- C 344話 侵略者たち 19 -
「こ、これは失礼した...
――我は、キルダ・ファイルが配下の者。勇者ベック殿に書簡を渡したく馳せ参じた次第。いずれかにのそ御仁が居られるかお教え願いたい」
ってな口上で、現れたのがセラフィムによって送り込まれた、冒険者ギルドの戦士だったりする。
魚臭い男で、使い古された指空きのグローブと、年季の入った鎧一式からは、とてもエリート集団である天領軍には見えなかった。
しいて言えば、騙りの類の傭兵崩れと...そんな感じに見える。
そう見えるように振舞わせてただけとも、言えなくもないけど――まあ、わざわざ小奇麗な連中に、だ。そんな恰好にさせる必要もなく、だれがどんな目で見ているかなんてのも、ねえ。
でも、五領の行動は...さ。
天領のみならず、送り込んだセラフィムも知っておきたかった――こんな生臭いのが使者だと知った五領人らはどんな持て成しをするんだろうってね。
ベックの目から見ても、思惑は察しが付く。
《ああ、これは試験なんだ、な》
それさえ分かれば、あとはまあ。
「貴殿は、この陣屋の戦士。いや、いずれかの御家中の者でぇ...ござろうか?」
使者はベックの顔を知らない。
当然、セラフィム姉ちゃんも知らないから。
賢者に容姿の確認はしてた。
「あ、アレのか...えっとねえ。見ればわかるけどネコ科なんだけど、でっかい熊! もう、そんな感じだよ!!」
大雑把すぎる。
虎だよ、虎。
人虎族――つまりは、ワータイガーって種族の戦士階級にて生を受け、巨躯にまで成長させた。
えっと確か、パパが云ってたのを紐解くと、数シーズン前に“ワイルドタイガーの伝説”っていう、種族限界突破クエストを連続ストーリー分消化したらしく、ステータスはほぼカウンターストップ傾向にあるという。
その連続紙芝居中に、獣王と出会うきっかけを得たんだとか。
◇
再び、ベックは使者を見下ろしてた。
無言で他人を見る事はそうない。
大概は...自分からコミュニケーションを取るようにしてた。
だって、ヤウ公爵の連中は、未だベックのことを仲間だとは思っていない。
そもそも夫人を孕ませたのだって――。
《御家中と、きたか...》
そう見えるなら、と。
彼は軽く会釈した。
使者という男もベックを知らないから、寡黙な男に会釈する。
「ふむ、無口であるな」
「へえ...」
「さて、ベック殿であるが...何処におられるであろうなあ」
あなたの前で、ほくそ笑んでいますけどね。
って天の声で伝えてあげたい。
だけども...
こっちはこっちで、腹の探り合いだろうから。
「ちなみに卿への言伝というのは?」
「ふむ...卿とは?」
「ええ、ベックさまの事です。公爵閣下をお助けに成られまして...」
嘘ではないけど、誇張もしている。
使者の目を通して斥候が見て、
斥候の言葉をセラフィムが吟味するという構図がある。
まあ、このシステムに気がついているかは不明。
「...」
「仮ではありますが、騎士爵の叙勲が執り行われました。ですので、今はベック卿と...呼ばれております。御出世されるお方はオーラが違いますねえ」
肩をすぼめて、彼自身がオーバーなリアクションを取った。
首も振って見せて、
預かりたいなあなんて、棄て台詞を吐くのだ。
これを同僚の誰かが聞いてたら、失笑されてたかもしれない。
「な、なんと!? き、騎士爵か!!」
使者はの驚きはそのまま斥候へと繋がった。
その先にセラフィムがある。
◆
「賢者レンよ...」
念話によるセラフィムの通信が入った。
賢者は、勘定の最中だったけども。
「情報通り、公爵軍は街に攻め込みそうかなあ?」
「いや、今は6里手前の衛星都市に入ってるようだ。この港街の副都市と聞いているが、進軍の足が止まった事情は今の時点で、推測のしようもない。ただし、無役だと思われてたベックだが、使者を通じて“卿”騎士爵を得たという話だが...どうしようか?」
相談というか。
事後報告だ。
「いや、肩書があるというのなら...それを使おう!」




