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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 “世界”と帝国の章 革命前夜
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-829話 ウォルフ・スノー攻防戦 3 -

 ウォルフ・スノー王国の西側と南側は、殆ど反帝国同盟による友軍という位置づけだ。

 ただし過信は持てない。

 魔王軍という共通の知己を得ているだけで、事実上昨日までは敵だったという間柄だ。

 そのため、第八軍の40近い師団が、国境線に張り付いているような状態だ。

 西欧戦線には26が残っている。


「まあ、俺がこの名に懸けて抜けさせねえから大船で乗ったつもりでいろよ」

 と、大言を吐くのがパレスーの性格らしい事までは分かった。

 彼の操縦法は、とにかく気持ちよく仕事させる方が良いという、放任主義だ。

《こんな短期間でよくぞ見抜いた!》

 ラインベルクへアロガンスが謝辞を送る。

 やや、苦笑気味に――「似た奴が居りましたから」。



 へぶしっ。

「なんです? 御館アリスさま、風邪?」

 マーガレットが羽織ってたストールを首に巻いてあげる。

 アリスのくしゃみは「どこかで俺の噂をしているものだから」と、ストールを一度は断ったものの巻いてみると、マーガレットの優しい香りについ虜になる。

 やはり横から、よくよく覗き込むと形の良い輪郭をしている。

 顔のパーツはメガネではっきりと見ることは出来ないが、帝国の令嬢の中では指で数えた方が早いくらいには入りそうな予感がある。

 これは絶対だ。

 間違いないはずなのだ。

《ブレスト公爵令嬢、いやあの人はこう、悪役という雰囲気がある...他人ひとを選ぶから、こいつみたいな純朴なのには、かえって毒に成り兼ねないだろう。じゃあ誰ならマーガレットに合うか...》

 と、思案していいるうちに――「棟梁、陛下からです」


「陛下?」

 思わず誰だと、言いそうになった。

 この状況下なら、女帝しか存在しない。

 ゴーレム1号が存命で、帝国に反旗を翻したので3号は、地下に潜ったままになっている。

 ことこの状況下では、マーガレットも下手な動きが出来なくなっていた。

「出迎えるという躾のなっていない者になど興味はない。我らがエルフの頂点にして、生物の上に君臨されるハイエルフ族の皇、女帝ルイトガルト陛下からの有難い任務である。心して拝命せよ!」

《心して?》

 アリスの内側に黒い靄が生まれる。

 ただし、ひと度これを表に出せば、今まで築き上げたものはすべて灰燼に帰す。

 アリス本人の命はひとつでもよいが、甲蛾衆の一族郎党で見れば万を超える命である。

 だからぐっと堪えて、首を提げる。

「うむ、よい心がけである」

 読まれている。

 握り締めた拳を解いた機微の動きさえも、見透かしているようだ。

「全力で、ウォルフ・スノーにある皇帝の命を狙え!」

 暗殺指示だ。

 だが、それは今更では難しい。


 その困難なことを彼らも分かっている。

「しかし...」


「わかっている。だが、行け! 骨は拾ってやろう」

 この潜入工作が開戦の狼煙となるという事なのだ。

 自殺行為の潜入工作。

 それと引き換えの地上兵力同時侵攻という大規模な絵。

 全容ではないのだろうけど、帝国本土が戦火にまみれる、本土の焦土作戦といったところか。



 魔王軍の守りの将が、国境に張り付かせた兵の更に上を行く数が、南と東に展開していた。

 バルト海では、西欧連合艦隊が帝国水軍とやり合って、双方に尋常ならざる死傷者を生み出している。

 開戦から僅か3日で王国の南が怪しさ満点の様相となっている。

 南欧諸国連合のラインが構築されないまま、突破されたのが大きい。

 あとはズルズルと歩兵差で押し込まれている。


 “緋色の兜”を率いるグワィネズと、再編成された5千の騎兵部隊が南欧連合軍に参加している。

 ただ、この陣容でも帝国の精兵の前には手も足も出ない。

 いや、敵方の方に“雷帝エルネスト”の姿が散見されることだ。

 あっちこっちの戦場で“雷撃”が迸る戦場なんて、どこを探してもないだろう。

「あいつ、死んだんじゃないのかよ?!」

 グワィネズは呟くと、「全軍、撤退!! とにかく一生懸命に走って逃げるぞ!!!」――なんて指示を出している。

 アホみたいに突進かまして殴りこんでくる奴を相手にすると、兵士の数もアホみたいに吸われるという。

 力の象徴みたいなのを倒すことは、相手の戦意を挫くのには重要だが、有限な資材である兵力を失う理由ではない。もっと効果的な攻略法の為に距離を稼ぐ必要があった。

「反則みたいな強さだ」

 他の指揮官たちも舌を巻く。

 攻めあぐねてはいるが、無視を決め込んで目の前の敵に対処していけば、然程大きな障害にはなっていない。

 脳筋だから、攻撃されたらされた方へとすっ飛んでいくので、何となく操縦法は見いだせた感じでもあった。

「ただまあ、根本的な解決ではないな」


「ああ、最前線に戻る帰巣本能めいたものがあるから、一定の距離までは攻撃された場所まで誘導は可能だ。だが、そこからは何度攻撃しても、近くにありそうな友軍の背に向かって走っていくというのまでは、何となく理解できた。一人で突っ込んでくるだけだが、学習されると厄介な感じはある」

 一息付けているのは、グワィネズの機転のお陰でもある。

 それぞれの指揮官たちが、彼と遭遇するたびに肩を叩く成り、腕を上げて礼を言っていく。

 悪い気はしないが、やや尻の穴が痒くなる。


 マルと出会わなければ、嫌な奴程度で終わる男だったからだ。

「で、そのマルは何処で何をしてるかねえ」

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