- C 345話 侵略者たち 20 -
「肩書があるなら、それを利用しよう!」
ってのが策士。レニーホールドの言葉。
彼女の膝にキルダが横たわってた。
勘定を終えたレンを見上げるキルダは、やや物欲しそうに――
「んー、なんだい?」
レンの気を惹きたかった。
それが叶ったわけだけども。
「膝枕とは、な」
「聞きたい事はそれではないのだろうけど、そうだねえ。君が...そうして欲しそうな表情だったんで、お姉さんぶってみただけかな。まあ、たぶん...同い年だろうけども、キルダは自分に厳しくいないとダメだと思ってたんだろ」
髪を解し、
額を撫でる。
頬に手を当て――銭の金属臭がする。
家族でもしない、
頬をぷにぷにと触っていた。
柔らかい。
見た目通りのお年頃。
もちもちの肌に、ツヤがあって...化粧でもすれば見違えるような傾国の――になるだろう。
「いつまで...こっちにいる?」
本当に聞きたいことのひとつ。
「期間は決めていないけど、ここに来たのは勇者の同行者である、役回りからだ。自分の意思は介在していなかったけど...そうだなあ、ここを去る時はあ、私の意思に寄るだろう。でも、こんな甘えん坊を残して去る気持ちは、そうだなあ。今はないかなあ」
だって。
惚気の物語。
この場にセラフィムが居たならば、
囃し立てて、キルダの涙目も見れたかもしれない。
「じゃ、ぎゅっと...して」
「ぎゅ?」
「そそ、手で頬をぎゅーって」
甘えん坊さんの甘い甘いやりとり。
露店は店じまいしてるけど、天幕からは桃色吐息のソレが聞こえたとか、ないとか。
◆
公爵軍の戦力は、国元(本荘)に4万、最前線に5万という大軍である。
すでに北方戦線の七雄という、大貴族たちの四雄を平らげてきた。
激戦を潜り抜けてきたのだから、顔付きも精悍である。
《...っ、心細い》
冒険者から拾い上げられた男は、天領軍の使者としてひとつの天幕が与えられていた。
結局、ベックという男を探し出すこと敵わず。
得体の知れない従者と相対してた。
ヤウ公爵からは、ベックの捜索が別の理由で、発令されてるんだけども。
その捜索隊から免れるために...
彼、使者の懐へ転がり込んでた。
「し、っしかし...な、何でござろうなあ......騒々しい」
会話が続かない。
酒場の女どもに聞かせる武勇伝とは違うものがある。
あれは、自慢話とホラ話だ。
それで場が盛り上がれば、それでいいってもの。
宴会芸みたいな、とこか。
さて――
腕が震えて、盃の酒が飲めない事なんてのは、何時頃の事だろうか。
「確かに騒々しいですねえ」
太い首を撫でながら、
ぐいっと一気に酒を流し込む。
火が付いたように赤くなって、炎でも吐きそうな勢いで息を吐く。
「くぁあー、辛い!!!」
魔界の酒は、つくる御料地ごとに味が違う。
そうだなあ香りとか、癖も...違うなあ。
「あ、あんた...」
「あん?」
「五領のは火酒ってな、冬が厳しくなるからってんで結構な癖がある。地元の冒険者でも...ちびちび飲むもんだが」
ほほう、なるほど。
こいつが地元じゃないと気が付いちゃいましたか。
「そっか...」
ベックとしちゃあ悪気はない。
そういうタイプの飲み方にも、敵が生まれにくい。
やや、気が晴れたように緊張しきってた使者も、
「そうかい、そうかい...そういう事かい」




