- C 474話 いざ、外洋へ 8 -
聖櫃騎士団の技術は、オーパーツレベルだ。
今、この時の人々では考えもしないような、技術で――いや、そんなに難しいことじゃなかった。
彼らがやらかしたのは、下劣な方法。
ドラゴンの幼生体をあらかじめ捕縛して、四方に飛ばしただけ。
鳴く子に親が助けに行かないわけがない。
知性があろうと無かろうとも、だ。
灼熱のスルトの目を盗み、掠め取った幼生体で航路を確保した。
「あれは少々勿体ないことをされたのでは?」
安全海域へ出た聖櫃たち。
掲げる組織名が“騎士団”だけであって、中の人々すべてが騎士ではない。
ま、守備隊の20名前後くらいだろう。
腕を組み、光が指し示す先へじっと見つめる長髪の男は...
「いや、ドラゴンの解析は終わってる。地を這うトカゲからでも再現は可能だし、ペットとして飼ってる間も、煩く親を求めて泣かれるのは困るのでな。考えてみろ、徘徊竜のヨルムンガンドが我らの先で待っていたら、一戦も止む無しになる...ま、ニアミスはたびたび起きては、いるようだがな」
ため息が出た。
大きく一つだけ。
「さい、ですか...」
こっちの男は、生物学者のよう。
ドラゴンの幼生体の研究をしてた――ひとつくらいはと、進言したのも改造とか模倣とか、そういうのに使いたかったクチだったに過ぎない。ペット気分じゃないし、エサをやるのは面倒だと考えてた。
《試験管の中で飼えれば十分なんですがね》
「ま、そのサディスティックな思考、嫌いではない」
そういうやり取りが、その時には遭った。
灼熱のスルトの山には今、近づかない方がいい。
巨長カイザー・ヴィルトでさえ付近を飛ぶことはないほど、空気が灼けるほどに乾いているという。
ま、要するに...
四方へ散った子を救出にいった親族たちからは、幼生体の無残な姿が報告された。
全身に刺し貫かれた杭と、四肢を捥ぎ取られて蛇のようにされてたという。
高い治癒能力がある竜種は、これでも時間さえ賭ければ元の姿に戻ることが出来る。
しかし、それを妨げるアンチマジックの魔紋が刻み込まれてたという。
竜王の知識をもってしても解除法が分からないのであるから、怒り心頭であることは容易だ。
◇
まあ、そういう事情も知らないボクらは、危険と言われる航路は最初から選ばなかった。
いや、もしも選んで飛んでたら...
どんな災難に見舞われてたことか。
「マルの考えは現実にはならない」
アロガンスの指摘。
ん?
ボクの考えを読んだの??
「ポップアップしている窓が出ているわけじゃないけど、分かりやすい顔をしてるからな...ま、それはいい。聖櫃らの航路は、四領を出発点にしているからだ。四領は、三方をぐるりと三領に封じられているのが特徴で、この魔界で屈指の版図というと...第三魔王領だろう」
第一魔王領と第二魔王領は、天領の盾としての機能が優先されて大して広くはない。
穀倉地帯として開発された第三魔王領が、異常にデカイのだそうな。
ふ~ん。
「気の乗らねえ受け答えしやがって」
頬をつねられた。
その際、
「マル、おまえ...なんか、いい匂いしやがるな」
って囁かれた。
ん? 新手のナンパ???
「ほう、これがマル吸いの正体ってこともねえか、ぶっちゃけると...旨そうとか。いや、違うな...香ばしい、か? まるで...フライドポテ...」
ああああああああああ!!!
奇声を上げながら、エサちゃんが飛び込んできてボクの上に覆いかぶさった。
ついで跳ね仰け反った折、エサちゃんの踵がアロガンスへクリーンヒットしてた。
うん、すげえはエサちゃん。
でも、重い。
ボク、死ぬ...
「...っ、どこまで話したか?」
復活のアロガンス、ダメージは引きずってる模様。
「ウナちゃんのパンツが、三十路とは思えない水色の縞で、子供っぽいという...ところまででデス!!」
エサちゃんはニヤリと微笑む。
「ああ、そうか。頭の中はちと判然とはしないが、い、あ、まあ...陛下のパンツの趣味は昔から縞柄が多いな。プリント付きを履いた時もあるけど、ま、あのミニマムなサイズだろ? あれがコンプレックスでなあ、いろいろと紐だのティーの字のバックだの、フロントだのと試行錯誤はしたみたいだけど...幼児体系に犯罪のようにしか見えん。で、縞に行きついたというより出戻った」
ってところで、前歯が折れるくらいの勢いで殴られた。
いや、膝蹴りも入ってる。
下手人は、ウナちゃん本人だ。
涙目ではなく、赤面である。
うん、それマジで止めてあげて...それ以上は死んじゃうから。




