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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-755話 姫巫女降し ㉝-

 オレンブルク地方、東方戦線は膠着していた。

 老い先短い皇帝の最後の行軍地でもあり、輝かしい勝利でも見せれれば彼の生涯、最も勇猛な勲章になったに違いない。が、帝国にその勢いはなくなっていた。

 現地のエルフと密約を交わして、彼らを使役しながら行軍する。

 東方戦線もほかの戦地と比して、変わらぬ戦場であった――敵対アルカイル王国には、武王アルタイルという戦士がいた。

 この武王の下には、丸耳褐色ダークエルフ族が参戦しており、エルフ同士の代理戦争に発展していた。


 この一進一退の中で、皇帝は崩御したのだ。



 オレンブルクの東方戦線では、仲介役たるエルフの長老が丸耳褐色エルフ族と、アルタイル王を交えて()()()()の調印まで事を進めてしまっていた――単なる休戦、あるいは一時的な停戦であれば、政治的判断を必要としないので、帝国宰相や国府に伺いを立てる必要はない。

 だが、帝国の上級将校たる大将軍は、長期におよぶであろう停戦で交渉をすすめ、これを取りまとめてしまったのである。

 この停戦の裏には、ハイランド王国の真横から攻撃を仕掛けるためにだ。

 大将軍ガラハット卿は、エセクター伯の文を一瞥して、腹を抱えた――「あの若者ばかものは、宰相からの使者が到着したと同時に“この冬は、骨身に染みるであろうから、毛皮を10万人分必要である”と送って寄越したそうな。まあ、それが嫌がらせだと分からん奴ではないのに...あんな距離的に近い奴が、時間を稼いだのだ、これなら少しは答えてやりたいものだな」

 と、つぶやくと。

 傍に控える副官も微笑みながら「是非もありませんね」と、続いた。

「いや、まさか交渉事をすべてエルフに委ねるとは思わなかったが...」

 彼の目は、にっこりと笑みを浮かべる好々爺然とする、エルフの長老に向けられた。

「今一度、誰の遣いでこられたか?」


「誰でもありません、伯爵の御使いにございます」

 エセクター伯にエルフという、つながりが薄い。

 魔法士を束ねる長だから、付き合いが全く無いと言う分けでもないだろうが。

 それでも、エルフを里から戦場そとへでも、遣わすという間柄には見えなかった。

 どちらかというと、逆転した主従関係に近いだろう。

「それで、武王はなんと?」

 停戦の条件だ。

 おそらくは一時的なものだと思っていた。

「治癒士の方々の手を、借りたいのだと言っておられました」


「治癒士の?! それは」

 老人は額をはたき――

「戦死こそ少ないものの、けが人が多く薬だけでは間に合わないと...零されておりましたから、治癒士の御力にて()()を賜りたいとの仰せです。そして願わくば、互いの健闘を祈るとのことです」


「いや、それは殊勝だと思うが?!」


「...ふ、彼らはいい()()できたと大変満足されておりました。知略を尽くして、ただひたすらに殴りあえたと。ま、その過程でけが人が多いので、卿の部下の手でチャラに...と願い出ております」

 武闘派という肩書は伊達ではなかった、というあたりだ。

 国王がそういうタイプだと、兵士たちもだいぶドライなものの考え方に染まっている。

 長老は――「そうそう、期限でしたな」

 と、思い出してくれる。


「これは戦後処理です...悟られないよう、早々に軍を動かしなされ」

 悟られるというのは、帝都にある宰相にだ。

 戦地に出ているが、ラインベルクがなかなか死なないと見なされれば、彼の立場では宰相の発行する命令書には逆らえなくなる。これでは、守るべき対象者に恨まれる可能性が高い。

 エセクター伯は、四方の将軍たちを動かすのに“リフル皇女”殿下の名を持ち出していた。

 長老を通じて、マルの見立てが届けられているからだ。

「あい、分かった! 全軍、西へ転進する!!」



 バディン戦線のシヴァ卿は、動いていない。

 彼女の持ち場は依然として、この地だ――が、交渉を秘密裏に行っていないわけではない。

 エルフの長老ほどに手際の良いものではない。

 3年間の膠着状態こそ、帝国宰相の目を欺くための芝居でもあった。

 シヴァの下に敵国の将軍が招かてある。

 商人と客のような姿で対峙し、卓上に広げられた宝石をひとつひとつ吟味している。

「真面目に聞くが、宝石これらを見て癒されるものか?」

 やや訝しむように問う。

 返すシヴァもジト目で見返しながら、

「光るものは好物だ」


「食べ物ではないぞ?!」


「わかっておる! 失敬だぞ、私も()だという話だ。こうやって、光にかざしながら、指に当てたり、耳を飾り立てたり、胸を強調させるのに何がよいものかと見るのは大好きだ...と、言っておるのだ」

 この3年間で行商として訪れたのは数えるほどである。

 その中で、絹織物や宝石、観賞植物などが多かったと振り返った。

「ふむ、よろしい思い出しておるな」


「だが、解せぬことがある」

 またか――と。

「もう我が国と貴殿らは敵同士ではないはず...なぜ、軍を退かせぬのだ?」

 それぞれの方面で帝国の行く末を案じて、足踏みしていたところだ。

 それは、宰相がいつ動くかというのを起点にしているからだ。

 第六皇子も自らが反逆者になるのは避けたい。

 次期皇帝が簒奪者では、格好がつかないからだ。


 要するに誰もかれもが、メンツにこだわっていた。

 市民に祝福されないのでは誰もついてこない――大義が必要なのだ。

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