- C 339話 侵略者たち 14 -
ベックとヤウ公爵夫人の一軍は、連戦連勝だった。
北方戦線で戦ってた有力な豪族たちが、ベックの調略によりごっそり引っこ抜かれたのが大きい。
「今でも分からぬ、何故、豪族らは味方したのだ?」
この話は、夕餉を共にするたびに話してたものだが。
やや、頭を抱え...
「彼らが本当に欲しいものであったから成立したんだ。...そうだなあ、この世界での収入源って何だと思う?」
公爵という身分に問う内容でもない。
ただし、彼女が身分相応の本当の貴族ならば、この講釈そのものが茶番でしかない。
彼女の出自はジンの姉という立場だけだ。
確かにある有力な族長の娘だ。
が、それ以上ではない。
貴族教育されてきた訳でも、特別な身分制度の人じゃないから、感覚的には村長の娘的な域を出ない。難しい料地経営や、借財とか財産なんかも他人任せだったところがある。
それで損したとは、本人は思っていない。
考えたことも無かった。
しかし、ベックはそれを知っている。
「そこで頭を抱えられると、俺の方も困る」
「むむ~う、うん?」
子供っぽく唸って、毛皮の敷布の上に転がった。
今は野営の天幕にある。
「土地だよ、正確に言えば“耕作地”だ! 麦や米でもいい兎に角、口に入る食料を作ることがひとつ。他にも豊かな草原、豊かな水源、豊かな森に山などがあれば、肉や毛皮が手に入るから、これもそれぞれに財源となる!!」
「水とはなんだ?」
金の盃の中を見る。
水が入ってる。
飲み干せば無くなるけど...
「それはな、酒に変わるんだ。果実酒や、蒸留酒なんかも水の質で、随分と変わるものでな...作り手の者たちは“水”にこだわりがあると聞く。できれば、豪族たちの中で酒造りに精を出す者があれば、だ。水源のある土地をエサに働かせるというのも...手段のひとつなんだ」
ベックのは受け売り。
だけど、モノにはしてた。
獣王は、彼に領地経営と人の動かし方を伝授させた。
いずれ必要になるだろうって。
まあ、それは――愛娘の婿といういう意味だったのだけど。
「じゃ、じゃあ」
「有力かつ仁に篤く、義理堅い豪族だけを引き抜いてる。差別は、恨みを買うから...すべての豪族たちには親書を送り誘っておいたけど、真に欲しかった友には、最も具体的な条件で調略した。靡くか靡かないかなんて賽を投げるような、確率ではなく...確実に手に入るよう仕向けて、引き込んでおいた」
十全なる諜報活動。
および工作活動にも、気を配った。
攻略する貴族たちの領地も、予めランク付けしておいてある。
有力豪族が、子飼いの従士に成るよう手配までもした。
ヤウ夫人の周囲は驚嘆と怖れを抱く。
ベックの手腕と行動力に、だ。
「それでは...お前が私の部下に」
「ああ、気分のいいものではないだろう。今のところ、表立って排除してこないのは――君の寵愛を一心に受けているからだろうな。で、ここまで説明されて...君はどう思った?」
ナイフは坐しているヤウの真横にある。
一度は転がり、
再び、上体を起こしてベックと相対してた。
胡坐をかいた膝に肘突きながら、
「お前は、如何して欲しい」
「参ったな、君は公爵の顔も出来るのか!!」
彼女はやや困っているけど。
ベックは、
「君が抱きたい」
◆
六領軍の引き際が読みづらかった。
明らかに指揮官が変わった、という瞬間はあった――斥候で潜ってた者たちが、元帥が逃げていく姿を目撃したからだ。これで瓦解すると、誰もが予測し、枢機卿でさえ警戒心を解いたのだ。
全軍を以て、ガリム城塞を襲撃した。
全く抵抗が無かったのは、外堀の深い第一防御陣地まで。
気をよくして突っ込んだでは、良かった。
第一防御陣地から、第二防御陣地までは緩やかな坂になってた。
盛り土がしてあって...
中腰にさせられる造りだ。
上体を起こすと、途端に尻もちをつく。
「深く掘り下げた堀の土砂で、盛り土か...小癪な!!!」
慎重な枢機卿から、この言葉を引き出すだけでも値千金。




