- C 461話 勇者の備忘録 1-
誰にも相談できないことがある。
ベックはそう、ボクに話しかけてきた――
◇
少し話を戻そう。
ボクは高高空にあった、飛行ゴーレムの研究科に通ってたんだけど。
まあ、彼女たちは普通の研究員で。
スライムロードを煮込んだら何が採集できるんだろうって...すごい素朴な疑問でボクは彼女たちに付き合うことにした。いや、本当はボク自身もその疑問に興味を持ってしまったんだ! だって水属性っぽいゼリー状のスライムに、さ。
知性が宿ったら、どんどん進化していって最強種、ロードになったんだよ。
その生物を煮込んだら......
やっぱ、出汁が取れると思うよね?
結論を先に言うと。
マル汁が採れた。
ボク自身も驚いたけど...固有ネームが付くとは。
効能は――高純度の治癒薬になる。あるいは、回復力の高いマジックエナジードリンクになるという、ウイッチたちにとってはこっちの方が魅力的な産物だったようだ。
そしてもう一つ疑問が生じる。
ボクの仲間たち、
つまりは......他のスライムロードにも、同じ汁が採れるのか、と。
ちょっと胸を撫でおろした。
いや、ハナ姉やヨネも煮込んでみよう、とか思われなかったことだ。
コメ家なら何でもいいとか。
「湯加減は?」
と声を掛けられた、ボクは...口を三角にしてパクパク動かすだけだった。
そう、煮込まれすぎて熱中症みたいな状態になったらしい。
水分補給のため塩水に投げ込まれて、
そのあとの記憶がない。
気が付けば――フレッシュトマトの爆心地の中にあった。
きっと誰かを巻き込んだのだろう。
《蘇生魔法術式起動!!!》
無詠唱で魔法が使えるボクが、術式の起動を叫ぶ。
多角形の魔法陣が、縦にも横にも幾重に広がっていくんだけど...ここまで大掛かりな魔法にしなくてもよかったと思う。普段のボクならば、だ。
でもさあ、記憶を失うその寸前までは朦朧としてた。
熱中症みたいな感じだと思ってたけど。
あれさ。
煮込んで出た出汁のこと、あれ、ボクの魔力が絞り出されただけなんじゃないかと思うんだわ。
それで...
でも、そんなことはいい。
今は巻き込んじゃった人を助けることが必要で。
◆
“コウテイ・マンタ”級飛行ゴーレムの中では騒然としてた。
そりゃそうだ。
天日干ししてたボクこと、マル・コメが落ちたのだ。
ハナ姉は、提督や艦長に次ぐ地位として迎え入れられた存在で、絶対に怒らせてはいけない存在だったっぽい。
その彼女が起こってるんだ。
研究科の失態は大きい。
また、煮汁も魔力の絞り出しというのが、調査されるとさらに立場が悪くなった。
ボクが温泉に入る気分で通ったことが、仇になったようだ。
「先ずは彼女たちの処分ではなく、この高さから落ちたマル・コメさんの安否です!!」
というのは、医療班長。
エサちゃんは、ウナちゃんとともに泣き崩れてるし。
いや、ウナちゃんはボクに拷問した件があるんで、ここでハナ姉の逆鱗に触れ自分可愛さに泣いてるに過ぎない。
うーん。
「どこから探す?」
「生きている前提ですか?」
ハナ姉の目に怒りの炎。
医療班長も押し黙り、
「怪我程度としましょう」
「あの子は死なない!!」
言い切る理由はない。
ただ、デスペナアラートは聞こえなかった。
それだけ。
でも、死なないと思う根拠、薄くなくね?




