- C 340話 侵略者たち 15 -
馬を走らせ、盛り土を上る騎士らを待っていたのが銃弾の雨だった。
深い堀からは、その上にある陣地が見えにくい。
もって、ガリムの城さえも見えないのだ。
堀に入るまでには、目視で目標を定めてたはずだ。
が、いざその時となると如何だろう。
覆い被さるような土壁の前に、集団心理で方向感覚が欠如する。
あれ、俺たちは今どっち向いてるんだっけ?ってな、アレだ。
◇
枢機卿は、馬上から指示してるけど。
兵たちが上手く動かない。
攻撃してくる兵が、その堀の近くに居ないから...
とにかく這い出して見たら、落とし穴に堕ちたみたいな事故も散見された。
それは本当に、事故なのだろうか。
暫くすると、最前線から逃げかえってくる雑兵たちが出る。
戦う事が俺たちの本望みたいな、狂戦士たちが逃げてくるのだ。
異常でしかない。
◆
「それでおめおめと...枢機卿も逃げ帰ってきたと?」
ちょっとキツイ言い方だったけど。
モル陛下の言葉には逆らえない。
事実、枢機卿は逃げかえってきた――損失の兵は全体の1割にも至って無い。
それでも...兵士が逃げ出したのだ。
「ガリムを、半円形に囲んだ長大な堀切。其処からそびえる巨大な壁...俺たちの領国に入り込んだ敵ってのは、他人の土地に飛んでもない要塞を残していきやがったな」
陣屋の中の全てが『へ?』なんてマヌケな声を出す。
だって、ジンは..
いや、魔王はもう、敵がいないようなことを呟いたからだ。
「最後の残り香をお前らは嗅いだんだろ? どんだけ臭い屁をかまされたかは想像に難くない。いやいや、枢機卿ら付き合いいいよな」
魔王ジンの高笑い。
豪快に唾飛ばして笑ってた。
「旦那さま?」
「あ、わりぃ...六領の奴らはもういねえだろ。モルのヤツが借りたレンタル砲で、こっちの尻の毛まで毟られた砲弾が、ガリムの本丸も直撃させたんだ。でなけりゃあ、死ぬ気で戦うってのは六領も同じさ。あそこの魔王も、戦と女は大好きだからなあ」
碌な奴が居ない。
魔王ってのは、最低ですね。
――なんて呟いたら、ムヒ姐さんから尻を叩かれました。
彼女曰く、
『魔王とは、統一王朝を守護する各地の藩主、太守なのです!』
だって。
王さまじゃないんだ...
「ただなあ、如何っすかなあ...」
ジンがもじもじ、くねくね動く。
こうキモイというか。
「煮え切らないですわね!!」
あ、やっぱりモル陛下がキレた。
バシバシ背を叩く。
怯える枢機卿。
「ぶほぉ、...いや、要塞残してったろ。攻略しなくちゃダメかな? アレ...」
要は、ジンの勘では触らぬ神に祟りなしなのだそうな。
ただし放置するのも障りが悪い。
パンツの中でイチモツが、普段より左へ鎌首を擡げてるような、おさまりの悪さがあるらしい。
そうですか...
ボクには分かりません。
「枢機卿どの?」
モル陛下が振る。
難しい顔で...
「なんで私が、女王に障りの話をせねば成らんのですか!!!」
ごもっとも。
部下にと、振り返ると――「枢機卿しか残ってませんもの」――と、女王は告げた。
この天幕には3人しか居なかった。
従者や奴隷は、ノーカンである。
「そんなあ~」
◆
六領軍リンクス殿下御一行とは言っても、敗軍である。
ガリム城からけが人を、運び出すのに難儀したような軍にも見えない。
征伐にかこつけて絞り出された農兵にしては、精悍な顔つきにもなっただろう。
「アニキ?」
集まる従弟妹たち。
リンクスが最年長者であるから、頼られるのも責任と義務の一環である。
そういうものだと理解してた。
「心配するな、王陛下も何もできないさ」
孫や曾孫を罰すれば、その父や母が敵に回る。
まして総司令官であるパブロンの逃亡は、すでに軍務相の耳に入ってる頃合いだ。
「軍務相は、元帥が失脚することに喜びを感じるタイプ。何も心配することは無い...」
と、馬上から勇気づけてた。
ま、遊興中の魔王にも“元帥が陣中より失踪せり”なんて報せが届いてて、王はその場で伝令兵を叩き殺してた。
六領もちょっときな臭い感じで、ゾッとするんだけど。




