ臭くささを感じながら,小さく頭を下げた。


「原田さん、付き合ってもらってありがとう。ふたりで来てたら,颯太に奇怪レンジャー見せられなかったかもしれないから……本当にありがとうございました」


「そんなに何度もお礼言わないでくださいよ! たかが肩車ぐらいで大袈裟ですよ……それに俺もレンジャーもの大好きなんで、観られて良かった! 颯太くんと会わなかったら、俺あのまま帰ってたかもだし」


「なら、おあいこね」


 またふたりが楽しそうに笑い合う。その光景に、こっちまでニヤケそうになる。


(いかん、気を引き締めなければ)


「ああ、そうだ……颯太くん、奇怪レンジャーのおもちゃって欲しかったりしない?」


「おもちゃ?」


 俺が見上げると、原田がウキウキした顔を向けてきた。


「俺、よくゲームセンターでUFOキャッチャーするんだけどさ。この間、奇怪レンジャーの武器を連続でゲットしたんだよね……しかも同じの。だから一個貰ってくれないかな?」


(これは、次会う約束をしたくて俺にそんな事を言ってるのか? 恵美を気に入ったってことか?)


 しかし、悩むなんて時間の無駄だ。原田がどう思っているかは分からないが、このまま会えずに終わってしまう可能性も大いにあるのだから、次の約束をするのは悪いことではない。なんなら一歩前進だ。


「欲しい! わーい! 大河くんに自慢しちゃおー」


 俺はできる限り子供らしく喜んで見せた。両手を上げて、くるくると回る。なんとも恥ずかしい様だ。


「なら決まりだね」


 原田が了承すると、俺はピタッと動きを止める。恥ずかしさで額にじんわりと汗が滲んでいる。リュックからハンカチを取り出し、そっと汗を拭った。


「なら、次の休日とか時間があれば……ランチでも食べませんか?」


「会ったばかりなのに颯太に色々してもらっちゃって……だったら、お昼ご馳走するんで家に来ませんか?」


「えっ!? そんな、ご自宅になんて迷惑じゃ」


「いえいえ、恥ずかしい話なんだけど旦那とは最近離婚してるから家にはわたしと颯太だけだし……原田さんが逆にご迷惑じゃなければ全然構わないよ。ああ! もしかして彼女いる!? それだと困るに決まってるよね」


「いや、俺も今彼女とかいないんで困るって話ではないです……なんていうか、ご近所さんとか変な誤解とかしませんか? 俺なんかが来て噂になって恵美さんと颯太くんが嫌な思いしたりしたら俺が申し訳ないです」


 本当に心底いい奴だなと、半ば呆れた。俺はバレないようにため息をつく。


(こんな調子でやり取りしてたら結局会わないでおこうとか言い出しそうだ……やれやれ、原田には世話がやける)


 俺は原田の服の裾を軽く引っ張る。


「だったら、ばあばの家は?」


「え? ばあばってことは、部長のご実家?」


「颯太、名案! それなら原田さんも来やすいんじゃないかな?」


 原田はしばし悩んだ末、納得したように深く頷いた。


「いいですね! 部長にお線香もあげたいですから……それなら喜んでっ」


「そしたらお母さんに聞いてから改めて連絡するね」


「はい!!」


 すると、俺の体がぶるっと震え出す。


(いかん。トイレに行きたくなってきた)


 俺はモジモジしながら恵美に近寄った。


「ママ、ぼくトイレ行ってくる」


「なら一緒に行くから……原田さん、それじゃまた」


「ぼく、ひとりで行けるから大丈夫!」


「えっ!? こら、颯太!!」


 恵美と一緒に行くということは、女子トイレに入らなければならなくなる。周りから見れば、幼い子供でしかない俺は男であっても気に留める人はいないだろう。だが、俺にとっては重大案件だ。下心がないとは言っても、女性専用の場所に立ち入るなんて罰当たりなことできる筈がない。

 俺は恵美に引き止められることを恐れ、何か言われる前にトイレへ向かって猛ダッシュした。


「ふう、セーフだ」


 なんとか間に合い、個室トイレから出る。オムツは履いてはいたが、あの蒸れ感と濡れた感触はかなり不快だ。危機を間逃れた安堵感と、やり遂げた満足感でついつい気が緩んだ。


「男子トイレにも子供用トイレがあったんだな……意識して見てなかったから気付かなかった。やっぱり時代の変化は偉大だな」


 俺の他にも個室に誰か入っている気配はしたが、恵美がいるわけではない。ここは男子専用で、俺を知る者はいない場所と安易な考えをしてしまっていた。


「颯太くんって、やっぱり部長ですよね?」


 その声で俺の血の気が一気に引いていく。

 手洗い場に立つ、原田が無表情で俺を見つめていた。


「え、え?……あの」


 動揺で言葉がうまく出てこない。


「いや、ごめんごめん……あんまり颯太くんの口調とか口癖が部長そっくりだったから」


 原田はすっと手を伸ばす。


「お母さんが待ってるから行こうか」


 なんと答えたらいいか分からず、俺は無言のまま原田の手を握った。


(まずい……颯太が俺だと気がついたのか!? それとも似てるって言いたかっただけか!?)


 こういった場合、俺はどう対処すべきなのか分からない。というより、解決策など考える暇もなく、今度は恵美に手を引かれる。


「颯太! ひとりで入っちゃダメでしょ!? もし危ないことがあったらどうするの!!」


「まあまあ、恵美さん。今回は俺がいたんで……もう颯太くんだって勝手にひとりで行ったりしないもんな!」


「う、うん……ごめんなさい」


 今の俺の思考はまるっきり働いておらず、返事をするのが精一杯だった。


「それじゃ、颯太くんまたね」


 帰り際、原田はまた笑顔を俺に向ける。けど、俺の目に映る原田の笑顔にはどんな裏が隠されているのかまるで読めなかった。

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