- C 806話 鬼将 河州王の野望 6 -
マーカスから脱出するには、
正規のルートである港湾施設から堂々と出る方法と、密かに荷物として密航する2通りしかない。啄木鳥の治安向上策によって、他の浮島よりも警備レベルがより1段、いあ2段は高い域に達していたからだ。
前者の堂々とは。
ふたり増えた同行者の、正統なる理由を用意しなければならない。
少なくとも、浮島のとくに学園の学生管理局なる部分と、中央の偉い人の許可が必要になるだろう。
さて、そんなツテもないアテもないのは百も承知で。
「黒蜘蛛をカバンに押し込めば、一人分の枠は確保できると思うのですが」
なんて、本気の本気、真顔で言う不知火に対し。
雲雀と啄木鳥は本気で引いた。
「あ、あなた。雀ちゃんを何だと?」
「ま、コンパクトな荷物でしょうか」
一流のスパイが考えている思考は分からない。
いあ。
甲蛾衆だって、そのひとりひとりはかなり優秀な諜報員である。
その彼らをしても脱出で気なのだから。
「ボクをそこら辺の枕と同義か?!」
偉くなったものだなと。
やり合ってはみたけども――状況が好転するとは思えない。
「ダメですか」
マジで荷物扱いするつもりだった。
ま、ひとり枠があいたとしても。
「もう一人はどうしようもないぞ?」
下手な嘘では、関係各所への根回しが必要で。
かつ緊密な連携と、アップデートが必要になるからだが。
恐らくは、そうした手でスパイが炙り出されてきたのだろう。
無線封鎖、外界とのシャットダウン、不定期連絡船もない。
必要があれば、マーカスから高速艇が出る仕組みだし。
ま。
自給自足が出来る時点で、小さな世界の成立だ。
しかも、マーカスには国家機能さえある。
自治政府みたいなより簡易的なシステムではあるが。
王都が陥落した時のバックアップというものだ。
「じゃ、二つ目ですが?」
「ああ、うん」
不知火に担がれてるズタ袋みたいな、
黒蜘蛛が目を細くして...
「今、こうして盛大に追われてる状況かな?」
ひとりが大きな騒ぎを起こす。
それこそ飛び切り盛大な打ち上げ花火をだ。
これで3人は顔パスで、島から叩き出されるはずだった――「故に、なぜ逃げなかった。いや、なぜ、脱出せずに戻ってきたんだ!?」――と涙目の暗殺者がある。
死ぬ気はない。
逃げ切れる自信はある。
それでも、不安はあった。
虚弱体質な不知火は彼女の尻を揉む。
「いつもなら、背中を丸めて本気怒るじゃないですか。それが震えてる...ま、そういう事です!! 甲蛾衆のふたりにも諭されまして、結局、皆で逃げなきゃ作戦成功じゃないって事です」
みっともないけど。
涙と鼻水が同時に駄々洩れてる。
ずび~ってすすってるんだけど、ぜんぜん吸いこめない時があるようで。
「あの精巧な航空写真があるなら大丈夫ですよ!!」
「そうです! 生きましょう」
背を押されたような珍妙なパーティ。
みんな、ありがとう。
黒蜘蛛の心は少し暖かくなった。
ま、追手の脚は大分早いんだけどね。




