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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-759話 姫巫女降し ㊲-

 隊列の後方に衛士10名と、腰帯で腹が閉まると藻掻きながら苦しむ少女がある。

 少女は手荷物のように担がれながら、懸命に追いすがる帝国兵をトラップで撃退していた。

 例えば、深い水たまりを作る。

 天候操作でちょっと気温を下げる、などで罠に嵌った連中が寒がるよう仕向けた。


 これだけなら可愛い悪戯だ。

 だが、そもそもの前提が良くないことから始まったのだ。

 リフルが“帰りたい”と駄々を捏ねて、見張りを張り倒したから追われている。

 やったもん勝ちで得意げに走るリフルを先頭に、また妙な隊列ができた。

 山の方へ走っているのだが、どこへ行くかも当てはない。



 いや、行くべきところはある。

 帝国史上最も難攻不落なドメル子爵領の山城だ。

 高山地形特有の険しく環境も厳しい場はここ以外に、北域鎮台府しか存在しない。

 同じような高さにあり、同じ山脈にある子爵領。


 平地が少なく、傾斜の厳しい土地に棚田みたいなのを作って、作物を育てている。

 これは、カルスの発案ではじめられた新しい農法だ。

 まだ、実験段階に等しい。


 山城の規模は子爵の城というより、王侯に匹敵する。

 常備する兵は100未満だが、常駐できる兵力は万に対応できた。

 発注者は先の皇帝で、帝国が金を払っている。

 恐らくは、彼の避暑地も兼ねていたのだろう。


 山城へと通じる道はひとつ。

 脱出路は地下坑道を抜けさえすれれば、ふもとの里まで行くことができる。

 リフルはこの脱出路を、街まで買い物へ行くために日常的に使用していた。

 いや、その母親も同じことをしていたのだ。


 彼女リフルは、家に帰りたがっている。

「はい。っ分かりました。何とかしましょう、もう...」

 マルは締め付けていた腰帯を直し、お腹を摩りながら――缶バッジを皆に配る。

 みなの“ナニコレ”な表情かおが見なくても分かってしまう。

「それがボクのマーキングだから」

 告げると、転移門の構築に取り掛かる。

 追ってきた兵士たちの執念はあっぱれだ。

 が、その頑張りも虚しく終わる。

 彼らの目の前には、今、不透明で絶望的な高さを誇る、氷の壁が聳えていた。

 ラインベルク一家をぐるりと囲むように、それは築かれたものだ。

「もう、よい...行く先は分かっているのだ。これ以上追い詰める必要もない」

 と、見張りの兵を諫めたのは、宰相付きの騎士だ。

 兵士たちは、舌打ちや唾を吐きながらその場を後にする。



 ガラハット卿の仕事は、西に向かう事ではなく、帝国に敵対した国々への対処へと変容していた。

 先のサラトフ公国のような、勧告に応じない小国を、片端から叩き潰して回った。

 と、同時に将軍の名で敵味方を識別しているような、行動でもあった。


 その頃のラインベルクは、西ドニエプル王国の王都へ招かれていた。

 ハイランド王国の撃退での功労者という位置づけのようだ。

 西ドニエプル王とエセクター伯の間で、数十分ほど会話が行われているころ、ラインベルクとオウルは、城のバルコニーで体を夜風に当てていた。

 召喚されたのに何となく手持ち無沙汰なのだ。

 確かに豪勢な宴を開いてくれている。


 嵐の前の静けさのような、雰囲気ではある。

 生きた心地がしないというのもあった。

「まるっと置いてかれましたな...」

 オウル将軍も同じ気分だった。

 伯爵からは、『宰相がついに動いた』という怪文みたいな言伝をもらっていた。

 帝国の顔として今までも、文官のそれらしく動いていた――とは、何か違う動きなのだとしたら、ラインベルクの名代だとして名乗った、かわいらしい少女軍師の()()のことだろうと気が付くに至る。

 ただ、至ったところで彼には、何かができほどの力がないのだ。

「待たせたかな?」

 バルコニーから内向き、部屋との境にエセクター伯が立っていた。

 何となくだが、外向きの顔とも思えなくもない品性のある大貴族のそれがあった。

「なにか、いつもと違うような...」


「煩い、黙ってろ」

 微笑みながら怒るとは器用なことができる人だと、ラインベルクは苦笑してみせた。

 オウルから見ても、本当に怒っているようには見えなかった。

 口端、口角をややひきつらせながら。

「国王に謁見させてやるから、ふたりとも付いてこい」



 マルは、エルフ特有のショートカット転移をやってのける。

 まず、缶バッチを遠巻きで見守っていた、コバルド族の30名へ渡しに跳躍んだ。

 そして、彼らをそっくりドメル子爵領へ送り飛ばす。


 再び、同じ場所、三皇子家の人質さん御一行の下に顕現する。

 前もって、現当主の御母堂さまに『肌身離さずお持ちください』と、言伝おいたマーキングのお陰で見つけることも、跳躍させることも案外容易だった。

 しかも、宰相てきの目の前で、悠々と転移してみせた。


 子爵領の山城に到着した頃、御母堂さまから――「先ほどの中指のみを突き立て、宰相かれに見せたのは何の挨拶なのじゃ?」――と、問われマルは『な、なんでしょうね』なんて返答していた。

 少なくとも、意味の問題それではなく、相手を挑発する類のとは察している。

 だから、マルが説明に苦慮している様子を見て、優しく微笑んでいた。


「さて、と。これであたしらは、帝国の()認定は間違いないよな」

 エセクターが一息ついたところで口火を切った。

 リフルの方も双子を背負ったままで腕を組んでいる。

《元気な人たちだなあ》

 これが、マルの印象である。

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