-32話 封印-
イベント・ストーリーを進ませると、集団戦を解禁させるキーが発生する。
このイベントも、それまでの手法のようにキーが発生した。
最速はやはり“国境なき傭兵団”らである。
イベント・ストーリー攻略組は、以前に設けられた難易度を難なく看破して先を進んでいる。
ストーリーの中盤になると、勇者NPCと邂逅するシーンに到達する。
ここら辺がこのイベントの胸が躍るところだ。
『――この先に天を黒く染め、地を焼いた魔竜・バハムートがいる。これを討滅して――』
という勇者の説明を聞いていた誰もが耳を疑った。
「た、隊長?!」
『聞いてませんよ、こんな件は』と皆が口々に叫ぶ。
ストーリーは、概ね攻略サイトから拝読して謎を解き、挑んできた。が、その際にも差分程度の誤差やズレが見受けられたものの、僅かなものだったので気にはしなかった。しかし、以前の流れは王都奪還へ向かうのではなかったろうかと。
「私も知らん!」
◆
王都を見据える形で、各地や浮遊する島々でレイド戦が展開していた。
その殆どが傭兵団の解放による。
地上の集団戦は、魔物たちが多い。
魔王軍との関係性は低かったが、その戦いの合間に、勇者NPCらの姿が目撃されている。
アニメの主人公という顔意外にもゲーム内では、そこそこの美形から腐女子にも愛された。
幼い印象というより、かわいい男の子という印象だろう。
母性を擽られた感じだ。
さて、この目撃情報から王城側も騒がしくなる。
「勇者はひとりだけか?」
国王は、兵士に尋ねる。
尋ねられた兵士は『は?』と間抜けな応答をした。
「勇者は、」
「御一行の方々のことで...」
「違う! 勇者だ、少年でも少女でも見た目が変わって分からんだろうが」
と、余計な事まで口走った感はあったが。
『剣士は一人だけか?』と言い直している。
「王城の南塔の賊と、巷の騒動の中で剣士が確認されておりますが?」
彼は不安そうに王を見上げている。
「それを早く言わんか...」
「封印が解けたか、女王の帰還とともに」
肩を落として、虚ろな瞳になる。
「賢者を呼べ」
と、発したまま王は、玉座から転げ落ちている。
◆
「第一段列、タワーシールドを掲げて敵の攻撃を凌げ!」
横一文字に並んだ兵士の後ろに、中隊長を名乗る騎士が仲間の背中越しから命令を発する。
眼前のエネミーは、中規模な天使の形をした魔物だ。
右手に戦槌を掲げ、左手に宝玉を持っている。
宝玉は、シールドの役目と考えられた。
「第二段列! タンクのタゲを奪うなよ~」
中隊長が注意喚起したつもりだったが、皆の緊張がほぐれる笑いを誘った。
「高位魔法よーい! 地獄の炎発動!!」
中隊長の声がバカでかすぎた。
第一段列の連中が、光衝撃を発しているにも関わらず天使のTAGが彼にセットされるという、おっちょこちょいが発動した。
「隊長のバカー!」
「第三段列! あのバカ中隊長を守ってやるぞ...」
「対抗障壁よーい、魔法城壁!!」
タゲの不安定さはさておき、傭兵団の防壁はなかなかの厚みを増していた。
遊撃として左右から騎兵が槍や剣で天使を襲い、中段列の魔法詠唱者らが闇属性魔法を叩き込むという連携だ。
斥候らが、スキルを駆使して天使のHPを解析。
その桁が3本あることが判明した。
「3本?! 3本だと!」
後方の司令部に詰めるカーマイケルは少し青ざめた。
投入している2個大隊でも厳しい雰囲気だからだ。
「数を捌けなくなるが、早々に撤退させる訳にもいかん。あと1個大隊を投入して様子を見る!」
予備兵力が早くも怪しくなってきた。
天使級1体につき3本では攻略は厳しい。
その上、天使の翼はまだ1対のみのタイプだ。
「まだ、他にも2対のタイプもいるんだぞ」
「総長代理殿...」
「なんだ?」
項垂れた重い背中をゆっくり引きあげて、戸口の方へ視線を向ける。
天幕の入り口から注がれた陽の光で、人影が浮き上がっている。
それは、カーマイケルにとって懐かしい顔との再会だった。
「――グエン、グエンか?!」




