カネが逃げる財布を持っている――
「借金が増えた?!」
甲高い声が、ギルドの奥から聞こえてきた。
私はノワール・シャッス。
傭兵ギルドに加盟しているソロのなんでも屋だ。
もっぱらは私掠海賊なんかをしてたりする。
どこの?
まあ、いったりきたりの流れ者だから。
私掠許可証なんてのは偽造に決まってるってやつだよ。
危ない橋を渡ってるから、敵も多い。
「いったい幾らだ????」
って吠えてるのは、ギルド長だ。
数少ない友人で世話好きな男。
ナリは小さいけど、まあ、あれだ――中身がいい女だからさ、きっとほっとけないんだろうねえ。
美人は辛いなあ~
「何、バカな事言ってんだよお前は! ほっとけないのは、ちょろちょろと動き回って危なっかしいからに決まってるだろ。出るトコ出てからいいな」
ってギルドの帳簿整理している、会計のおばさんに怒鳴られた。
彼女もれっきとしたプレイヤーでギルドを切り盛りしている。
うん、役柄も自由に選んで遊べる空間ってのは最強だな。
「うーん...三白眼エルフの言うには、4M(400万クレジット)っぽい」
羽振りのいいクエストをリザルトで周回するれば、早くて5いや、6回くらいでゼロに出来るだろうと。
って、でも。
羽振りのいいクエストは、一日中張り付いていないと引受枠が、すぐ埋まる傾向にある。
と、なると...
ギルド長は首を横に振った。
「ノワールじゃ飽きっぽいから周回の途中でふらっとどこかに行きそうだな」
って。
性格をよくご存じで。
私だって借金は返したい。
でも、チマチマ...じゃ、ギャンブルで一発って思っちゃうのが良くないのだろう。
分かってるんだよ、分かってるけど。
「そりゃ、典型的な依存症患者の理屈じゃねえか!! おまえ、なあ、そんなんじゃ嫁の貰い手がねえぞ、マジで」
親戚の叔父さんや、叔母さんもそんな事、言ってたような気がする。
“お金貸して”って、にこやかに微笑みながら問うと。
“もはや、金をくれ”と無心された方が気が楽だよ......ホスト通いとかじゃなくて、はたまた物欲、霊感に注いでるんじゃなく“夢”とかでもないタダの沼に注ぎ込む阿呆に貸す金はねえんだよ――って。
で、縁があっさり切れたのを今でも夢で見る。
男運も悪くて、金運もとくれば...あとは、身体だけか。
「何考えてるか分からんがな、生きてりゃなんとかなる。とりま、周回しやすい簡単なクエストを優先的に回してやるから、仲間と相談して熟してみろや。で、風呂入ってこい!!」
って手拭いを顔に投げかけられた。
磯の香りがする。
「見てるこっちが参っちまうほどの蒼い顔だ」
鏡が無いから、窓ガラスに私の顔を映した。
青いって言うか、やつれてるような疲れた表情だ。
確かに誰かに見せる顔じゃない。
「空いてる船はあるか?」
「ん?」
どういうこと。
「小舟でもいいが、交易路のエリア警戒ってのが、最近追加されたんだ。こいつはな、3時間、6時間12時間という具合に警戒させる時間を設定して、乗員たちのスキルとパークの熟練ポイントを稼ぐ...所謂トレーニングモードなんだけどな」
ふむ。
初心者育成モードの一環かな?
「小銭も稼げるから、余ってる船があれば活用してみるといい」
ほう。
放置プレイか。
ちょっと違う意味にも聞こえなくもないけど、まあ。
簡単に言えばそういうこと。
わるくない。
「気の散り易いお前さんにピッタリだろ!!」
それが一言余計なんだよ。




