-380話 エルザン統一戦争 ①-
何だかんだと季節が移り替わり、また、温かい季節がやってきた。
マラディン州の獣王街には、多くの“たまねぎ”ちゃんが歩いている。
通称“たまねぎ”ちゃんは、ゴーレムのことだ。頭がタマネギに似ていることから何故か、製作者の意図に反して、皆が“たまねぎ”ちゃんと呼ぶようになった。
スライム頭のゴーレムのことである。
製作者、マル――魔法少女マル・コメと名乗る外見年齢17、8歳の女の子である――1週間だけ真面目に生産し、翌週の7日間はメグミさん(仮2)と大いにイチャイチャする日々を過ごした。
彼女の充実した日々がついに、半年ほど過ぎた頃合いだ。
恐らく、異世界に迷い込んできて、帰るあてもこの先のことも考えることなく無為に、過ごしてきたこの半年で成し遂げたことといえば、“たまねぎ”ちゃんの大量生産と大量配備だろう。
その数、約450体。
少ないか?いや、ゴーレムだ...魔法生物にして屈強、頑強の折り紙付きである彼らが450体もいることを過小評価するわけにはいかない。死ぬという概念がなく、痛みなどで戦意が硬化することもない。まさに理想的な兵士である。
また、ゴーレム一体当たりの兵力換算は100人以上であるから、ざっと、45000人の歩兵力と同じような規模を誇ることができる。
さて、この街にはもうひとり、ぐうたらな娘がいる。
ゴーレム製作で一応面目を保っていた、マルと比較すると実に無気力な娘がだ。
彼女は、エサ子――この半年、気が抜けた風船みたいにぐったりしていた。
当然、彼女は何もしていない。
カボチャみたいなサロペット(オーバーオールと同義)を履いたまま、床暖房の利いた変な台座の上に両足を投げ出して“ぼー”っと座り込んでいた。
何が原因で気が抜けているのは不明なほど、ぼーっとしていた。
覚醒の瞬間、丁度とでもいうか5月21日を迎えるその日、彼女は漸く重い腰を浮かせ、見事にバランスを崩して台座から転がって落ちた。
エサ子、痛恨のミス。
時折、なんの前触れもなく発狂するように上下に揺れることがあった。
近くの星読みの魔女は、知り合いの蟲師という祓い屋を紹介し、彼女を蟲という妖精を用いて診断する。が、やはり原因不明だといった――いや、理由はわからないが、何か波長めいたものとリンクしている可能性を告げたのだ。
それが作用して気の抜けた、彼女の体が勝手に動いていると。
では、中身のエサ子はどこへ?
台座から転げ落ちたエサ子は、尺取虫のような動きで温室から這い出ることに成功する。
屋敷のダイニングでは、槍使い(女の子)がケーキを用意している。
この場合、大好きなメロンパンの方がよかったのではと自問自答を繰り返していた。
製作者は、パン屋を開いているニーズヘッグである。
さすがに彼の工房で焼かれたパンの匂いに誘われた住人たちが、連日に押し寄せてきて不覚にも、大盛況で行列のできる有名店になってしまった――屋号“黄金龍のあしあと亭”なんて定めた。
商売する気満々だった。
「あ~ね~う~ぇ~...」
もぞもぞ張って進むエサ子が鳴いている。
「あ´~ね´~う´~ぇ~...」
地獄の窯でも開いたのかと思えるような、昏き底からの声に聞こえる。
当然、這うのが疲れたので、甘えん坊な声で鳴いているだけである。
久しぶりに聞く妹分の声が、ハスキーボイスだったこと。
リビングでお祝い事の準備をしていた、槍使い(女の子)は警戒を強めてあたりを伺う。
「ま、まさか...獣王街に...ゾンビ?!」
恐る恐る、アイランドキッチンの周囲を見て回る。
しかし、不審者の姿はない。
しばらくすると、剣士が“エサ子が温室からいなくなった”と告げに来た。
その道すがらに変な声を発するカーペットを踏む。
ゆっくりと眼下に視線を落とすと、そこには踏まれて気絶した少女がいた。
◆
「5月21日に覚醒なんて無意識でも、すごいことじゃない?」
槍使いが、蝋燭の火を消すよう促している。
ぎこちない動きのエサ子は、覚醒からここまでの蓄積ダメージによって、常人では計り知れないほど動きが鈍くなっているためだ。
もっとも其れだけではないが。
