-31話 それぞれの勇者たち-
勇者とその一行というテーマのアニメやゲームが多かった時代がある。
いや、年代といった方がいいだろう。
日本には、元号があるので1世紀の間にいくつもの時代を数えてしまうからだ。
さて、その年代の勇者さま御一行のベースは、啓示を受けた人間の少年・少女が方々を旅して廻り精神的にも、肉体的にも成長する。そうして最終到達点である魔王を討伐して帰還までが一連の流れだ。
ハイファンタジー・オンラインも、各メディアでアニメが放送された際は、今までのスタイルを踏襲した。
これが一番、分かり易かったからだ。
ゲーム内のイベントでも、その分かり易いという理由で、勇者とその一行はNPCとして他のプレイヤーと共に天上宮の女王・エリザベータを目指したのだ。
ただし、ゲーム内とアニメのラストはちょっと違う。
アニメでは、多くの冒険者と共に勇者は、天上宮の主人の目の前に立ち、決戦を挑み撃ち滅ぼしている。それは爽快で興奮するシーンだったと、今も語られる。しかし、ゲーム側の方は壮絶だったらしい。
最終到達ラインにあったクランは、海外勢で20も満たない状態。
日本やアジアではその半分もなく淘汰された。
あまりにも難易度が高すぎて、ゲームプレイが成立しなかった節がある。
結果的には、討滅ではなく封印だけに留まった。
いや、一応のラストを迎えられるように公式がそうそう仕向けたのだ。
だから、誰しもがその時は思っていた。
このイベントは帰ってくると――。
◆
マルが宿屋の自室からでなくなって半日。
ベック・パパが心配になって部屋の前で正座して6時間とちょっとの頃。
街中では、イベント・ストーリーが方々で発生していた。
ポップするイベントクエストの類は、難易度設定ができるよう配慮されてある。以前の轍を踏まない仕様追加だ。
これは素直に有難い。
夜桜衆は情報収集のために、このイベントの実態を捜索していた。
その際には、国境なき傭兵団の一団とも遭遇している。
彼らの装備は異常だった。
傭兵団が言うところの1個大隊には、フルプレートメイルっぽい魔法使いがあった。
おそらく、マジックアイテムの大量生産をして、スキル強化以外にも付与された強化魔法が部隊全体を強めるのだと理解できた。
たかがイベントにとも思ったが、それだけ経験者にはリベンジへの強い意欲があるのだ。
これは、その当時に参加しなかった者にはない意志力だ。
だが、仮に参加していたらと考えると――『私の性格じゃあ、そこまで熱くなれないわ』と、呟いている。
「情報収集、お疲れさん」
ルーカスがロビーのテーブルに温かい“おしぼり”を用意して待っていた。
おしぼりは手渡しで、ひとりひとりの忍者に声をかけていた。別段、特別な誰かにという意思は無い。
受け取った女子の反応は様々に違ったが、ルーカスのイケメンっぷりの株は上がったようだ。
「???」
“ザボンの騎士”内でも、ルーカス株は急上昇して下降する気配はない。
ベック株は乱高下が激しい――理由は、マルの登場で大きく評価が分かれている。それ以前は、どうにも頼りないリーダーという雰囲気だった。クランの勧誘はルーカス任せだが、ルーカスの男っぷりを想像して皆が過度の期待をベックに向けた。
このギャップが皆を『しょうがない俺たちで何とかするか』という方向性に動かしていた。
が、マルの登場によって一片。
ベック・パパの誕生だ。
基本的には、愛娘を害虫から守る強いお父さん、否、うざいお父さんがベースにある。
しかし、本来のリーダー的要素がついに発揮されようとしている。
――ような雰囲気も時々ある。
これが乱高下の正体だ。
「...レイド戦では、傭兵団が一抜けするかも」
お菊さんは傭兵団まわりの情報を掴んできた。
「カーマイケルの奴、恐ろしく気合が入ってるね」
「投入規模までは?」
国境なき傭兵団は最大で4つのクランを保持している。
3つは戦闘主体に暖簾分けをし、非戦闘に1つ持っている。単に大所帯という訳ではなく、目的に合わせた意志の統制のために組み分けされている。1stと呼ばれる総長以下百名が在籍するクランは、攻略御という位置づけだ。
既に、いくつかの固有スキルを作り出しているという噂もある。
「見た感じ、クラン2個分の全力って感じじゃないかな?」
「1stと2ndも?」
「いや、戦力として平均を底上げしてという見方だ。個人戦闘力が、ズバ抜けてる連中ばかりじゃ偏った時が面倒だしな...」
「あー。うーん、我々ではその偏りも調整できそうにないですね」
デコボコは個性があっていい響きだが、こういう集団戦においては平均以下になる場合がある。
環境に合わせた強化プランや、戦い方がある。
弱点は、なるべく目立たない方がいい。
「こっちの弱点は?」
「ベックかなー」
ルーカスが宙を仰ぐ。
マルに危険が訪れた時、どんな反応を示すかが怖い。
今はまだじゃれてていいが。




