-30話 少年と剣士-
マルは、お菊さんとその仲間たちに呼び出されていた。
ちっこい子と大人のお姉さん方という構図だ。
囲まれて、上からまじまじと見られている。
短髪の髪を指で絡められて、そのサラッとした質感や2本のアホ毛を弄られる。
「あ、あのー?」
不安そうに見上げ、お菊さんが悪戯っぽく微笑む。
「あなたが何の変獣者か分からないけど...」
お菊さんの手は、マルのミニスカートの裾にあった。
ふわっと捲られ『にゃー』って変な声を発して、マルは座り込んでいる。
「まあ、インナーが丸見えで動けなくなるようじゃ忍者は無理よ!」
これは悪戯だ。
忍者装束には、ちゃんと短パンもある。
が、それ以前に装束を捲ってくるような友人・知人がマルには居なかった。
かつて、魔王軍では怖れられた魔法詠唱者であり、こんなにフレンドリーに接してくれようとは。
今が、なんとなく充実してて楽しい。
「あんた、もともと何の職よ?」
「魔法...」
「じゃ、魔法詠唱者でこのイベント乗り切りな! てか、得意な職業で挑まないと、イベント中何回も脱出させられるかもよ」
最後のトーンは冗談が抜けていた。
確かにマルのインナーは柄ものパンツだ。
課金アイテムと交換して手に入れたお気に入りで、その種類ばかり交換している。
結局、ブラジャーまで手が回らなくなってシャツしか着ていない。
まー本人もがっかりなぺたん子なので、シャツで擦れるとか、悪目立ちするとか気にしなければ――まあ、別段、問題は無かった。ただし、ベック・パパの過保護さえどうにかなれば尚、良しといったところか。
彼は、マルがノーブラだと知ってからは、オスの視線が愛娘の胸元に行かない様、ブロックするウザい行動に走っている。
「もう、ローブ着てるから大丈夫だよ~」
マルのローブ姿は、珍しい。
初心者支援プログラムで指導官以来の姿になる。
流石にフードまで被ると、光って見えるのは紅い瞳だけになる。
これはちょっと怖い。
「うむ! お父さんもちょっと安心」
「もう、パパったらー」
仲のいいタダの親子だ。
◆
騎士6人のうち、4人は村を出たすぐ先の森で絶命し、残りのふたりも重症だ。
従者3人は、応援を呼びに走ってこの場には居ない。
「っう...」
「大丈夫か?!」
気を失いかけた仲間に声を掛けた。
「ああ、肩から下の感覚が冷たくてな」
「その腕はもう、死んでいる」
ゆらっと立つ少年の目は冷たいものだった。
「3年、静かに暮らしてたのに...」
「この15を何事も無く乗り切れれば――」
「お前たち...来たせいで...来た? ...いや、どこから」
少年の声が震える。
紫と黒の靄が少年から染み出してきた。
尋常ならざる悪寒、重圧に殺気が放たれる。
小剣が異常な形の大剣に変わり、少女っぽい雰囲気のあった少年が青年に変わっていた。
「変獣者か?!」
騎士の首が飛ぶ。
「?!」
動きが早すぎてではなく、飛んで転がっていく首と揺らめく蜃気楼の向こう側から、こちら側に会話を続ける仲間の姿があったからだ。
「こ、これは」
「あっはー、残念だったなー賢者の奴ら! てか、俺を閉じ込めた娘も...はっ、無駄死にじゃねえか!!」
雰囲気が確かに違う。
長髪で、髪はボサボサであり寝ぐせの類もありそうだ。
身体は成長して剣士という雰囲気だが。
「っおいおい、胸あるぞ? 賢者の奴ら魂を抜きやがったのか!?」
「なあ、女王、生きてっか?」
剣士の問いに騎士は、目を白黒させている。
意味がよく分からない。
「っち、トロいなー。エリザベータの婆さんだよ!」
悪魔っぽい雰囲気だ。
いや、天上宮の主と同じ雰囲気だろう。
騎士は、咄嗟に空を見上げている。
「あー、はいはい。そこか、んじゃ、勇者さまのご帰還って教えてこねえとなー」
「なあ、騎士さんよー」
転がってる首を蹴り飛ばし、その対で膝を屈した躯にも声を掛けている。
「あー、やっべ...こいつもう死んでんだな。わりぃーな...」