「メロンパン...」
「好物だもんね!」
ニーズヘッグへ目配せをすると、彼が紙袋をエサ子に渡す。
かつての世界での誕生日は、祝うものではなかった。
12歳で戦士の為の通過儀礼を受ける。
14歳で道を選ぶ――得意とする職の選択と、生き方をだ。
15歳になった王族の娘は、貴族の前で品定めされる――所謂、婿探しであり嫁探しだ。
エサ子こと、貪欲は、12歳で負傷した父の代わりに戦場に立った。
獣王の娘、ここにあり。
それは、すぐさま頭角を現し、守役であるニーズヘッグを驚かせた。
以来、何かの儀式を吹っ飛ばし戦闘狂として、借りた身体とともに15歳の誕生日を迎えたのだ。
「メロ~ンパ~ン♪」
ややご機嫌となる。
「しかし...今まで何で、ふさぎ込んでたんだ?」
剣士の問いに答えは聞けないものと思っていた。
が、エサ子は――北天にある不思議な巫女さんと、心を通わせてた――と、告げたのだ。
誕生会に出席している者には、理解不能だった。
「それって...」
「マルちゃんも繋がったことあるって...」
「そう、それね」
思い当たることがある。
それ以降のチャンネルは開かなかった。
おそらく、エサ子のほうがフィーリングが有ったということなのだろう。
「それって時々、小悪魔みたいな性的な悪戯する、エサ子って実は無垢なとこがあるってことか!」
と、剣士が口を開く。
当然、場の空気は最悪になった。
招待客のマル・コメは不機嫌になるし、(当人はチャンネルが開かなかったことに違和感はなかった。しかし、剣士の言を借りれば...自分は無垢ではないということに...)お付きで祝っていた、メグミさん(仮2)も三白眼となって睨んでいた。
「あ、あれ?」
「兄上って、相変わらずなんですね」
「剣士君はク〇ニでも、自分勝手に進めるクチだからね...本当に何もわかってないの」
一堂の視線が痛い。
「ちな、北天ってどこ?」
マルが問う。
「あ、えっと...東の果てにあるという国です。国土は、帝国に次ぐ大きさだといいますが...」
女騎士も招待されていた。
マルが生産してた、小さい“たまねぎ”ちゃんゴーレムをプレゼントとした。
このゴーレムは、小さい形だが、アイ〇や〇ンバみたいに、掃除から話相手までこなす高性能が売りだ。
「たしか...帝室に姫巫女が有られたようですが...」
「その巫女さん、身体は魔法使いに拘束されて...」
俯くエサ子の視線は、気怠そうな雰囲気が見て取れる。
今までの覇気は潜めているように思えた。
「フレズベルグとモーリアンがいれば良かったのだが...」
ニーズヘッグの唐突なセリフにエサ子が反応する。
も、なぜか自らの胸を触っていた。
「どうしたの?」
槍使い(女の子)が問う。
「あ、えっと...ブラしてると思って。ボク、スポブラだったような...」
ああ、それか適な声が卓上に漏れる。
吐き出したのは、やはり剣士だった。
「勿論、俺にとっても妹分だし...真っ正面から眺めるなんて下種なことはしない。だから、背面から腕を伸ばして、下乳をちょっと持ち上げて採寸したんだ。俺の見立ては正確だし誤差は、コンマ数センチだしね」
ウインクをする。
「で、俺は思ったわけよ...エサ子の将来を鑑みてだ。スポブラは卒業すべきだってね!! で、ここ2か月間採寸した結果! 喜べっ、Bカップの条件をクリアしたぞ!!」
と、自慢げに高笑いしている。
再び、凍り付くような場の空気になっている事を、剣士は知らない。
部屋の隅で轟沈している剣士を他所に――『お二人はどうしたので?』と、槍使いが訪ねる。
確かにエサ子が、トリップした後、師匠であるモーリアンから暫く留守にすると打ち明けられたような気がした。その時は、多くを質問しなかったが確かにここ半年、彼ら二人を見ていない。
「人生2度目の結婚...まあ、寄りを戻したらしいが...旅行に行って帰ってきてない。マラディン州の領主殿が気を回しつくして、当分帰ってこないので...」
窓の外で、行き交うゴーレムを見る。
“たまねぎ”ちゃんの雄姿が方々で見れた。
「あれが、儂たちの戦力になる」




