- C 361話 天領始末記 5 -
「ご報告! ヤウ公爵軍さらに7里後方へと下がりました」
怪鳥ゴーレムが、高空から周辺の状況を監視している。
北方貴族七雄の残り三雄ってのが、戦準備しているとも考えられるし――先に手を出したとはいえ、ここで中央平原に再び内戦の兆しは、天領としても見過ごせなくなる。キルダとしては、単に船が欲しかっただけなのだから。
「いや、それは面目も無い」
事情を深く知ってしまうと、いささかハナ姉も委縮してしまう。
豪快が服着て歩いてるようなのも、虚勢に近い訳だし。
「その面目ないっての...どこまで本気なんだい?」
セラフィムは、コンテナから肉を拾ってくる。
まだ暫くは逗留することになったので、四領から都合してもらったコンテナの整理に戻っている。
仮に、ハナ姉らの珍登場なんてのがなければ、生ものなどはおいていく予定だった。
「で、...」
セラフィムの拾った肉をキルダが所望。
フィズが包丁を握って待機中。
肉の方は、ベーコンのような燻製肉のようだから...
火を通せば、ワンチャンス!
「...っ、ま、まあ。1、2ミリくらいには悪かったなあって...思ってるけど。だったらちゃんと言って欲しかったよ。私もマナタンク落としたのも、別に態とじゃなく」
指を噛む。
ちょっと塩味がするらしい。
ハナ姉は仰いでたんだけど...
「わかった、思ってもいない。全然だ!!!」
「全然ってのは、」
「四領の方の戦争が明けて気が昂ってたんだ! 確認はしたが、返事を待たずに降りてたんだ」
悪いかよってセリフまで飛ぶ。
まあ、あんま反省してないってのは、わかった。
「責めてはいないが。私らを忘れてた...って言わなかったか?」
ジューシーな肉の、灼ける匂いがする。
天幕の裏でフィズが調理していた。
セラフィムは、付け合わせのサラダなどを用意している。
「で、レンさんは何するんで?」
「お、いいねえ...前のアバターは調理師をメイン職業にしてたけど。今回は!! 何もしな~い!!」
自慢気に、溜めるところでもない。
彼女曰く――食って、寝るだけ――だそうな。
いい身分ですなあ、賢者って。
「魔法で“美味しくな~れ”とか唱えて来いよ!」
「いや、そんな魔法がそもそもねえわ!」
使えないってハナ姉から飛び出した。
んで、レンさんが彼女の頭を小突く。
二人がにらみ合い、その板挟みになるキルダさんが止めに入って。
今日もにぎやかなキルダ陣営である。
◆
一方、鎮火した現場からヤウの遺体を引き取った、ベックは静かだった。
お調子者でも、思い悩むことはある。
侍女長が、腹に入るものを作ってきてくれた。
「粥ですが」
「すまない...忙しくしていた時は、振り返らずに済んだんだけどな」
ひと段落ついている。
公爵の葬儀も考えるとすると、一度、御料に戻る必要がある。
弔い合戦ってのも考えなくはない。
が...
「俺は一度、退こうかと思うんだが...相談すべき相手がいない」
侍女長の手を引かれた少女も、ベックの横に立ち。
「うん。手勢の多くを失ったし、天領の寡兵に蹂躙されたからね。箔どころか泥を被ったよね」
少女は、ころころとほほ笑んだ。
これは苦笑にちかくて、
ベックの、大きな手の指を掴んできた。
「う、ん?」
視線を落とすと、10代前半のような雰囲気のヤウがある。
彼女は苦笑しながら、
「...ちぢんじゃった」
だって。
ちょっと飲み込めてないけど。
キャベ族の数百人にひとりの割合で、特殊能力を授かる個体があるという。
ヤウは不死鳥と同じく、炎属性で焼死した場合に限って、復活するというギフトがあった。
まあ、これで3度目の死であるという。
「や、ヤウ?!」




