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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-378話 皇女殿下、救出作戦 ⑤-

 ノービスの救出の際、チェーザレの目は赤く光り、肩で息遣いながら湧き上がる欲求を抑え込んで応対した。彼の持つサキュバスのメス化スキルは、妖魔特有のフォルモンが分泌される。

 これの分泌香の性能は、サキュバスが対象ロックオンとする老若男女にのみ篭絡するもの。

 ノービスの足枷、手枷を外す際にチェーザレが密着してくると、彼から甘い香りがしみ込んできた。

 これに似た物でいえば、魅了チャームの魔法だろう。

 ノービスの肩越しに見えるチェーザレが、艶のある女性に見える。

 いや、普段から外見的にチェーザレは、女性である。とても股間に、()を隠し持っているなんて思えないほど、女性のように見える。言動が男らしく、立ち振る舞いも威勢のいい雰囲気ではあるが。


 ふたりの怪しい雰囲気をぶち壊したのが、ベスだ。

 奴婢裁判所マーケットの端に、奴婢出荷場という区域がある。

 広場からは100メートル位離れたところだろうか。直線では無理だが、身体の小さなベスにとっては、持ち前の器用さと、運動能力を駆使して脱兎のごとく走ってきた。

 その勢いと形相は、ユニークスキル漬けでぶっとんでいた、ふたりには夢のなかの出来事にしか思えないものだった。

 ゆらゆら動く世界...霞が掛かったような気怠さ。


...ごちぃんっ!!


 凄まじい火花が散った。

 ベス渾身の猪突風体当たり。

 サキュバスと化して、背中から蝙蝠のような翼を出していたチェーザレが、豪快に吹き飛んでいった。

 ノービスは泥酔に似た状態だった。


「見境ない!」

 吹き飛ばされたチェーザレに指さすベスがある。

 身体のあちこちを殴打しながら転がった、彼に反論する気力はない。

「それに...」

 振り返ると、ノービスも伸びている。

 が、ベスは咄嗟にチェーザレの方へ向きを変えていた。

「...いたた...」


「...」


「どうした?」


「何でもない」

 ベスは眉を吊り上げながら、ひとりで港まで歩いていく。

 額を押さえ、手のひらを見る――『ありゃ、出血?』。



 船は、逃げるように地中海の沖へ。

 マルタ島からの追手は来ないようだ。

「船長がメス化ですか...髪の毛焼かれて、短くなって...いやーいい妖艶かおしてたんでしょうね」

 一等航海士のおっさんが舵を握る。

 舵輪の意匠は、南洋王国の彫刻家に無理を言って創作してもらった一品ものだ。

 新しい船を造っても、この舵輪だけは変えずに一生の宝として乗せ換えるだろう。

 曰くはないが、船長を拝命した折に記念として作って貰ったものという話だ。


「で、何処へ寄りますか?」

 船に張られた帆は“白”を用いていた。

 この海域は海賊でいるより、商船を装っていた方が襲撃の可能性が低い。

「そうだな...かなり西に流された。交易品の詰め替えも兼ねると、もう少しまともな港に寄っておきたい。医薬品は必需品だろうし...」


「海図的には、フォッジア侯国のクロトネが良さそうですね...」

 と、言うのは一等航海士のおっさんが、前の船で立ち寄ったことがあるからだ。

 その折に、知己を得たと言っていた。

「ところで、皇女さまの救出依頼ってどこから?」

 ベスが仕事に口を挟んできた。

 漸く、熱心に孝行してくれる気配になったのかとチェーザレは安堵したが、彼女は“ソフト泡クリーム”を食べながら、単に話題つくりで言葉にしていた。

 目下、彼女の関心はすべて“ソフト泡クリーム”によって占領されている。


「...くっ」


「話題つくりでも、言葉にしたことは一歩前進と捉えようぜ...船長」

 医務室を経て、ノービスが甲板に上がってきた。

 ベスは、彼を一瞥しただけで頬を赤く染め、そっぽを向いた。

「ありゃ? 嫌われたかな...俺」


「いや、そうじゃないと思うが...まあ、思春期の子の葛藤だろうよ...」

 流石に大人のアレを直視した後では、顔を思い出すだけで肉巻きが脳裏を過るだろう。

 気まずくて当然と、チェーザレは承知している。

「皇女と皇子だが、優先条件がある。絶対に救出せねばならないのは、皇女殿下だ。あとの事は無視していいという...まあ、もっとも皇女殿下という旗頭を失ったイズーガルドに、徹底抗戦が出来るほどの気力があるとも思えん。礎石を抜いた城は、早晩に崩れるだろうと予測が付く...」


「と、いうと? 帝国か或いは、衛星国の誰かに寄る謀略という事ですか?」

 ノービスが神妙な面持ちで問う。

 答えは期待していない。

「いや、反帝国同盟・現盟主国の北天からの依頼。彼らにとっては、盟友の国が帝国の爪で脅かされるよりも、帝国の歯牙より庇護を求めてきた、亡国の皇女という御旗の方が反帝国を掲げるのに格好の材料がないと思っているという事なのだろう」


「だが...」

 一等航海士のおっさんが呟く。


「だが、遠すぎる...」

 ノービスも続く。

 チェーザレは微笑み。

「そう、遠すぎる。立地的に帝国の主力が東の果てに向くことは、今のところ考えにくい。東にある帝国の衛星国は、単に防壁という役目以外に期待されず、放置気味と聞くし。イズーガルドに鉄槌を加えたあとは、本格的な地中海進出を狙うだろう」


「あたしたちの海が汚される」

 泡クリームを白い髭ののように、口の周りいっぱいに付けたベスが叫ぶ。

 彼女にも海で育った自負がある。

「ああ、俺たちの自由を奪いにくいる」


「だが、任務として...俺たちが出来ることはないぜ...救出しないってんなら」

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