- C 824話 皇太后の戦い 4 -
王都で最初の戦闘は、後宮軍と城州府軍の衝突からだ。
王城から打って出ることは無い。
仮にそんな数百程度の兵が飛び出してきても、焼け石に水だった可能性も。
なにせ。
後宮軍の敷いた1枚目の横列が速攻で溶けたからだ。
兵数は3万以上。
厚みは横列の組が、盤上の道幅一杯までで4組あって。
ひと組で約500人ほどが隊となっていた。
故に、横列が2千。さらに奥へもう2隊分――6千の横陣。
その後ろには縦に厚くなった隊が構えた布陣。
皇太后の本陣はやや後ろ寄りの構えだった。
「溶けるの早っ!!?」
城壁の縁からこっそり覗いてた寧懿がある。
心の声も、驚きのあまり口に出てた。
ま、一緒に城壁へ上がった副官も似た心境だ。
「あれっ...、て?」
「宦官兵が当たったのでは無いのでしょう」
那岐が市中に潜伏させてた、子飼いの兵といったところだろう。
少なくとも、両軍にとっての衝撃的な溶け具合は、ごく一部のようだ。
そのごく一部でも、戦績は戦績だし。
隣の活躍を見て「俺にも出来るんじゃ?」と錯覚させることは十分に可能だ。
地力では分が悪いけど。
「景気付けって、あれ?」
「寧景さまの鼓舞ですよ、あれでスイッチが入る者と...そうでない者があるように。っすー、後宮軍には陸軍と海軍からいい将が選抜されていますが、ことエリート意識が抜けきれていません。衝突する直前まで、奢ってたから」
副官からの有難い甘言に耳を傾ける、寧懿。
陽だまりの猫のようにころっと...
寝転がりそうになった。
いかん、いかん...作戦行動中だった。
自制心が勝る瞬間。
ただバツが悪かったようで、頬が赤い。
「じゃ、さ。じゃあさ、私たちだったら?」
城壁の縁にへばりつく私兵を見渡す。
寧懿とともに家長にしごかれた、戦友たちに向ける――わくわくな表情。
「寧懿と同じく、我々はそうですなあ、愉しむでしょうなあ。寧懿さまは如何です?」
両手で顔を覆って、デレを見せ。
恥ずかしそうに、
「私も、愉しんじゃう!!」
城壁って壁で隔てた、ふたつの世界。
王城側の方は守戦なんだけど、どこか及び腰な雰囲気があって――寧懿いわく、戦えば負けると見ている。市中で挙がった河州王府の旗は未だ遠く、1万にという兵にではなく、女王の兄に包囲されたことによる精神攻撃は、肉体にも影響を与えると軍医の見立てでもある。
癇癪で反乱している兄ってイメージから。
脱却した、いあ脱皮かも。
「タネを知ってるから、いまいち王宮勢力に肩入れしなくなってる...そんなとこかな?」
城壁の外では楽しそうな玉砕戦がある。
城を枕に守戦で没するよりも、多少は楽しめそうな。
いあ、激しく燃やした命だ。
もっと楽しいはずである。
「女王は急性で倒れ、御隠れになられた――そんな事実、ただの減点でしかありませんし。この2年間の執政が、双子の河州王君で行われてたのも...逆効果です。寧景さまから事前に知らされてた我々でも」
心に小さな孔がある。
空いたような気がする小さな孔だ。
これを空しさといふ。




